【魂】×TRUTH 参
刀真の目の前まで追いついた光子郎はその足を止めた。
「逃げる作戦は終わりか?」
限界近くの姿を見て嘲笑う。
「ああ──終わりだ。」
言い切って、刀真は木刀を振る。
車のフロントガラスが割れて破片が辺りへ散らばった。
「何をやってんだ?」
刀真はガラスの破片を一枚拾って光子郎に見せた。
「おいまさか、木刀の次はそのガラスで戦おうってんじゃないだろうな?」
「そのまさかさ。」
刀真は笑う。
その様子が光子郎は気に食わなかった。
「ふざけんな。」
天空星が光り、斬撃を放出する。
「ナメるのも大概にしろォ!!」
光の速度は決して人の動きでは対応できない。
一直線に飛ぶ斬撃は真っ直ぐ刀真の元へと向かい、そして跳ね返る。
跳ね返った斬撃は光子郎の元へ戻り、彼を斬り裂いた。
倒れた光子郎は状況が理解できず困惑した。
「なんだ──何が起こった?」
「光の反射を利用した。 物からくる光は鏡に反射されて目に映る──常識だよね?」
「逃げたのはガラスを探してたってことか──全部計算済みか!」
傷口の痛みを堪えて光子郎は立ち上がる。
「ふざけやがって!」
叫び──殴る。
「刀の使えない侍のくせに!」
怒りを込めて殴る。
「お前なんかに俺が──」
光子郎の手が止まる。
刀真は無抵抗だった。
そんな相手を殴っている自分が虚しく思えた。
「君はやっぱり強い。」
酷い顔で刀真が呟く。
「僕ももっと強くならなきゃ──。」
「何が強くならなきゃだ!」
光子郎は既に気付いていた。
斬咲刀真は“敢えて自分を煽ってきた”のだ。
実力が高く傲慢で──周りを見下す性格だった刀真。
嫌な想いを何度も感じ、光子郎は彼に対して嫌悪感を覚えていた。
でもその剣術は本物だった。
だから彼より強くなることを誓った。
そんな彼が刀を抜けなくなったと聞いた時、正直腹が立った。
「卑怯なのはお前なんだよ!」
もう一発、拳を放つ。
重たい一撃は刀真に突き刺さる。
光子郎は許せなかった。
刀を抜けなくなった刀真がまだ自分より上に感じてしまう自分自身が許せなかった。
「なんだ?」
「おい喧嘩か。」
ギャラリーが集まる。
街中で刀の能力を使えば大事になるのは当然のことだが、光子郎にとってはどうでもいいことだ。
感情任せに殴るその拳から少しずつ力が抜けていくのを刀真は気付いた。
「こらこら君たち!」
スーツの男性に止められて二人の喧嘩は幕を閉じる。
車を壊したり、本当なら親に連絡されたり警察を呼ばれたかもしれない。
男性は説教の合間に、昔自分も不良で喧嘩に明け暮れたと話す。
細身で筋肉一つ無さそうな見た目の男性に、二人はにわかには信じ難い話だったがおかげでその場は見逃してもらえることになった。
「──っていうかよ、」
男性や周りの人たちへの謝罪を済ませた二人は走り出す。
その道中で光子郎が口を開いた。
「試験時間までギリギリじゃねえか!」
「わかってるから急いでいるんだ!」
相変わらず口論は絶えない。
光子郎はスマートフォンの画面に表示された時刻をちらちらと確認して、刀真を睨みつけた。
「お前のせいで試験前にボロボロだしよっ。」
「先に喧嘩売ってきたのは君でしょ!?」
「俺が悪かったとしても俺は悪くねえ!」
「何、そのガキ大将理論!?」
強く聞き返すが光子郎はそっぽを向いた。
「いいか──俺はお前より強くなる!」
「勝ったんだから僕より強いじゃないか君は。」
「あんなの勝ちじゃねえ!」
光子郎は認めたくなかった。
彼の望む本当の勝利とは程遠いものを心に感じている。
「大体お前は刀を抜いてない、手を抜いたんだ!」
「好きで抜けない訳じゃないからっ、僕は本気だった!」
刀真の言葉に首を横に振る光子郎。
納得はしていない様子だ。
「あんなのお前に勝ったことにならない。」
拉致があかない論争の末に舞台は大きな交差点へと移る。
平日の朝ということもあり、多くの車が行き交うその場所は人呼んでスクランブルクロス──呼んでいるのは一部の小、中学生という噂。
スクランブルクロスの歩道側の信号が赤い光を放つ。
止まれの合図を確認して二人は立ち止まった。
「俺はお前が嫌いだ。」
目線を合わせないが、光子郎ははっきりとそう言った。
「僕も君は嫌いだ。」
刀真も道の先を真っ直ぐ見ながら返す。
次に口を開くのはお互いに同時だった。
「次は僕が(俺が)勝つ──!」
お互いにお互いの勝敗を認めない、認めたくないというおかしな意地の張り合いを繰り広げる。
だがそれは侍の高みを目指す者としてのプライドなのかもしれない。
刀真は光子郎に気づかれないようにこっそりと笑った。
信号が青になる。
二人はまた同時に走り出した。
とにかく今は試験のことだけ考えよう。
その後二人は一言も交わさず黒霧学園の門を前にした。
【魂】×TRUTH──終──




