【力】×PARTING 五
刀真が纏っていた黒いオーラが木刀へと集まっていく。
黒椿から溢れ出る力が吸収され、彼の元へと流れる。オーラは目に見えてその大きさを増した。
「貴様、我の力を──!?」
「黒椿、あいつを倒す方法ならもう一つあるんだ。」
瞳は真っ直ぐカゲロウの方を見つめたままだ。
でもそれはまるで、“声の主”をしっかりと捉えているように、刀真は口にした。
「お前こそ僕に──力を貸せ!」
力を全開に──。
木刀を鞘に納めるように、持ち直す。
刀真は再び目を閉じた。
カゲロウが唸り声と共に刀真へと襲いかかる。
無数の腕が一斉に伸びて、空を斬る速度で近づいても刀真は目を開けない。
「避けて──!!」
痛みを忘れて叫ぶ彼女の声も遮断する。
避ける必要はない。
目前まで迫ったカゲロウの腕の感覚が伝わり、刀真は柄を握るその手に力を込めた。
「剣戯×居合──“黒咲”」
彼が呟いたその瞬間には既に、カゲロウの肉体が細切れへと変貌していた。
振る動き、音、全てが見えず聞こえず。
だが確実にカゲロウへと技を放つ。
擬似カゲロウに放ったものと似て非なる一撃が、その戦いに終止符を打った。
「木刀でカゲロウを──?」
全て見ていたはずの時田には、何が起こったか理解できない。
「いやあれはまさか、あの力は──。」
学園長にとっても誤算だった。
彼の持つ刀の力、黒椿のもつ力を引き出す侍魂──それがカゲロウを討ち取ったのだ。
消滅していくカゲロウは断末魔の叫びを上げて、儚く散った。
解放された光子郎が地面へと落下する。
気を失っているが、息はしている。
刀真は安堵の表情を浮かべると、彼も意識を失いその場に倒れた。
黒いオーラが黒椿の元へ還り消えていく。
戦いは終わった。
数分後──ようやく駆けつけた国家組織KILLの部隊によって、救助活動が行われた。
「負傷者は少年二名──」
「“神薙隊長”が重傷を負っています!」
男は部下からの報告を受けて、彼女の元へと駆け寄った。
「何を考えているの?」
「どうしたら君へ想いを伝えられるか。」
「ふざけんな、一歩間違えたら取り返しがつかないことになっていたのよ。」
遅過ぎた男たちに怒りの矛先を向ける。
「本当にすまないと思っている。 無事で良かったよナギちゃん。」
ナギ──本名、神薙と呼ばれた彼女は、医療班によって応急処置を受けていた。
興奮状態だったからなのか、先ほどは痛みも堪えられたが、今は気を抜くと倒れそうである。
「でも凄いよね、あのレベルのカゲロウ一人で倒しちゃうんだもん。」
「私じゃないわ。」
ナギの言葉に男は首を傾げる。
「え、じゃあ誰が──?」
ナギは刀真の方に目線を向けた。
これから二人は都内の病院へと運ばれていく。
しばらく安静にしなければ目は覚さないだろう。
「愛浦 、治療が終わったら隊長格を召集しましょう。」
「まさか大々的な逆プロポーズ!?」
笑顔になる愛浦の頬をナギは力強く引っ張った。
「全員に話しておきたいことがある。」
街中にカゲロウが現れる、なんてことはそこまで珍しいことではない。
今回の個体は能力が高かった。
死亡者もおらず、民間人への被害も最低限には抑えられた方である。
ただ一つ彼女が気掛かりだったのは、斬咲刀真の事ではない。
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彼らを乗せた車が赤信号に捕まっていた。
「それで──学園にお戻りなさいますか?」
時田が傷の手当てをしながら尋ねる。
「いや、今日はもう良いだろう。」
窓の外に目を向けて、彼は微笑んだ。
面白いものが見たかったことは嘘ではないが、これは“嬉しい誤算”である。
「思わぬ拾い物だ。」
信号が青へと変わり、進んでいく。
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見知らぬ天井が目についた。
刀真は自分がいつ眠ってしまったのか、記憶が少し曖昧だった。
まだ頭が回っていない。
起き上がり、周りを見ると、どうやら病室にいることがわかる。
「そうだ僕は──」
カゲロウと戦いの後、倒れてしまったことを思い出す。
治療は既に済んでいたのか、体に痛みはあまりない。
点滴が繋がれているようだが、一体どれだけ眠っていたのかわからなかった。
「あ──矢井馬くんは?」
状況を思い出す。
光子郎も同じ病院に運ばれているのか?彼は無事なのか?色々と確認しなければならない事が多かった。
「一先ずナースコールか。」
受話器に手を伸ばした時、病室の扉が開かれた。
「刀真──!!?」
鋏子が彼の名を呼んで飛びついた。
彼の体を抱きしめる力が普段の何倍も強く感じる。
「痛い──痛いって母さん!」
「あらごめん──じゃなくって!」
鋏子は泣いていた。
その前も泣いていたのだろう、目が既に腫れており、鼻水も垂れている。




