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サムライ×KILL  作者: 45
【序】──侍と侍魂──
18/39

【力】×PARTING 四

「やめろォ!!」


刀真は木刀を構えてカゲロウの前へと立ち塞がった。


「やめなさい坊や! そんなものでカゲロウは倒せない!」

「わかっています! でも──」


柄を握る両手が、汗で滑りやすい。

強く握り返しても、途中で落としてしまいそうだ。

もう一度、しっかりと握り締める。


「矢井馬くん──。」


刀真は光子郎にまだ意識があることを確認した。

彼もまた重傷だ。早く救ってあげなければ──。


「き、斬咲──」


消えそうな声で彼は刀真の名を口にした。

とても苦しそうに、発音もはっきりしていないその言葉は、刀真にしっかりと届いた。


「助けてくれ──」


気付いた時には踏み出していた。

軽やかなステップで間合いを詰めて、木刀を叩き込む。

カゲロウはそれを右腕で受け止めると、力強く振り払った。


宙を一回転し、また踏み込む。

もう一度間合いを詰めて、連続で突き刺すように振る。

一発、二発──少しずつ刀真の攻撃が当たっていく。

だがカゲロウには効いていなかった。


距離を空けるように移動したカゲロウの背中が、奇妙に揺れ動く。

体を突き破るように三本の腕が現れ、全てが刀真へと襲い掛かった。


「──!?」


木刀を振るが受けきれずに吹っ飛ばされる。


「畜生──!!」


彼女は動けないことに腹を立てた。

非常に不味い状況だ。苛立ちが増していく。

ようやく懐のスマートフォンを取り出すと、履歴から電話をかけた。


「──こちら六番隊、糸色。」

「いつまでチンタラやってんのよ!! とっとと応援に来い!!」

「いやいや今向かってるって。 ナニナニ、苦戦中なのナギちゃん?」

「馬鹿野郎! このままだと死人が出る──急いで!!」

「──わかった、すぐ行く。」


通話はそこで途切れた。

叫んだせいか意識が朦朧としてくる。

スマートフォンが手元から滑り落ち、地面に落下した。

それを拾う力が彼女には残っていなかった。


カゲロウの暴走は続く。

四方八方に腕を伸ばして、刀真の姿を捜している。

背中の腕はいつの間にか数十本に増えていた。


「やっぱりただの木刀は効かない。 刀を抜かなきゃあいつは倒せない。」


瓦礫の中で一人、刀真は呟いた。


「刀を抜かなきゃ侍にはなれないのか?」


彼の問いかけに応えるように、その温もりは背中から伝わった。


「安心しろ──」


夢で何度も聞いた声。

儚げで、美しく悲しい声。


「恐ることはない──」


心臓の鼓動が大きく鳴る。

次第に早くなっていく。


「心を我に委ねよ──」


自然と黒椿に手を伸ばしていた。

鼓動の高鳴りが速くなる。


「それすればお前は奴を──」

「僕は奴を──」


溢れ出す黒いオーラが刀真を包み込み、瞳を紅色に染め上げた。


「奴を倒したいのだろう──?

侍になりたいのだろう──?」

「倒したい──なりたい──」


その返事にはまるで感情がない。


「ならば、心を我に委ねよ──」


その手は黒椿の柄を握り締め、ゆっくりと引いていく。

とても軽い──このまま刀を抜けばいい。

そう、心のままに──。


刀真の視界の先が真っ暗に染まる。


「夢の中と同じ世界だ。」


このまま眠ってしまえば良いと思えた。

次に目が覚めた時、全てが終わる。そんな気がしている。


眠りに着こうと瞼を閉じた。

だが、暗闇に放つ一筋の光が眩しくて眠れなかった。


「なに?」


光に問い掛けると、より輝きを増した。


「君の心のままに──」

「僕の──心?」


おかしな事を言う光に刀真は苦笑する。

心に従い眠りに着くのだ。


「君の心のままに──」

「僕の心は──」


心臓の高鳴りが再開する。

頭痛が彼を襲った。何かが頭の中を過ぎっていく。


「君の心のままに正直に生きてほしい。」


刀真の過去を知った阿久津が彼に告げた言葉。


「親にとって一番大切なのは子供なのよ、どんなことがあったとしてもそれは変わらない。」


ずっと憎まれていると思っていた。だが鋏子は心から刀真のことを愛していた。


「助けてくれ──」


光子郎が刀真に助けを求めた。

手を伸ばしていた。

気が付けば、体が勝手に動いていたことが答えなんだと、刀真は気付く。

刀真はその声に頷いた。


「そうだ──僕の心が求めるのは、」


ここで眠ることではない。

誰かに心を委ねることでもなかった。


辺りの暗闇が光に包まれていく。

夢は終わりだ。


目を開けた刀真は黒椿を鞘へと納めた。


「何──?」


予想外の行動にその声は反応する。


「刀を抜かぬというのか──? 諦めるのか──?」

「諦めるわけじゃないさ。」


刀真は再び木刀を構えた。


「ただ──誰かに心を委ねたりもしない。」


瓦礫から飛び出す彼の姿をカゲロウは捉える。

獲物を見つけたと、牙を剥き出しにしていた。


刀真もまた、その姿をその眼にしっかりと焼きつけた。


「僕の心は僕のものだ。 心に従って──僕自身が戦う!」

「奴を倒したいんじゃないのか──? 侍になりたいんじゃないのか──?」


理解できない、とその声は問いかける。

刀真の答えは決まっていた。


「僕が求めるのは──矢井馬くんを助け出すことだ!」

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