【月】×PEDIGREE 弐
宇佐美は何度か仁の方を見ていた。
彼がいると出来ない話なのか、それとも、
続けて刀を抜くと、刀真に刃を向けた。
「私と勝負しなさい斬咲くん。」
「しょ、勝負?」
頭に疑問が浮かぶ。
宇佐美はそんなことはお構い無しと構えた。
「文字通りの真剣勝負を希望するわ、刀を抜きなさい。」
刀真は理解した。真剣勝負ということは木刀では無い。彼女は“刀を抜け”と言っているのだ。
意図はわからないが、それは簡単には承諾出来ることじゃない、刀真は首を横に振った。
「できないよ。」
「どうして、私と戦うことが怖い?」
「そうじゃない! 突然そんなこと言われても意味がわからないし、僕が刀を抜けないことは君も知っているだろう?」
一年三組のクラスメイトなら周知の事実を口にするも、宇佐美は納得した様子はみせなかった。
寧ろ、少し苛立っているようにもみえる。
普段の彼女からは想像も出来ない、冷たい眼差しで刀真を睨んでいる。
「ふーん、私相手じゃ本気は出せないか。」
宇佐美は歯を噛み締めた。
どうすればその気になるか、答えは単純だ。
彼女が刀をゆっくりと振り上げると、月光は光を放った。
鋭利な三日月を模った光が、宇佐美の手によって解き放たれる。隙だらけの刀真の首元へと真っ直ぐ飛んだ。
刀真は反射的に木刀でそれを弾いた。
重い──今のは斬撃だ。
反動で位置を少しずらされたことが攻撃の威力を表している。
「そっちじゃ駄目なのよ。」
淡々と呟いて、宇佐美は次の攻撃へと移ろうとする。
間合いを詰めようと近づく彼女の前に、気付けば仁が立ち塞がっていた。
「退いて。」
「いや待てよ月島、本気の刀真と戦いたいのは何もお前だけじゃないんだぜ。 俺と戦って勝った方が戦うってのはどうだ?」
どうやら仁はまだ状況を理解していないようだ。
それは宇佐美の苛立ちを余計に募らせた。
「鬱陶しい奴。」
冷たい言葉を浴びされても仁は笑っていた。
「一緒に修行したかったのなら早く言えよな。」
「──呆れた。」
一瞬、宇佐美の姿が見えなくなる。
素早い動きで駆け抜けた彼女の刃が、仁の腹を斬り裂いた。
「がはッ──!?」
「あなたに用は無いと言ったでしょ?」
倒れて腹を抱える彼を見下すように囁いた。
「仁──!?」
刀真の呼び声には反応しない。
痛みで声が出ないのだ。
ふつふつと怒りが湧いた。何故こんなことをするのか、最早どうでも良い。刀真は彼女が許せなくなった。
「さあ、本気出してくれる?」
嘲笑う彼女に対して刀真は木刀を手に取る。
宇佐美はそうじゃないという反応をみせるが、関係ない。静かに呼吸を行い、黒椿の力を引き出してみせた。
「僕は君を──斬る!」
スタートダッシュを切って振り下ろす。
刀真の攻撃を受け止めきれず、宇佐美の体が宙を舞う。まだだ──刀真は続けて高く跳び上がると、彼女の体を地面へと叩き付けた。
「──!?」
骨まで響く振動。痛みを噛み締めている余裕は無い。起き上がる間も無く、次の一撃が迫る。
駄目だ、かわせない──。黒いオーラを纏った一振りは宇佐美を公園の外へと吹っ飛ばした。
決着は着いた。
刀真は宇佐美の元へと近付いて、彼女の容態を確認する。気を失っているが、大きな怪我はしていないようだ。“思った通り”に刀が振れて良かったと、安堵の表情を浮かべる。
仁の方も確認してみると、彼も気を失っていた。早く出血を止めてあげよう。そう思い近付こうとするが、新たな気配に気付いた。
「斬咲くん。」
聞き覚えのある声に振り返る。
白枯木穂乃果だ。後をつけていたのか、いつの間にか彼女はそこにいた。
穂乃果は辺りの光景を確認して、状況を察したのかため息を吐いた。
「だから言ったのに、月島宇佐美には気を付けなさいと。」
「こんなことになるなんて予想できないよ。」
「仕方ないわね。」
もう一度ため息を吐くと、穂乃果は宇佐美の元へと近付いて彼女を背負った。
「何を?」
「私、月島さんとは中学が一緒だったの。 彼女の家まで行きましょう。」
刀真は迷ったが、彼女がこんなことをした理由は知りたい。それに先ずは仁の手当てを優先すべきだとも思い、穂乃果に従うことにした。
穂乃果に着いて行くと、から紅町の外れへと辿り着いた。
広めの敷地に聳え立つ古い館。隣には道場らしき建造物も見える。
入り口であろう門には“月島”の表札がある為、ここが彼女の家であることがわかる。
「じゃあ呼ぶわね。」
誰のことか尋ねる前に、穂乃果はインターホンを鳴らした。
鐘の音のような音声が鳴ってしばらくすると、大きな門がゆっくりと開かれて、中には老婆が立っていた。
「誰じゃ?」
全員の顔をじっくりと眺める老婆の目が刀真の所で止まる。
目を大きく見開いて、老婆は刀を手にするといきなり刀真へと斬りかかった。
「うわ!?」
仁を背中で抱えたままかわすが、刃先は既に目の前へと向けられていた。




