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無間地獄をくぐり抜け…

陽の光を浴びて真っ白に輝く、大きな大きな観音像。

神薙透子が覚えている一番古い光景がそれだった。


「あれ、中に入れるんだよ。」


父親は車を運転しながらそう、助手席に座る彼女に告げる。

年末年始の帰省の時期。

当時、幼稚園児だった透子にとって、それは素晴らしい冒険だった。

高速道路を走る車内でも、帰省先の母親の実家でも、彼女は小さい子供らしく、はしゃぎ回った。


…その翌年からの事だ。

徐々に、視力が下がり始めたのだ。


「観音様が助けてくれるから、大丈夫だよ。」


祖父や祖母はそう言って、透子を励ました。

しかし、その甲斐も虚しく、程なくして彼女は視力の殆どを、失くした。


…これも自分の運命だからと、子供らしくもない覚悟を、幼い心の中で固めたのを覚えている。

その頃から押し固まっていたかの様な精神が今まさに、温かな光を浴びて、溶けて流れる。

激しく周囲を見回しながら、ただひたすらに感嘆する。


「見える!見える!凄い!」


薄暗い店内で、神薙透子は驚嘆する。

メロウな雰囲気の漂うカフェの中に若い、生命力そのものであるかの様な、声が反復して鳴り響いた。

しかし天野愛は、それと同じくらいの声量でもって、悠達に質問を浴びせかけた。


「えぇ?えぇ?どういう事なの?ユウちゃん達、今までどこ行ってたの?見えるって何?何がどうなってるの…?」


「座って、どうぞ。」


と洪健は愛をソファーに着座させて答える。


「僕ら神話領域という異次元に行っていたんだ。それで今戻って来た。」


「ええぇっ!」


「神薙さんはそこで、息壌という怪物に頭を飲まれかけて、その影響でかは分からないけど、目が見える様になっている。」


「えええぇぇっ!」


「そしてあなたはこれから記憶を消される。」


「ええええぇぇぇっ!!」


ピカッ


瑞羽が彼女の目前で、手のひらサイズの銀色の円筒状の物体をかざして一瞬、点灯した。


「…!」


瞬時に意識を失った愛は、テーブルの上に突っ伏す様にして、崩れ落ちた。


「大丈夫?彼女、今月それで二回目でしょ?」


薬師丸クイナが近づいて来て、瑞羽に尋ねる。


「…まぁ、若干脳みそがトロケてるかもね。」


悪びれる様子もなく、答えて言う瑞羽。

そして…


「あああああああ!」


意識がある全員が神薙透子の方を向いた。


「眼が、見えなくなりました…。」


シュンとして、彼女はそう言った。

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