【道】×GROWTH 四
「何の為に黒霧に来たか思い返せ、お前は誰だ?」
「無駄だ、此奴はもうすぐ──」
頭の中で黒椿が語りかける。
その声は刀真にしか聞こえていない。
煙間の言葉も脳へと入ってきて、混じり合うように刀真の脳を刺激した。
「ぐあぁ──!!」
「斬咲!」
刀真は目の前の木刀を見る。
今、これを振るのは誰だ──この力を使うのは誰だ──。
何の為に戦うのか。何の為に強くなりたいと願ったのか。
その答えを導き出す為にここに来たはずだ。
「何も考えるな、我に心を委ねればいい──」
「黙れ。」
何もないその世界で彼の声だけが響く。
「僕の心は僕のものだと言ったはずだ。」
「それでこの先強くなれるのか──?」
「強くならなきゃいけないんだ。」
刀真は既に解っていた。
いつまでも、“こんなところ”にいてはいけない。
それでは何も変わらない。
「結局は我の力に頼るのだろう? ならば──」
「黒椿、」
言葉を遮り、はっきりとその名を呼んだ。
「僕はいつか君の呪いも超える。 その為には君の力が必要なんだ。」
「随分と勝手な言い分だな──」
「ああ──僕はこう見えて、あまり利口じゃないんだ。」
いつも恐れていた声と世界だが、不思議な気持ちだ。
刀真は黒椿に対して笑顔で話していた。
「──少しの退屈凌ぎだ、そのつもりに思え──」
その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
そして、世界の暗闇に光が生まれる。
刀真にはそれが、新たなに続く道のように見えた。
気が付いた時には、電源が落ちたように頭痛が止んでいた。
彼が大人しくなったことをきっかけに、静寂がその場を包み込む。
「斬咲?」
煙間の問いかけに答えず、刀真は木刀を構えた。
黒いオーラを纏って、再び突進する。
「──!?」
先ほどとは比べ物にならないスピード、そして気迫──。
強い力が煙間へと向かってくる。
使うつもりはなかった刀を気が付けば“抜かされていた”。
判断を誤れば、煙間はその力に斬られていただろう。
「お前は──誰だ?」
再び問いかける。
その言葉に彼の口角は上がった。
「出席番号六番──斬咲刀真だ!!」
刀と木刀がぶつかり合った衝撃が爆風を巻き起こす。重心を意識しなければ、飛ばされてしまうほどに強い力だった。
間合いを取った煙間は、刀真の雰囲気の変化に気付いた。
「どうやら使い熟したってことでいいか?」
その表情は満足気に笑っているかのように見える。刀真は首を横に振った。
「刀はまだ抜けませんので。」
「本気じゃないって言いたいのか?」
今度は頷く。煙間は可笑しくなった。
自分の予想以上に、彼は強い侍になるかもしれない。そんな希望を抱いてみても良いかと思えた。
「それでいい、斬咲。」
久しぶりに心を躍らせる。
彼にとってこんな気分になるのは、そうだ。
“斬咲剣義”以来かもしれない。
煙間は刀を真っ直ぐ掲げて、攻撃の態勢に入る。
“煙リ草”の能力で煙を見に纏い、解き放った。
「全力で来い──!!」
刀真の準備は既にできていた。あとは──刀を振るだけだ。
木刀のオーラが激しさを増して、螺旋を描くようにその身を包み込む。それを力の限り振り下ろした。
「“煙魔殺露儀”!!」
「剣戯×剛──“黒刃羅”!!」
技と技がぶつかり合って弾ける。
お互いの力は互角。そう思えたが、それは過信だった。
煙間の煙が隙間を通り、刀真の身を捉える。
無数の刃に斬られたような痛み。ただの煙ではないその刀に、刀真の技は破られた。
「あ、やっちまった!」
倒れた彼の元へ駆け寄る。幸いなことに大事には至っていなかった。
「悪い斬咲、つい本気出してしまった。」
「いえ、大丈夫です。」
刀真は敗けた。
だが──気分が晴れているようなこの感覚は嘘ではない。そう思えたら、自然と笑顔になれた。
「参りました!」
「何笑ってんだか。」
煙間が煙草に火をつけた時に、三組の生徒たちが駆け寄って来た。
「凄い戦いだったぜぇ二人とも!」
「煙間先生強過ぎ!」
「アハハハ! でも斬咲くんもスゴいスゴーい!」
「わかるぅ! 超エモい。」
いつの間にか、周りを囲むように集まるクラスメイト達に少しだけ困惑したが、刀真にはそれも可笑しく思えた。
いつか、侍として認めてもらえるように。
彼の学園生活はこうして幕を開けた。
××××××××××××××××××××××××××××××××
「我を超えるか──」
その声は一人、呟く。
今は刀真にも届いていない。その世界にただ一人だけ。
「お前は必ず我の力を求めて、再び心を委ねる時が来る──」
それは、そう遠くない未来。
そう感じていた。
「それまで退屈させないでくれよ──斬咲刀真」
声もまた、刀真と同じように笑った。
【道】×GROWTH──終──




