【孤独】×FIRE 五
「また喧嘩か、仁?」
いつも通りの姿に大吾は笑いながらそう言った。
「だってよォ、あいつらまたイジメみたいなことやってんだ。」
中学三年生の夏、仁の喧嘩騒動は日常茶飯事だった。
相変わらずの行動に大吾は酷く呆れた様子をみせる。
「もうすぐ黒霧の試験だぜ? いい加減にしとけよ。」
「わかってるって、俺たちには夢があるからな。」
幼なじみの二人にはかつて交わした約束があった。
「“世界一の剣豪になる!!”」
世界一なのだから二人でなれる訳なんてない。そんなことは解っているが、それは紛れもなく“二人の夢”だった。
「一次試験は筆記らしいが、大丈夫かお前。」
大丈夫じゃない、と仁は首を横に振った。
「なんだよ。 しゃあねえ、俺が教えてやるか!」
「さすが親友だぜ! 恩に切る。」
当たり前だ、と返す大吾。
夢の為に彼らは二人揃っての黒霧学園入学を目指す。
だから互い力を合わせ、助け合うのだ。
今までもそうしてきた。
だから今度だって同じだと思っていた。
数日後──二人の道は分岐する。
一次試験通過と書かれた通知書を握り締めて、仁は大吾の家へと向かった。
「やったぞ大吾! 一次通ったぜ、お前が勉強教えてくれたおかげだ!」
心から喜び跳びはねる仁とは対照的に、大吾は微動だにしなかった。
「おい──大吾?」
仁が異変に気付く。大吾の口元が少しずつ歪んでいくのがわかった。
「俺は──落ちたよ。」
「え──?」
耳を疑う。いつもの冗談だと笑うことを待っていても、無駄だということを知った。
「お前に勉強を教えるのに集中し過ぎて、自分の方を怠ったわ〜。」
次は明るく振る舞っているが、声は震えている。
「悪いな! 俺の夢はここまでかぁ──」
とても楽しそうに笑う、笑い続ける。
そして──自制は崩壊した。
「ふざけんなァッ!!!」
仁の胸ぐらが強く引かれる。
「なんで、お前だけが受かって!! 力を貸した俺が落ちるんだ!?」
何も答えられなかった。
泣き崩れる友を前に、彼の心は前を向くことが出来なかったのだ。
数日後──いつも通り教室へと向かった仁は、大吾に刀を向けられた。
「何の真似だ大吾!」
「親友に裏切られたんだッ、全部どうでも良くなってよ。」
「俺は裏切ってなんか──」
弁明は届かない。
突きつけられたのは刀ではなく、その現実だった。
「お前は俺のことを──俺の心を利用したんだろ!?」
「違う!!」
それでもまだ、手が届くとすれば──。
仁はその可能性を信じた。
「約束を守りたかったんだ! 俺だって落ちたくないから頑張って──」
言い終える前に大吾は悲しそうに笑い、泣いた。
可能性は無数の分岐点であり、結果とはならない。
「そうだ、お前はそういう奴だよ。 わかってた、わかっていたんだ。」
一歩、二歩と彼は後ろへ下がる。
「でも、認めたくないんだよ──。」
夏空を舞う爽やかな風。暑い日差しの眩しさに目を瞑って、大吾は教室のベランダから飛んだ。
その時、彼は──笑っていた。
すぐに手を取ろうと駆け寄ったが、その手は掴めなかった。
届かなかった。
その日、園柳仁は親友を絶望へと突き落とした。
仁は全てを話し終えて、目を開いた。
全身が震えている。あの日の光景を思い出すのはとても辛くて、苦しかった。
自分が今こうして普通でいることに苛立ちを感じることもある。
「大吾もわかってたんだ、俺があいつを蹴落とすなんてことしないって。」
大吾は幸いにも一命を取り留めた。しかし、全治一年の大怪我を負って、現在も入院生活を送っている。進学も一年先延ばしとなった。
仁は彼の見舞いに何度か足を運んでいたが、二人の間に会話はなかった。
些細なきっかけで崩れた友情は簡単には取り戻せなかった。
「俺を裏切っちまった、そう思ってるんだよ。」
その事実が申し訳なくて、辛くて仁を責めてしまった。彼は悪くないとわかっているのに。
仁は自分が否定したことは間違いじゃないと思っている。だが同時に後悔もしていた。その選択が友情を壊してしまったのかもしれない。
「罪滅ぼしってワケじゃねえが、今の俺に出来るのは二人の夢を叶えることだ。」
「夢の為により強く。」
刀真の言葉に仁は頷いた。
彼らの夢は終わった訳じゃない。そう信じて、黒霧学園へと進んだ。
「そうすりゃあ、あいつとまた親友になれっかなって。」
彼もまた刀真と同じだ。
約束があるから、強くなりたい。
そのように思えた。
「悪いな変な話しちまって。」
「いや、話してくれてありがとう。」
彼はまだ過去に迷っている。
それが今の仁の刀に表れていることを理解した刀真は、彼の力になりたいと考えた。
「強くなりたいと思うならその剣術はやめた方が良いよ。」
「何?」
仁が聞き返すと、刀真は真剣な表情をみせた。
「今から慣れない型を極めるより、自分らしく刀を振った方が良いと思うんだ。」
強くなる方法は人それぞれだ。彼には彼のやり方がある。




