【試練】×ABILITY 弐
「コラッ! 秘書の分際で学園長に対してなんたる無礼な発言を!」
雅山が焦った口調で時田を睨む。
しばらく沈黙を続けた後、時田はそっぽを向いてため息をついた。
「──うるせえなジジイ。」
「あーっ!! 今、私の悪口を言った! ジジイって言った!?」
時田は続けて舌打ちをする。
秘書と呼ばれていたが、とてもそうは思えない態度に刀真たちは困惑した。
「相変わらず気の強い女だ。 だがそれでいて仕事は完璧にこなす、そこが信頼できるのだお前は。」
豪快とも言える笑い声を上げる学園長に対して時田は「恐縮です。」と一言で返す。
雅山は納得がいかない様子だった。
「ところで──」
学園長の目線が刀真と光子郎へと移る。
「この二人は一体?」
鋭い目を目つきは二人の体を硬らせた。
“直談判”はどこへやら──すぐに言葉を発することは出来なかった。
「いやいや、ただの遅刻者ですからお気になさらず。」
雅山が壁のように立ち塞がり二人の姿を隠す。
学園長は首を傾げた。
「遅刻者?」
「時間厳守もできない愚か者ですよ。 そんなことより学園長、どうぞ園内へ。」
「待ってください!」
静止を振り切って声を上げる刀真。
「お願いします! 最終試験を受けさせてください。」
「あ、お願いします!」
光子郎も彼に続けて頭を深く下げる。
彼もまたここで道を途絶えさせるわけにはいかなかった。
「無礼な奴らめ、帰れと言っている!」
「まあ待ちたまえ。」
学園長は刀真の顔をじっと見つめた。
実際は睨まれているのかもしれないと思い、一瞬眼を逸らしてしまいそうになる。
だが刀真は逃げなかった。
ここで逃げてしまうことの意味を彼は知っていた。
「いい眼だ──。」
そう呟くと学園長は再び雅山を見た。
「彼らの受験を許可しよう。」
「な、なんですって!?」
雅山は口を大きく開いて聞き返した。
意外な言葉に刀真たちも驚きの表情を浮かべる。
「侍を目指す若者は近年減少しつつある、貴重な若い芽に水を与えることぐらいはしてやるべきじゃないのかね。」
「ですが彼らは遅刻を──」
話の途中で門が開かれる音が響く。
振り向くと時田が勝手に開こうと動いていた。
「これでよろしいでしょうか?」
門を最後まで開き終えると時田は学園長に尋ねる。
彼が頷くと彼女は無表情のまま側へと戻っていった。
「行きたまえ。」
「──ありがとうございます!!」
二人は勢いよく園内へと駆け出した。
学園長は満足そうな表情を浮かべ、雅山は開いた口が塞がらなかった。
「甘いですよ学園長、遅刻者を許すなんて!」
「彼らは我が校の最終試験まで残った逸材──だが今日の試験をクリアできなければ、どの道入学はできないさ。」
彼の意図を雅山は理解できなかった。
ただ一つ気掛かりなのは、他の生徒が気付いた時の後処理は誰が行うのかということだけだ。
二人の姿はすぐに見えなくなった。
彼らは急いで校庭へと向かう。
そこで最終試験が今行われているからだ。
会場へ着くと、多くの受験者たちと黒霧学園の教師らしき人物が数人。
受験者たちは刀真たちと年齢が同じはずだが、様々な風貌の者がいる。
教師たちも同じだが、普通の学校とは違う。
侍を教える者は侍──それらしい風格を感じられる。
「見ろよ! カゲロウだ。」
光子郎が校庭の中心を指差す。
球技のコートのようなラインが引かれ、ライン内を競技場として複数の侍たちがカゲロウと交戦している。
恐らく、これが最終試験なのだろう。
「なんで校内にカゲロウがいるんだ!」
「“擬似カゲロウ”──本物じゃない。」
名前を聞いても光子郎はわからず首を傾げる。
「対カゲロウを想定して訓練用に造られた本物そっくりな機械だよ。」
刀真は以前、父との修行で使用したことがあったことを覚えていた。
侍を目指していても誰彼構わずカゲロウと戦っていい訳ではない。奴らは人を襲い、最悪命を奪う。
対抗するには先ず奴らの動きを想定した訓練が必要なのだ。
その為に造られた物がこの擬似カゲロウである。
「じゃあ、あいつらを倒すのが最終試験か?」
「刀の能力を引き出すのが最終試験内容だったはず、そんな単純なものじゃないとは思うけど。」
疑問は残っているが、一先ず参加しようと二人は順番待ちの列へと並んだ。
刀真たちの前に並んでいる少年たちが彼らに気付いて振り向く。
「おいおいなんだあいつら、服がボロボロだぞ?」
「本当だ、どこの貧乏人が黒霧を受けに来たんだ。」
少年たちは敢えて聞こえるように刀真たちを罵倒する言葉を放った。
「なんだと?」
「おっと、貧乏人が怒ったぞ!」
聞き返す光子郎に対しても煽り言葉を返す。
光子郎は我慢できずに刀の柄に手をかけた。
「カゲロウじゃなくてお前らを斬ってやろうか!」
「やめなよ!」
今にも斬りかかりそうな勢いを刀真が抑える。
その様子は少年たちにとってとても滑稽だった。




