【孤独】×FIRE 四
全てを終えた仁は、腰の引けた彼のことを見た。
「あぁ、」
とても怯えている。
仁に対してか、“いつもの”行為が行われそうになったことに対してか。
完全に戦意喪失しており、向かって来る様子はなさそうだ。
「友達は選べよ、心を利用するような奴はクズだ。」
彼は何も言えなかった。
仁も返答は求めずに歩みを進める。
刀真は引き続き、彼の後を追った。
少し前まで使われていた工場跡。今では工事が中途半端に進められており、外観はまるで廃墟のようだ。
迷い無く仁は中へと入っていった。
「なんでこんなところに?」
更に後を追って中へと入る。
内観はもっと酷い。残った建物の柱がかなり古びており、今にも崩れそうだ。
それに──雨風に晒されていたせいか、錆びた臭いが嗅覚を刺激する。
工場として使われていた道具はほとんど残っていないか、かなり壊れたガラクタが転がっている程度。
こんな場所に用があるとすれば、余程の変わり者と言える。
刀真にはそう思えたが、目の前の光景で感想が変わった。
そこには刀を振る仁の姿があった。
ガラクタや古びた部品をかき集めて作られた、正直に言えば出来の悪い人形。
それを相手に剣術の修行を行っている。彼も刀真と同じだ。授業以外の時間を使って鍛錬していたのだ。
驚いた拍子に足元のガラクタに躓いて倒れる。その音に仁が気付いて振り向いた。
「お前──!」
「や、やあ!」
気まずいという空気を感じ取り、お互い次の言葉を話すまで少し時間が掛かった。
しかし意外だった。
不良のレッテルを張られた人間が、人目のないこんな場所で自主練習を行っている。
刀真の想像とは遥かに違うその姿に、不思議と笑えてきた。
沈黙を先に破ったのは刀真だった。
「自主練、ぼくも付き合っていいかな?」
仁は驚きながらも、ぎこちなく頷いた。
刀真は木刀を、仁は刀を手に取ってぶつけ合う。
野球で例えると、キャッチボール感覚の対決が繰り広げられていた。
「つけてきやがったァ!?」
「う、うん」
事情を説明したが、どうやら全く尾行に気付いていなかったらしい。
「マジかよ。」
「確かめたいことがあったんだ。」
園柳仁という男が“不良”と呼ばれる真相を。
彼の本音が知りたかった。
それが刀真の考える真実に繋がると思えたからだ。
「君は“誰かの為”に喧嘩していたんだね。」
「そんなんじゃねえよ。」
仁は感情任せに撃ち返す。
少し照れ臭そうな態度は刀真の気のせいではない。
「怪我はこの自主練のせいか。」
「今日の授業見てたろ? 俺の刀はクソだ。」
自虐的に言うが、刀真は否定できなかった。
先ほどから撃ち込まれる彼の一撃に力はない。振り方も、使い方も“デタラメ”そのもの。
“慣れていない”──違和感を言葉にするならこれが相応しいだろう。
「まるで自分と違う型を使ってる感じ。」
「──!」
刀真の言葉で動揺したのか手が滑る。
仁はその隙を突かれ吹っ飛ばされてしまった。
「大丈夫?」
「わかんのか?」
刀真は頷く。
「人の真似をしてるように感じるよ、君の刀じゃない。」
「そうか──。」
見抜かれた、とでも言いたそうな顔をみせる。
刀真の考えがどうやら正解のようだ。
「どうして?」
「お前だよ。」
仁はゆっくりと立ち上がって告げた。
「最終試験でお前の剣術を見た時、素直に凄えと思った! 煙間と戦った時もそうだ──自分との実力差が身に染みたんだ。」
歯を噛み締める思いだった。
黒霧でのスタートが同じはずなのに、刀真のスピードは全く違う。いくら頑張っても追いつけない。
「だから勝手にお前を目標にして剣術を変えたんだ! もっと強くなる為に。」
やたらこちらに当たりが強かったのはそのせいか、と刀真は納得できた。
「結局は上手くいかないけどよ。」
「無理に型を変える必要はないんじゃないかな。」
「今のままじゃ駄目なんだ! お前は刀が抜けないってのに──」
仁は気付いて言葉を止めた。
失言だったと後悔するが、刀真は笑った。
「気にしないで。」
「すまねえ、誰にでも言いたくないことの一つや二つある。」
自分も同じという表情を浮かべる。
刀真はクラスメイトから聞いた噂を覚えていた。
「例えば四階から突き落とした──ってやつ。」
「アァ──!?」
激しい動揺をみせるが、すぐに落ち着いた様子で仁は俯いた。
「──お前はどう思った?」
「事実なら君は黒霧にはいない。」
刀真の答えに笑って、考えた。
しばらくして彼は、“真実”を口にする。
「いや俺はあの日──この手で親友を突き落としたんだ。」
仁ははっきりとそう言った。
あれは去年の夏頃──。
白銀中学校に通う、園柳仁と与野継大吾は親友だった。
そして互いに侍を目指す宿敵だったのだ。




