【試練】×ABILITY 四
宇佐美は華麗なステップを踏んでカゲロウへと近付き、刀を突き出す。
カゲロウは鞭のような動きでそれをかわす。
「月光──!」
刀を突き出したまま宇佐美は叫ぶ。
月光と呼ばれた刀の刃が強い光を放ち、カゲロウに斬撃を放った。
カゲロウは痛みで鳴き叫び後退する。宇佐美も合わせて一歩、二歩と後退した。
そのまま右上に振り上げた月光を構える。
気付いたカゲロウが宇佐美の元へと駆け出すと同時に、月光は再び光り輝いた。
宇佐美が月光を振る。剣先の光は斬撃となり、カゲロウに向かって真っ直ぐ飛んで直撃した。
拍子でカゲロウは地面に倒れる。その隙に宇佐美は間合いを詰めて次の攻撃に移ろうとしていた。
「あの動きは──。」
刀真はその動きをよく知っていた。
垂直、水平、徐々に乱舞を描くように斬っていく。
侍を目指す者が共通して最初に覚えると云われるその技、剣術基本の型を繰り出した。
「あんなにも綺麗で正確な基本型は初めて見た。」
誰もが心奪われる。
基本型は覚えれば誰でも使えるが、戦闘術に取り組む頃にはそれぞれの個性を活かし、別の型を覚えた方が使いやすい。
だが彼女は美しい基本の型を活かして打ち出した。余程の鍛錬を積んでいないと出来ない芸当である。
「とどめ!」
刀でカゲロウを振り払いなぎ倒す。
カゲロウの悲鳴が鳴り響いた。
「やったぜ!」
立ち上がってガッツポーズをする光子郎に周りの者たちが白い目を向ける。
「なんで俺が喜んでんだ。」
顔を赤くして観戦を再開する光子郎。
競技場ではカゲロウが再び立ち上がっていた。
「そろそろ動かねえと見せ場がなくなりそうだな。」
次は園柳仁と中山友恵の二人が同時に走り出した。
「いきます──!」
仁が宙へと跳び上がり、友恵が足を狙う。
カゲロウはどちらを狙うべきか迷ったのか、動けなかった。
「くらえ!」
二人の刀が一斉にカゲロウを斬り裂き、膝から崩れ落ちる。
「こりゃ斬咲の出番はないかもな。」
「どうかな?」
男の呟きに光子郎は疑問を持つ。
「すでに瀕死状態だ、決着は近いぞ」
「お前ちゃんとルールを聞いていたのか?」
「ああ!?」
「“倒せ”とも言われてないんだよこの試験は──。」
刀真は三人の戦い方と“カゲロウの動き”をよく観察していた。
だから彼にも既に理解できていたのだ。
「また来る──!」
斬り刻まれた肉体が回復を始める。
眼を光らせ、鋭い牙を剥き出してカゲロウは再び立ち上がっていた。
「ウソでしょ──!?」
「全然効いてなかったのか!?」
「ええ──ッ!?」
動揺を隠せない三人を他所に、カゲロウは反撃を開始した。
腕を地面へと突き刺す。まるで影のように溶けていくそれは、地面を通って宇佐美の足場から飛び出した。
「しま──ッ!?」
足首を掴まれてしまう。宇佐美は直ぐに抵抗したが離れない。
「待ってろ、今助ける──!?」
仁と友恵が宇佐美の元へと近付こうとするが、足が動かない。
違和感に気付くと、既にカゲロウの腕に掴まれていた。
「腕何本あるんだこいつ!?」
カゲロウは腕を何本にも分裂させて伸ばしていた。
残った腕の意識を刀真へと向け、襲い掛かる。
「くっ──!」
地面を蹴り付けて跳ぶように駆け出す。
間一髪で避けた腕が刀真の追跡を開始した。
「斬咲くん!」
「きゃあ──!?」
三人を掴む腕が肥大化し、その身を拘束する。
最早全く身動きが取れない状態になっていた。
このまま捕まれば敗北することになる。
刀真はそれを避ける方法を考えた。
「逃げてばかりじゃ駄目か。」
急ブレーキをかけて立ち止まり、振り返る。
無数の腕を目の前に刀真は両眼をゆっくりと綴じた。
「馬鹿止まるなァ!!」
仁の声に反応はみせなかった。
刀真はそのまま木刀の柄に手を添えた。
「斬咲くん!!」
宇佐美の声にも動かない。
刀真には何も聞こえていない。
彼は五感を完全に遮断していた。
研ぎ澄ますのは第六感──感覚のみ。
全ての神経を集中させ、来たる時に解き放つ。
「剣戯・居合──」
木刀は力強く抜かれる。
「“開花”」
花が舞い散る残像がそこには見えた。
何事も無く時が過ぎ去るように思えたのは偽り。カゲロウの肉体が次第にバラバラになって消えしまった。
「──は?」
競技場外にいた光子郎は唖然としていた。
その場にいたほとんどの者が何が起こったのか理解できていなかった。
ブザーが鳴ったのはその後直ぐのことだ。
試験管が刀真たちの最終試験の終わりを告げた。
「採点は問題なく行えましたか?」
試験管が別の試験管に尋ねる。
彼は採点表のページを一通り確認し終えると、満足そうに答えた。
「ああ、問題ない。」
一番上のページ、名簿欄に合否の結果が刻まれる。ほとんどが空白だが一名のみ、既に記入があった。
斬咲刀真──不合格
【試練】×ABILITY──終──




