【孤独】×FIRE 七
廃工場を出ると辺りはすっかり日が暮れていた。
夕暮れの帰り道──門限をとっくに過ぎた小学生たちが、慌てて走る光景が目に入る。
時刻は夕方五時を回った頃だろうか。
「巻き込んで悪かった。」
外方を向いたまま仁は呟いた。
「僕はただ修行に付き合っただけさ。」
首を振って答えると、仁は子供みたいに無邪気な笑顔をみせる。
「お前のおかげで強くなる意味ってやつ? わかったよ。 俺は大吾への罪滅ぼしじゃない、夢を叶える為に強くなりたいんだ。」
仁にもう迷いはないだろう。
炎龍丸を使い、自身の得意とする剣術──彼の場合は拳術だったが。
それで戦う彼はとても強い侍魂をもっていた。
本来の志がブレない限りもっと強くなれる。
刀真にはそう思えた。
「世界一の剣豪──だね。」
「そうだ、“世界一”だぜ!」
人差し指を突き出して一を表す。最初は空へと掲げて、次は刀真の方を指差して笑った。
「だから俺はお前を超えたい。」
「え?」
刀真が聞き返すと、仁は空を見上げて深呼吸を一回。息を大きく吸い込んで口を開いた。
「お前を超えて世界一になる!!」
言葉を繰り返す。
真っ直ぐな瞳は彼の夢の先を思い描く。
世界一になるのは大吾との約束だ。そして、これは園柳仁としての夢──斬咲刀真という大きな壁を超えたいと本気で思った。
「でももう真似はしない、俺にはやっぱ炎龍丸で殴る方が性に合ってるぜ。」
「それは侍としてどうなの?」
「良いじゃねえか! “自分らしく”──だろ?」
刀真に言われた言葉を繰り返す。
やはり彼にはもう迷いはない。
“不良”と呼ばれる少年の正体──それは、どこにでもいる普通の高校生。
夢に向かって一生懸命で、時に悩み、それ故に焦って道を踏み外してしまうこともある。
一人で抱え続ければ、次第に大きな闇となって心を蝕んでいくだろう。
そんな時は誰かが手を差し伸ばせば良い。
一筋の光が希望となって、道を切り開く可能性がある。
かつての刀真も同じだ。
失敗しても良いのだ。生きている限り、何度でもやり直せる。また己の夢に向かって歩き出せる。
刀真もようやく理解した。
彼のことが気になったのは、過去と呪いに縛られていた自分を重ね合わせていたからだ。
これからも新しい壁にぶつかって迷ってしまうこともあるかもしれない。
その時に互いに手を取り合えたら──彼らの光は輝きを失くしはしないだろう。
「ありがとう。」
自然とその言葉が出ていた。
刀真もまた、彼の存在に救われたような気がしたからだ。
仁は意外そうな顔をみせるが、すぐに頷いた。
「良いってことよ──“刀真”!」
仁がその名を口にした。
少しくすぐったくて、でも暖かい。
「お前とはもう友達だからよ。」
照れ臭そうに再び外方を向いて、わざわざ言葉を付け足す。言われなくても、刀真はわかっていた。
自分の十五年という人生を振り返り、思えば初めての友達。嬉しくない筈がない。
「よろしく──仁!」
そう応える。
新しいこの繋がりが、彼らをどのような道へと導いてくれるのか。
それはまだわからない。
今わかることは一つ。刀真にもまた高い壁が出来た。彼の夢を妨げることになっても、自分もより強くならなきゃいけない。父を超えるというのはそういうことだ。
二人はこの日友となり、そして宿敵となった。
彼らの学園生活に新たな物語が刻まれるのは、そう遠くはない話である。
【孤独】×FIRE──終──




