【力】×PARTING 壱
矢井馬光子郎は学園の外にいた。
最終試験の順番はまだ回ってきていない。
午前の部では名前が呼ばれることは無く、一時間の昼休憩を挟んで午後の部を行う取り決めとなっていた。
彼の順番はそれまでのお預けとなる。
時刻は正午を経過しており、朝早くから刀真と一戦を交えた。
当然、腹が減っているし食欲もある。
鞄には今朝母親から渡された弁当も入っている。
だが彼はそれどころじゃなかった。
なるべく人目のつかない場所を探したが、園内では見つけられず、辿り着いたのは街中の路地裏。
いるのは自分一人だけだと確認し、光子郎は目の前の壁に拳を打ち付けた。
「クソォッ──!!」
叫びは街の音に掻き消される。
それでも壁を何度も殴り、叫んだ。
怒りのままに殴り続けて、彼の拳は皮が剥げて血を流していた。
怒りはまだ治らない。
「なめやがってあの野郎!!」
彼は斬咲刀真が気に入らなかった。
三年前──から紅第三中学校に入学した光子郎は、同世代では町内一の実力を持つと噂の刀真と出会う。
お互い三年後に向けて競え合える良き好敵手になれると、この時は期待に胸を膨らませていた。
しかし光子郎の素直になれない性格が災いして、なかなか話しかけることが出来なかった。
「俺と戦いやがれ!」
初めて交わした言葉だ。
今思えば、何故こんな言い方を──と反省したこともあった。
後日、光子郎は刀真と戦い、そして惨敗する。
全く歯が立たなかった。それだけの実力差が二人にはあったのだ。
光子郎はその日、悔しくて大泣きした。
そして誓う──いつの日か斬咲刀真を超えることを。
この三年の間、彼は一度たりともあの日の悔しさを忘れなかった。
そんなある日のことだった、斬咲刀真と呪われた刀の事件を聞いたのは。
「ふざけんじゃねえぞ! 黒霧の受験前に刀が抜けなくなった上に、人が変わったように腑抜けやがって──!」
怒りで痛みを忘れ、光子郎は壁を殴り続ける。
血塗られた拳の跡が壁に残ることも彼の目には入らなかった。
「ようやく戻ったかと思いきや、刀は抜かずわざと負け──自分はまだまだだと!?」
光子郎はこの三年の間に強くなった。
血の滲む努力をしてきたことは間違いない。
だが、今朝の一戦と刀真の最終試験を見て、彼は思ってしまったのだ。
「俺はまだ“斬咲より弱い”!!」
剣術なのか──、
精神か──、
そんなことではないことを頭では理解していた。
「何が足りないッ!!」
虚しさを感じる。
見つからない答えに対する苛立ちをこの壁に当たっても無駄なことを、光子郎はとっくにわかっていた。
「俺はどうしたらいい。」
ふと空を見上げると、とても広いのがすぐにわかる。
答えが目の前にあれば良い──。
光子郎は柄にも無く願うのだった。
彼が園内を離れてから一時間が過ぎた頃、刀真は光子郎がいないことに気が付いた。
「あの──僕と同じ制服の生徒を見ませんでしたか?」
誰に聞いても行方はわからず、頭を悩ませた。
探してる内に、昼休憩の終了を告げるブザーが鳴る。
試験管が集合の合図を出した。
「これより午後の部に移る。 最初のグループは──」
呼ばれたグループのメンバー表を確認してみる。
そこに光子郎の名前があった。
幸いなことに最初のチームではない。
「ちょっとよろしいでしょうか。」
試験管の一人に事情を説明するが、彼は首を横に振った。
「遅刻や欠席は不合格とみなす、例外は認められない。」
「じゃあ、彼のチームの番になるまで待っていただけないでしょうか?」
「それまでに戻ってくる保証はあるのかね?」
「僕が連れてきます。」
雲ひとつない青空となり、予報に反して気温は大きく上昇した。
「これなら走ってれば暖かくなるよね。」
学園の正門の前に立ち、刀真はふと空を見上げた。
広い青空の下にいる自分たちは、なんて小さいのだろう。
答えを探すには果てまで行くしかない──。
「必ず間に合わせる!」
既に園内は探し回ったが見つからなかった。
受験生である光子郎が校舎内に入ることは考えにくい。行くとすれば外であると、刀真は推理した。
「何をしているんだ、矢井馬くん──!」
試験再開のブザーが鳴ると同時に、刀真は当ても無く街中へと駆け出した。
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「こんなところにいたんですか、午後の部始まっておりますよ。」
時田は正門でようやく彼を見つけた。
「少し面白いことになってな。」
「面白いこと、ですか?」
聞き返すが、彼は答えず笑うばかり。
時田は首を傾げた。
「時田──頼みがある。」
「はい、なんなりと。」
素早く頭を下げる時田に対して、彼は一言だけ告げた。
「運転手に連絡だ、車を出してほしい。」
「ご帰宅ですね、お勤め御苦労様です。 まだ試験中ですがお勤め御苦労様です。」
時田は懐から電話を取り出した。




