【力】×PARTING 弐
小さな町でも駅前大通りになると、人集りも増えて賑わっている。
駅前には喫茶店や遊戯店の他、複数の雑貨屋と大きなスーパーがあって買い物には困らない。
最近だとショッピングモールを造るという計画があるらしく、都市開発が進んでいるようだ。
修行ばかりしてきた刀真にとっては、ちょっとした遊園地のように思えた。
「しかし、こうも人が多いと捜すのに苦労するな。」
闇雲に捜しても時間がかかるだけなのは百も承知だ。
刀真は目撃情報を集める為に、人混みへと飛び込んで行った。
「あの──。」
聞こえなかったのか、スーツ姿の男は顔も合わせず去っていく。
「仕事中は忙しいよな。」
ならばと、次は主婦らしき女性に声をかけた。
「僕と同じ制服の──」
「こんな時間に学生が彷徨いて、不良ね!」
「違っ──僕は受験で来ていまして、」
女性は話を全く聞かずに警察官を呼び始める。
「まずいッ!?」
刀真は一目散にその場から走って逃げた。
冷静に考えれば、学生が昼間から街中にいたら怪しまれてもおかしくはない。
「──ってことは目立たない裏通りにいる可能性もあるな。」
どの道、この場にいれば警察官に補導される心配もある。
刀真は裏通りへと足を進めた。
同じ刻、光子郎は拳の痛みに耐えていた。
「いや痛いいや痛い痛いイダイッ!!?」
苦しみを訴えるが街の音に消えていく。
始めに痛みを感じたのは約五分前だった。
気持ちがようやく落ち着いてきた所に、痛覚を思い出したのだ。
「こんだけ痛いと試験に支障が──」
言いかけたところで光子郎はあることに気付いた。
「今何時だ!?」
手の痺れを堪えてスマホを取り出し、時間を確認する。
表示された時刻によると、午後の部の予定時間を三十分も過ぎていた。
「しまったァァ!!」
ようやく我に返った気分だった。
今日この日は黒霧の入学試験の為に来ている。
そのことを光子郎は怒りで忘れてしまっていた。
「早く学園に戻らないと──」
そう思ったが彼は動かなかった。
「いやもう遅いな、二度目の遅刻はねえ。 それに──」
刀真の強さが頭に思い浮かび、光子郎は肩を落とした。
「今の俺には勝ち目はねえ。」
このままサボってしまおうか、と考える。
考えながらふと、天空星に目が移った。
「お前ならどうする?」
返事はない。
光子郎は当然だと笑った。
「刀が答えを知ってるわけないな。」
光子郎は壁に背を向けて歩き出した。
入って来た道を辿れば路地裏からは出られる。
帰るなり、サボるなり、一先ずは出てから決めることにしよう、と歩き出した。
「なんだか天気良くなってきたな、陽が強いぞ。」
手で眩しさを防ぐ。
強い日差しが光子郎を照らすことで、彼の影を大きく伸ばした。
影は少しずつ大きくなる。とてもとても──大きくなる。光子郎の影だったそれは、元の姿を捨てた。
牙と爪が鋭く尖り、体はより巨大に。
禍々しい瞳を光らせて、影だった部分から実体が外に出る。
光子郎も違和感に気付く。
振り返ると、カゲロウが彼を見下ろしていた。
「え──?」
カゲロウは腕を大きく振り上げる。
刃物のような爪を伸ばして、斜めに振った。
光子郎は咄嗟に身を引く。
重たい斬撃が光子郎の腹を掠めた。
「──ッ!?」
制服の破片が舞う。
あと少し反応が遅れていたらと思うと──光子郎は安堵の表情を浮かべた。
「擬似カゲロウか?」
少し考えたが、有り得ないとわかった。
ここは学園の外だ。擬似カゲロウがいる訳がない。
それは紛れも無い“本物のカゲロウ“だ。
「クソったれ──!」
歯を喰いしばって、再び湧き上がる怒りを抑える。
今日は本当にツイていない。
光子郎は運などに身を任せたりはしない性格だが、彼にとっては良くないことばかりが起きる。
運が悪いとも思いたくなるものだ。
だが待てよ──と光子郎は何かを思い付く。
「もしこの本物のカゲロウを倒すことができれば──」
試験で相手をするのは所詮、ニセモノ。
だが自分がホンモノのカゲロウを倒せば、黒霧学園の生徒として相応しいのではないか。
光子郎の中で僅かな光が生まれた。
「斬咲ですらカゲロウは倒していない、あいつを超える方法があるとすれば──」
ゆっくりと天空星を抜き、構える。
勝てるのか?そんなことはわからない。
だがこれが最後のチャンスだと、光子郎は悟った。
「やってやるぜ。」
天空星の刃先を光らせて、カゲロウの足元から力強く振り上げる。
カゲロウが左手を伸ばした。刃先を掴まれて動きが止まる。
光子郎は掴まれた刀を重心にして、両足で地面を強く蹴った。体を宙に浮かせて、更に回転を加える。勢いのまま踵を振り下ろした。
「よっしゃァ!」
確かな手応えを感じる。
しかし喜びも束の間だった。
カゲロウの右手が光子郎の足首を掴む。
「──ァガ!!?」
足首の骨が軋んで言葉にならない。
人とは比べ物にならないほどの力で、掴まれたその痛みは想像を絶する。
カゲロウは光子郎の足首を掴んだまま振り下ろし、彼を地面へと叩きつけた。




