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サムライ×KILL  作者: 45
【一】──黒霧学園──
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【月】×PEDIGREE 四

だが二人は刀を抜かなかった。

抜こうと動きもしない。ただ黙って暴力を受け続けていた。


「どうして刀を抜かないの!?」

「黙れ──!!」


叫ぶ父の瞳は恐怖に怯えていた。


「お父さんとお母さんはね、“弱い”んだよ。 この世界は“弱い”者は“強い”ものに従うしかないんだ!!」


その時、宇佐美の中で信じていたものが壊れていった。


借金の問題は詩美によって解決されたが、彼女の心には傷が残ってしまった。

それは成長して尚、深まるばかりだ。

詩美は宇佐美を両親と絶縁させ、自ら引き取って育てることを決めた。


「今では祖母想いの良い子に育ってくれた、だが宇佐美の侍魂は今も“力こそが全て”という過去に囚われておる。 やがて両親の血を継ぐ自分にも力が無いと思うようになり、力有る者を一方的に恨むようになった。」

「それが斬咲くんのような、剣の天才ってことですか。」


穂乃果が聞くと詩美は頷いた。


「力があるのにそれを使わないことを許せない──だから宇佐美はその者たちと本気で戦い勝負することで、自分が“強い者”であると証明しようとしているんじゃ。」

「おばあちゃん!!」


目を覚ました宇佐美が叫ぶ。


「余計なことを勝手に喋らないで!」

「だが宇佐美よ、其方の過去を知れば此奴らも理解をしてくれるかもしれん。」

「理解なんてしてもらわなくて構わない。」

「全くだぜ、」


今度は仁が目を覚ます。

無理に起き上がった彼は大量の汗をかいていた。


「人の過去にどうこう言いたかねえが、それで刀真にいちゃもん付けるのは違うんじゃねえか?」

「力をもつ人間に力使えと言って何が悪いの?」

「好きで刀が抜けない訳じゃねえだろ!」

「それもどうなのよ! 斬咲くんは木刀でも刀の力を引き出せるじゃない? 本当はただ隠していて私たちのことを嘲笑っているかもしれないじゃない。」

「宇佐美!!」


詩美の叫びは宇佐美の耳には入らなかった。

過去に触れて溢れ出した感情が止まらない。

流れる涙も全て、己の弱さを表しているようで嫌悪する。


「力があるなら使えばいいのよ──私のお父さんとお母さんは使いたくても力が無かった! それなのにもってる人が使わないなんておかしいじゃない!!」

「僕は──」


ずっと黙っていた刀真が口を開いたことで、全員の視線が移る。


「僕は父さんを殺した。」


そして彼は、彼の忌まわしき過去を語る上で、一番重要なキーワードを告げた。


語るつもりは無かった。だが、それを語ることで宇佐美の心に意味を成すのならば、刀真はそれを語ることを良しと考えた。

当然、宇佐美も仁も驚きと、恐怖に包まれた表情を浮かべている。

それでも刀真は話すことを続けた。


「この刀──黒椿は呪われた刀といって、使う者を呪い操る。 僕はこの刀に呪われて父、斬咲剣義を殺した」

「ウソ──」

「マジかよ。」


二人は信じられない様子で、穂乃果はいつも通りの無表情を貫いていた。

全てを知っていると言った詩美もまた、何も言わずに耳を傾けている。


「それがトラウマになって僕は刀が抜けなくなったんだ。 またいつ呪われるかわからない、制御だって出来ない。 だから抜きたくても刀を抜けないんだ。」

「嘘よ──」


宇佐美は膝から崩れ落ちて、両手で顔を覆った。


「侍になることを諦めたこともあったよ、そんな資格なんて無いって思った。 でも──諦めきれなかったんだ。 幼い頃に父さんを超える侍になるって約束したから。」

「約束──」

「そう約束、それと色んな人たちが支えてくれたおかげで前に進もうと思えた。」


泣き崩れる宇佐美の肩に優しく触れる。

かつて自分が母に救われた時のように。


「君が思うほど僕は強くないし、君は弱くない。 僕らはまだ侍を目指す学生だ、これからなんだって出来る。 刀が抜けなくたって、斬るより殴る方が得意だって、力が無いと感じることがあったとしても──侍魂を失わなければ僕らはもっともっと強くなれる! だから、焦らずに少しずつ一緒に、強くなろうよ。」

「私──」


今は弱くても良い。大事なのは力では無く、侍魂なのだ。刀真のその言葉は、宇佐美の胸に確かに響いた。


いつからかだろうか、宇佐美が詩美の前でも泣かなくなったのは。

強くあろうと振る舞い、祖母の前でも気を遣って涙を隠そうとする。自分の感情に嘘までついて。


本当の心を閉ざしていた彼女の闇を少しだけ、斬咲刀真という男は晴らしてくれた。


詩美にはわかる。


子が引き継いだものは決して剣術の才能だけではないということを。

かつて戦った男がみせた侍魂は、確かに受け継がれているのだ。


今はまだ未熟な彼もいつしか、立派な侍となるだろう。

詩美は刀真を信じようと決めた。


「なんて酷いことを──アアァァ!!」


今はとりあえず、この人目も気にせず泣きじゃくる孫を気が済むまで泣かせてやろう。

それが詩美に出来ることであった。

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