【道】×GROWTH 参
圧倒的な力の差を感じる。
煙間の初授業は黒霧の洗礼だったという訳だ。
目の前の光景を見れば、もう彼に対して油断できる者はいなかった。
「女ばかりに戦わせるな腰抜け野郎ども。」
安い挑発に乗る者もいない。
彼らの態度に煙間は痺れを切らした。
「来ないならこっちから行くぞ。」
一瞬にして、生徒たちの元へと移動する。
「うわっ!?」
一人、二人──次々と倒されていく。
逃げ惑う生徒たち中から一人逆方向に飛び出すのは、出席番号三番──園柳仁。
先程、刀真とのやり取りがあったせいか、彼の機嫌は悪かった。
模造刀を捨てて、彼は拳を放った。
軽々と受け止められたがもう一発──放つ。
それも当たらない。両手を力だけで封じられて身動きが取れなくなる。
「模造刀は使えよ園柳。」
「クソったれ──!」
突き出された膝が鳩尾に入っていた。
激痛が襲い、言葉が出せず仁はその場に倒れた。
煙間の視線に刀真が映る。
「──お前も来いよ、“斬咲”。」
言われて構える。
すぐには飛び込まずに、僅かでも隙があれば──刀真は観察するが、そんなものは見つからなかった。
ゆっくりと、確実に間合いを詰めて懐にに飛び込む。
力強く振り斬ろうとするが、動かない。その腕をもう掴まれていた。
「遅いな。」
「どうでしょうか?」
間髪入れず膝を撃ち込む。予想外の動きだったのか、煙間はそれを両手で防いだ。
刀真はその隙を逃さない。
がら空きとなった頭上から思い切り振り下ろす。
「──!?」
その一撃は当たらなかった。
今度も防がれている。
そして動揺のせいで判断が遅れ、煙間の蹴りを受けてしまった。
「斬咲剣義の息子って割には大したことないな。」
「なんだって?」
「血筋が良いからといって思い上がってるんじゃないか?」
過去の自身を思い返してみれば、否定はできない。
「いいか斬咲──この一年三組の中でお前は最も“弱い”。」
「どういう意味ですか?」
「刀が抜けない奴は弱いって言ってるんだ。」
淡々と、当たり前のようにこの男は刀真の弱みを口にした。
別に隠すつもりはない。いずれはわかってしまうことだ。
それよりも、そんな自分を否定されたことの方が苦しかった。
「刀が抜けない──?」
宇佐美が不思議そうに呟く。
彼女だけではなく、他の生徒も同じような反応をしている。
侍を目指している者が刀が抜けないなんて、嘘のような話だ。信じられないのも無理はない。
だが事実だ。
刀真は何も言い返せなかった。
「こんな模造刀やお前の木刀で、カゲロウが倒せるか?」
不可能だ──。
カゲロウの倒すには刀の力を解放しなければならない。
「力が使えないお前が最も弱いってのはそういうことだ、それとも──」
煙間の視線が黒椿に移る。
「力を使い熟すか。」
「──!」
彼の言葉の意味に気付く。
試験で刀真は黒椿の力を引き出して、木刀に纏わせた。
あの時は、光子郎を救いたいという気持ちで無我夢中に力を使った。
もしあれが使い熟せれば──“刀が抜けない侍”だとしても、強くなれる。
刀真はゆっくりと立ち上がった。
もう一度同じことが出来るかどうか、それはわからない。
ただ、強くなる為に彼はここに来た。
やらなくては前には進めない。
「来るか?」
煙間の問いかけに頷く。
刀真は再び構える──精神を集中するのだ。
あの時と同じように。
鼓動が速くなるのを感じた。
「──!!」
歪な感覚に包まれていくのがわかる。
それは、黒椿が目を覚ましたことを意味していた。
「我の力を使い熟すか──」
あの声だ──。
精神空間とでもいうのか、何も存在しない真っ暗闇の世界に刀真はいた。
そしてあの声が聞こえる。
「甘くみられたものだな──」
姿の見えない声の主が嘲笑う。
「いつまでもお前の呪いが怖いと思うな。」
「一度力を使ったぐらいで主人にでもなったつもりか──?」
背中が熱くて、冷たい。
「笑わせるな、今度こそお前を──!」
気は抜いていない。
それでも少しずつ意識が薄れていくようだ。
視界が黒く──染まる。
「斬咲?」
現実世界──俯いたまま動かない刀真に違和感を覚える煙間。
肩に触れようとしたその時、刀真が動きだす。
「──!」
突然の攻撃を間一髪のところでかわす。
刀真は一歩も引かず、間合いを詰めた。
黒いオーラに包まれた彼は無表情に模造刀を振る。
「駄目か──!」
心が飲まれている。煙間はそう思った。
力を引き出せていても、今の彼は斬咲刀真の意思で動いていない。
粗く振られた攻撃を避けて、左足で蹴り上げる。反動で刀真の模造刀が砕けた。
「目を覚ませ斬咲! 力使う度にそうなんのかお前は。」
煙間の声は届いていない。
無表情のまま瞳を紅く光らせて、自分の木刀を引き抜く。
「恐るな──自分の侍魂をしっかり持て!」
「こころ──?」
激しい頭痛に襲われた刀真は頭を抱えた。
まだ彼の意識は完全に失われていない。




