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サムライ×KILL  作者: 45
【序】──侍と侍魂──
3/39

【侍】×KILL 参

目を開けて勢いよく起き上がる。

呼吸がとても乱れていて、頭も痛い。

目眩もして吐き気もする。体調がとても悪い。


彼は少しずつ呼吸を整えて辺りを見渡した。

先ほどまでいて暗闇の世界ではない。

ここは自分の──“斬咲刀真(きりさきとうま)”の部屋だ。

いつもの寝床、お気に入りの柔らかマットレスとベッド。低反発の枕。小学校に上がる時に両親に買ってもらった勉強机。

何度見ても間違いなく、刀真の部屋だ。


彼の呼吸も落ち着いてきた。

ふとベッドのシーツを見ると、汗を大量にかいていたのかとても湿っている。

額からまた汗が滴る。刀真はそれを拭ってようやく現実の実感を得た。


「またあの夢か──。」


彼がいつもみる夢。

毎晩ではないが、時折みる悪夢。

刀真にとっては“忘れられない夢”である。


彼は視線を時計に向けた。

まだ夜中の2時だ。起きるには早過ぎる。

しかし、もう少し呼吸を整えないと寝れそうになかった。


「ミルクでも飲もうか。」


ベッドから降りて部屋を出る。

斬咲家は一般的な二階建ての一軒家であり、刀真の部屋は二階にある。

キッチンは一階にあるので、ミルクを飲むには一階に降りなければならない。

あまり大きな音を立てると、同じ階の別の部屋で寝ている母親を起こしてしまう。


「慎重にいこう。」


泥棒のように抜き足差し足で階段を降りる。

途中で木の板が軋む音が響いてしまい焦るも、なんとか一階のキッチンにたどり着いた。


冷蔵庫からミルクの入った瓶を取り出してカップに注ぐ。

このミルクは母親が気に入ってわざわざ取り寄せてる“ナントカ牧場”の高級品らしい。

それを一気に飲み干す。

通りで美味いわけだ、と感心した。


「十五歳にもなって悪夢で目覚めるなんて、まだまだだな。」


ため息をついてカップを洗う。


彼は現在、中学三年生。

都内にある“から紅町(くれないちょう)”という町に住み、町内のから紅第三中学校に通っている。

季節は冬も終わりに向かう2月。彼もいよいよ高校生になろうとしていた。

ただし進学予定先は“普通の高校”ではない。


現在発見されている古い書物によると、江戸時代の頃に世界中に隕石が衝突した影響で生まれた妖怪──カゲロウ。

奴らは人の心の闇を嗅ぎつけて襲いかかる極めて危険な存在である。

そのカゲロウを倒すことができる唯一の手段が侍のもつ“侍魂(さむらいだましい)”で力を解放した刀のみとされている。


当時の日本では、江戸を中心にカゲロウ殲滅の為に侍文化を途絶えさせないように後世に継いできた。

それが現代まで続き、今も侍は形を変えつつ残っている。

様々な組織に属し、世界中でカゲロウと戦っているのだ。


その侍たちを早い段階で育成していこうという計画の元、三十年ほど前に侍養成学校が日本各地に設立された。

刀真の進学予定先はその養成学校の一つであり、名門校と名高い“黒霧(くろきり)学園”である。


黒霧学園からは現在も世界で活躍するトップの侍を輩出してきた。

もっもと有名であり、最強とされる国家侍組織“KILL(キル)”にも学園のOBが所属している。


夏頃から筆記等の一次試験、秋頃には模造刀を使った二次試験が行われており、そのどちらも刀真は通過してきた。

そしていよいよ卒業間近の今月、最終試験が行われるが試験内容は非公開とされていた。


「侍目指していて夢が怖いだなんて──。」


刀真は言いかけて、途中で口を閉じた。

あれはただの夢じゃない。だから仕方ないのだ。

そう自身に言い聞かせる。


気が付けば手に持っていたカップが泡だらけになっていた。

そろそろ水で洗い流そうとレバーををひねる。

その時、リビングの扉が開く音がした。


刀真はその音に驚きつつ振り返った。


「母さん。」


そこには彼の母親──斬咲鋏子(きりさききょうこ)の姿があった。


「まだ起きていたの?」


鋏子の問いかけに刀真は頬を掻いた。


「いや何か寝付けなくてさ──起こしちゃった?」

「起こされた。」


鋏子は微笑み答える。

春には高校生になる子供をもつ母親の年代にしては、容姿は気持ち若く見え、その笑みは無邪気な子供にも見える。


「ごめん。」

「また怖い夢でもみたんでしょう?」


刀真は頷いた。


「“父さん”の夢だよ──。」


彼の言葉に鋏子の表情が暗くなる。

あまり良い話題じゃなかったことは刀真にもわかっていた。


「あなたまだ──」

「もうすぐ最終試験だよ。」


刀真は笑ってみせた。


「しかもあの名門、黒霧学園の──絶対合格するんだ。」


彼は幼いころから黒霧への進学を決めていた。

その為に剣術を鍛え、学習し、そして最終試験まできたのだ。

だから今、母親に“あんな顔”をさせてはいけない。

刀真は笑ってみせた。


「父さんとの約束だからね。」


彼の言葉に鋏子は何かを言いかけ、そしてやめた。


「なら、いつまでも夜更かししてないで寝なさいよ。」

「はーい。」


気の抜けた明るい返事をして刀真は二階の自室へと戻った。


刀真がいなくなったのを確認した後、鋏子はリビングの仏壇の前へと移動してそこに座った。

仏壇には写真が一枚飾られている。

無精髭を生やした男性の写真だ。


鋏子は目を瞑り、数秒手を合わせてから口を開いた。


剣義(けんぎ)さん──。」


それは写真の男性──刀真の父親の名前だ。


「あの子はまだあなたのことを──」


それ以上は言わなかった。

言えなかった。

しばらく続けた後、鋏子は立ち上がり自室へと戻り眠りについた。


そして夜が明けていく──。

【侍】×KILL──終──

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