【月】×PEDIGREE 壱
黒霧学園生徒名簿
名前:園柳仁
所属:一年三組 出席番号三番
刀:炎龍丸
特徴:名家・園柳家の長男。入学時点で他校の生徒との喧嘩沙汰の噂が絶えない、所謂“不良”のレッテルを貼られている。実際は授業態度等かなり真面目で努力家。しかしそれ故に己の剣術に迷いが見えたりもする。最近では何か一つ吹っ切れたようで、自分の剣を取り戻しつつあるが、“拳で殴る”というのは果たして侍と呼べるのだろうか。
黒霧学園一年三組所属──月島宇佐美には最近気になる相手がいる。
相手は同じクラスの斬咲刀真。
恋愛ドラマなら、これがきっかけで甘酸っぱい展開へと向かうのだろうが、生憎彼女はそんなことは望んでいない。
彼女が気になるのは彼の力だ。
入学試験の時も、そして煙間との授業でも彼は侍でありながらも刀を使わず、その実力を発揮してきた。
最近だと不良と呼ばれていた園柳仁のことを気にかけていたが、随分と親しくなったのか教室で会話をしていることが多い。
人の心までも変えてしまう魔術でも使えるのか。或いはそれが彼の刀の力なのか、非常に興味深い。
宇佐美の強い想いは、彼女を行動させた。
いつも通りの授業を終えた放課後のこと。宇佐美は刀真の元へと向かった。
「いいか刀真、俺は最高にかっけえ技を思いついた。」
「かっけえ技?」
「おうよ!」
先客の仁との会話が盛り上がりをみせており、割り込むには少し勇気がいるようだ。
「俺の炎をお前の木刀に纏わせて放つ! 名付けて超必殺──」
「ダメだよ燃えちゃうってば!?」
くだらない──宇佐美は呆れてため息を吐いた。
同年代の男の子はどうしてすぐ必殺技を作りたがるのか。大人振る訳ではないが理解に苦しむ。
「なら炎を刀真に纏わせて、」
「僕が燃えるだろ!!」
いつまでもこの馬鹿な会話を聞いていると頭が痛くなりそうだった。
宇佐美は刀真の席の目の前まで近づくと、彼の目をじっと見つめた。
「月島さん?」
不思議そうな顔で宇佐美の名を呼ぶ。
「斬咲くん、今日この後空いてる?」
「え!? な、なんで? 空いてるけども!」
「よかった。」
突然の誘いに動揺しつつも、刀真は嬉しい気持ちが隠せなかった。
まさかデートの誘い──なんて、高望みをしてみる。いや、有り得ない。自問自答を繰り返していると、隣で仁が楽しそうに笑っていた。
「それでどこ行くんだ?」
刀真は聞かれて気付いた。どうして“二人を”誘っている可能性を考えなかったのか。自意識過剰も良いところだ。恥ずかしくて顔が真っ赤になっていくのがわかる。
だが、宇佐美の反応も少し悪かった。
「あなたも付いてくるの?」
「ん? 当たり前だろ。」
仁の即答は宇佐美にとってあまり都合の良いものではない。
少し考えた後、宇佐美は「わかった」と頷いた。
「それじゃあ私、煙間先生に用があるから正門で待っていて。」
教室を後にする宇佐美。
仁は「おっしゃあ、行こうぜ!」なんて気楽に振る舞う。刀真は僅かに期待をしつつも、今この時だけは仁の存在を鬱陶しく思ったものだ。
「斬咲くん。」
二人が教室を出ようとすると、背後からの声に呼び止められた。
振り返った先にいたのは白枯木穂乃果。普段はクールで無口な彼女は、あまり他人と関わろうとするタイプではない。
このように自分から話しかけてくるのは非常に珍しいことだった。
「月島さんに呼ばれていたみたいだけど。」
「うん。」
「なんだお前も来るか?」
「遠慮しておくわ。」と首を横に振る穂乃果に仁が首を傾げる。
「じゃあなんだ?」
「デートなんかを期待してるようだから、一言助言をと思ってね。」
刀真は驚いた。一瞬、心を見透かされたと焦る。表情に出ていたのかもしれない。
「助言って何を?」
聞き返すと、授業でもポーカーフェイスを貫く穂乃果が笑ってみせた。
「月島宇佐美には気を付けなさい。」
「は?」
それだけ伝えると、彼女は教室から出て行く。
何故そんなことをわざわざ──意味がわからなかった。
「なんだあいつ?」
仁も不思議そうに呟く。
彼女と会話を交わした回数も、思えば数えられる程だ。考えてもその思考がわかる筈も無い。気にせず、二人は正門へと向かうことにした。
正門へ着いてから間も無く、宇佐美が姿を現した。
「行きましょう。」
目的地を特に告げることもない。
二人には聞く暇も与えなかった。
少し早足な宇佐美のペースに合わせて歩く。
向かう先は小さな公園だ。
刀真たちが幼い頃は近所の子供たちが集まってよく遊んでいたものだが、最近だと遊具で子供が怪我をして危険だと言われて、殆どが撤去される。
おまけに娯楽施設の増加や最新技術のゲーム機等が増えて、利用する者は減ってしまっていた。
それ故にこんな場所に何があるのか。
目的地に着いて、二人は流石に痺れを切らした。
「月島! ここに何の用があるってんだ?」
「あなたには別に用はないんだけど。」
「何!? みんなで遊ぶんじゃねえのかよ。」
「子供か。」
呆れた様子で宇佐美は答える。
この間の一件を機に仁は刀真以外とも気軽に話すようになったが、何とも幼稚というか、真っ直ぐな発言が多い。
宇佐美が少し苛立ちをみせていることに刀真は気付いた。
「えーっと、僕に用があるんだよね?」
察したように尋ねる。
デートではなかったが、彼女から誘ってきたことは事実だ。
その内容を確かめたい。




