別視点 殺す理由 (露忌)
開いてくださりありがとうございます。今回は別視点会です。読みにくかったらすみません。
注意事項↓
時間軸に関しては喪摸達は車で、しかも全力で飛ばしているので電車で行った露忌より移動時間ははるかに短いです。京都駅から露忌の家までは結構離れています。宜しくお願い致します。
ついに仲間がいる時にまでやってくるようになってしまった。それにしてもどうして居場所がバレたのだろうか。
エレベーターから降りた後、なるべく急いで電車に乗った。早く着かないかとただ駅に着くのを待つ。
俺と親父は昔から仲が悪かった。いや、最初はただ言いなりになっていただけだったけど彼らに会ってから生が本当に変わったんだ。
最初はなんであんなに厳しいのかわからなかった。一人で自由にできる時間なんてなかったし、友達を作ることすら許されなかった。最初こそ、その一言一言が怖かったし、だけど親父を信じてた。だけどいつしかそれは雑音のようになったんだ。
本当に小さい頃親父は「お前には才能がある。だから立派になって神社を継いで、ほかの神託者を見返してやってくれ。」とよく言っていた。その時は神託者がなんなのかもその才能がなんなのかもわからなかった。けれど才能がある。お前は凄い。そう、言われたのが嬉しくて厳しくても期待に応えたいと思った。
今思えばその頃はまだマシな人間だった。
それがある日を境にその人格は本当に変わってしまった。酒に溺れ、機嫌が悪ければ母が作った料理を全て投げ飛ばしたり、殴ったり、流石に殺そうとはしなかった。だけど人に当たったり、物に当たったり、それが当たり前だったから気が付かなかったけど、今思えば児相案件だ。
母が本当の母でないことは知っていた。優しかったし今思えばあの家から逃がしてくれた張本人だ。感謝するべき存在なのに当時はそれが母だと受け入れられなくて、それに母は悪くないのに親父の言いなりになって誰にでもペコペコしているのが気に入らなくて、酷い態度を取っていた。
親父はそれから一層厳しくなった。へまを犯すと長時間正座させられ説教をした。勉強だって厳しくて塾は信用ならないとか言って自分の独学で語りだすから困った。そのくせ気分のいい時は可愛がって、情緒が不安定だったのは間違いない。
学校でも人間関係が作れなかったから自分の生活で見た人間は碌な人間がいなかった。
神社で務めてる人だって、親父に気に入られたくて優しくしてたのだって知っている。だからもう誰も信用できなくなった。親父のことは軽蔑していたし、でも自分にそんな力はないからそれに耐えるしかなくて兎に角辛かった。いつしか自分を半分虚無に落とし込んでいた。あの頃が一番地獄だったとはっきり言える。
駅の名前が読み上げられた。大分長い時間電車に乗ることになった。いきなり止まるから体がよろけそうになって、吊革に掴まって体制を維持する。
扉が開いたのと同時に外に出た。アナウンスに宮舞神社が近くの駅です。と家の名前が読み上げられてそんなに有名だったか?と思う。
喪摸達からは離れたからもう彼らを巻き込むことは無いだろう。警察を呼べば事情聴取という形で警察署に行くはずだ。家の場所だって言ってないのだから来ることはない。
だとしたら無駄に走らなくていい。周りの速さと同じようにあるいて駅を出た。
駅を出てそう長く歩かないうちに神社が見える。中にいる人間の割にはきれいな建物だ。鳥居を通りすぎて奥に建つ家に向かった。
昔ながらの造りの二階建て、門があるから見えるのは二階の部分だけだ。
何年ぶりだろうか。自分にとって実家は以後心地が悪かったから帰ってきて安心するなんてことはない。
昔から変わらないインターフォンを押す。
暫くすると遠くで引き戸が開いた音がした。
それから草履の音がして門が開けられる。
「はい、」
自分より小さい女の人が出る。優しい声の着物を着た女性。その女性は自分の顔を見上げて目を見開いた。
「露忌…?」
昔より老けただろうか。目の横に皺ができているが顔つきは昔のままだ。
「…ただいま。」
自分を逃がしてくれた人を毛嫌いしていた自分が本当に恥ずかしい。今更どんな顔を向ければいいのだろうか。だから少しだけ目線をそらす。
「大丈夫?なんで...ってお父さんになにか言われたの?」
この人は心配そうに俺を見る。あんな態度をとってなお俺のことを心配してくれる。まぁ所詮子供だ。ただ暖かい目で見られていた可能性もあるが、いつまでも優しい母に今度謝りたい。
「違う、ちょっと親父と二人きりで話したいことがあるんだ。」
「そうなの?取り合えず家の中入ろうか。」
俺は中に入って門を閉じる。母が前を歩くが歩幅が違うせいかゆっくりあるかないと追い抜いてしまいそうだ。
母が扉を開けて先に行っていいよとでも言うように笑った。嗚呼、多分親父といる時はこうなんだろうな。古い考えの親父はなんでも自分が一番とでも言うような態度を取っていて。母が自分より前を歩くとそれは大変怒こったものだ。
「母さん先入っていいよ。」
「いいのよ。」
ここで粘っても多分譲らないので素直に入った。
「おかえり、もう帰ってこないと思ってたのよ。」
引き戸の鍵を閉めながら母は言った。
「ごめん、ちょっと今回どうしても外せない用事があって。」
話をちゃんとした方がいいのだろうか。逃がしたはずの人間がいきなりやってきてただ用事があるだなんて言っても不安しかないだろうから。
「そう、わかった。今お父さんは北の部屋にいるから二人で話してきていいよ。」
「ありがと、」
母はきっと気を使って聞かなかったのだ。本当にいい人だ。俺の本当の母さんが生きてたらどうなったのだろう。でも、今はこの人が母だ。過去のことを掘り返す必要はない。
「もしなにかあったらお母さんを呼んでね。でも呼ばれるまではお母さん入らないから。」
今でもこの人は自分を守ろうとしてくれている。感謝してもしきれないとはこういうことを言うのか。
「わかった。じゃあ後で戻ってくるよ。」
靴を脱いで端に寄せる。母に別れを告げて親父がいる所まで行く。昔のことだから家の構造を忘れていないか心配だったがそれはどうやらなさそうだ。
部屋に近づくと怒鳴り声がする。その声には聞き覚えがあった。
歩みを進めるたびにその声は鮮明になっていく。
「これで何回目だ!大金を払ってるんだぞ!いい加減にしろ!」
やはり彼らは親父が...
