【月】×PEDIGREE 五
刀真には不安があった。
昨日、宇佐美の家を後にした時の話である。
自分の過去に対して、仁と穂乃果は特に何かを言うことはなかった。
自身は進む決意をしていても、簡単に受け入れてもらえるような話でもない。
「ごめん。」
沈黙が続く帰り道、刀真はぼそっと二人に謝った。
「何がだ?」
「僕の──過去のことだよ。」
「だから何がだ?」
少し怒った様子で聞き返す仁。
返答を待たず彼は刀真の胸ぐらを掴んだ。
「前に進もうと決めたんじゃねえのかよ?」
「それは──そうだけど、」
「じゃあ良いじゃねえか、お前は俺の過去を受け入れてくれた、俺も同じだ。」
仁なりにフォローしてくれているのだろう。
過去なんて関係ない、と彼は怒っているのだ。気にするだけ無駄だったことに安心した。
穂乃果の方へ振り向くと、彼女は変わらず無表情だ。
「白枯木さん。」
「安心して、誰かに言ったりしないから。」
刀真の言いたいことなどお見通しのように、食い気味で言葉を告げた。
「まあ君の過去がどうであれ、私には関係ないわ。」
「でもありがとう、月島さんのことずっと気にしててくれたんだよね? 白枯木さんみたいな友達がいたから月島さんも少しは救われていたんだよ。」
「あら、友達じゃないわ。」
だってほとんど話したことがない、と穂乃果は否定する。
「月島って苗字や道場生時代に見たことがあったってだけよ。」
「でも君は僕に気を付けろって。」
「変に浮かれてるクラスメイトが斬られないように注意しただけ。」
厳しい言葉に落胆する刀真を穂乃果はクールに笑った。
「まああの手のタイプは──」
言い掛けた途中で曲がり角へと差し掛かり、立ち止まる。
「じゃあ私はこっちだから。」
「うん、またね!」
「じゃあな白枯木!」
去って行く二人に手を振ると、穂乃果は振り返り進んだ。
彼女は敢えて言わなくても良かったと思っていた。
その方が面白いと考えたのだ。
「これからが大変かもね。」
自分でも不思議なくらい笑えるのは、黒霧学園に通うことの意味が少しわかったからだろうか。
深くは考えず、穂乃果は帰路へと着いた。
翌日、学校へと着いた刀真の席はとても騒がしかった。
「刀真は今日俺と修行するんだよ!」
「私が先に誘ったって言ってるでしょう!」
彼を挟んで仁と宇佐美が口論を繰り広げる。話題の中心の筈なのに、刀真はまるで蚊帳の外といった感じだ。
「お前となんか修行したらまた刀を抜けって言われるだろうが!」
「あんたなんかと修行したら余計に刀なんか抜かずに拳で戦いだすわよ!」
「まあまあ二人とも──」
「刀真(斬咲くん)は黙ってろ(て)!!」
永遠とこの調子が続き、口論は終わりそうになかった。
その奇妙な関係性にクラスメイトは不思議な眼差しを向ける。
「斬っち最近モテモテだなあ。」
「あの不良の園柳だけでなく月島さんまで。」
「羨ましいィ!!」
思ったより良い噂では無さそうなことが、刀真の唯一の悩みとなった。
少し疲れた。二人が言い合いに夢中になっている隙に席を立つ。教室の入り口で休んでいると、穂乃果が登校してきた。
「あら、おはよう。」
「おはよう、なんか大変なことになっちゃった。」
穂乃果は仁と宇佐美の様子をみて納得したのか、ニコッと笑ってみせた。
「だから言ったじゃない、月島宇佐美には気を付けなさいって。」
「え? それはもう終わった話で──」
穂乃果はそれ以上は語らなかった。
一年三組では唯一、彼女だけが気付いていた。
自分と話す斬咲刀真の様子を、顔を赤らめて見つめる彼女の変化に。
【月】×PEDIGREE──終──