引き戸の前まで来て緊張する。最後にあったのは小学生の時。その頃のことを思い出して体がすくむ。違う、今はもう昔と同じじゃない。
そうして俺は引き戸を開けた。
中には体格の良い男が一人立っている。そいつはさっきまで誰かと電話していたようで手にスマホを持っていた。部屋は普通の和室で、低い机にの両端に座椅子が置いてあって壁になにかの掛け軸が飾ってあるだけだ。
「露忌か。今更帰ってきて何の用だ。もうここにお前の居場所はないぞ。」
一瞬驚いた顔をした後偉そうな表情に切り替わる。こいつはまだ自分を下の存在だと思っているようだ。実際偉いとかこいつより上の存在だなんて一ミリも思ってはいないがお前の我儘が全て通用するほど子供じゃない。
「居場所なら他にある。今更ってお前が一番連れ戻したかったくせに、」
「親に対してその態度はなんだ。俺に対してお前呼ばわりか?自分がどの立場か理解していないようだな。」
やっぱりだ。こいつは多分俺のことをまだ昔のままだと思っている。そりゃ何年も会っていないんだあの時のまま固定されているんだろう。
「は?自分をなにかのお偉いさんかなかとでも思っているのか?老いぼれた中年のおっさんが、」
その言葉のどれが癇に障ったのか知らないが顔に血でも上ったのか顔が真っ赤になる。ブチギレる寸前の顔だ。
「お前のやったことを奴らが吐けばお前も警察の御厄介になるってのに。」
そういうと怒りが少し引いて驚いた顔になる。
「露忌、お前それをどこで…」
どこでもなにもない。
俺が中学を卒業した後、そのまま実家に帰るという約束を無視して東京に居続けた。それから暫くして俺のことを攫おうとする人間だ現れ始めた。
襲われるのは決まって一人でいる時。
人間との闘い方はそれが原因で覚えた。最初から覚えてたわけじゃなくて先輩からの受け売りだけど。
でもいつか誰かを巻き込むかもしれないと思うと言い出せなかったし、だから仕事以外の集団行動は避けていた。先輩が背中を押してくれなかったら今でも内気なままだっただろう。
そう、だから今回襲われたのは親父が仕組んだのだと思う。そう考えれば先ほどの電話だって相手がだれかくらいわかる。
「いくら偉そうにしていても結局俺頼みで、自分じゃどうにもならないから他の奴に託すしかなかったんだろ?」
そう言った瞬間目の前で大きな音がした。親父が壁を殴ったんだ。
「お前は俺のお陰で産まれてこれたんだ。親の言うことを聞くのは当たり前だろ!?」
怒鳴る。
嗚呼、しまった。こんなことになるつもりはなかったのについ俺も苛立ってしまった。これじゃ箱の話は無理になってしまう。どうにかしてこの半狂乱の人物を落ち着かせないと。
「おい、なんとか言ったらどうなんだ?」
「...。」
「だいたい俺の子だってのになんでお前はそんなんなんだ。作る奴を間違えた。大体、あの女に似てるからだ。反抗的な態度ばっかりとりやがって、もっとちゃんと教育をしとけば、チッ、やっぱり一度死にかけなきゃわからないのか...。お前を生むのは間違えだった。これだったら弟の方を生き残らせるんだったよ。いや違う、そもそも...」
親父はぶつぶつと呟きながら机を蹴り、壁を殴る。
落ち着かせるのは無理そうだ。
時間がたったから少しは変わったのだと思ていた。そんな期待をした俺が馬鹿だったようだ。昔の感覚を思い出す。確かに死別した弟が生きていたらこんなことにはなってなかったかもしれない。だけど弟をこんなクソ野郎の元で育ってほしくはない。
『あの女に産ませるのは間違いだった。』
次に気が付いた時には首を絞めていた。自分よりも体格がいい男を壁に押さえつけて絞め上げている。なにが起こったのかわからなかった。
今俺はなにをした?
許せなかったんだ。
母の記憶は少ない。だけど強くて優しい声で自分の名を呼んでいる。少ししかないけど遊んでくれて、一緒に笑ってくれて、本気で愛してくれた。そんな母が大好きだった。
だから母のことを否定されたのが許せない。
「やめろっ」
親父は苦しそうにもがく。あれだけ散々言っておいて自分がなることこれだ。
このまま締め続けたらこいつは死ぬのだろうか。
いや、それでもいいと思った。そしたら俺は犯罪者になる。会社にはいられなくなるかもしれない。だけど、こいつを殺せばその口が母を汚すことも、こいつのせいで仲間が傷つく心配もない。
手に込める力を強めた。
あとどのぐらいでこいつは死ぬのだろう。時間は数秒だったかもしれないし数分かもしれない。ただ時間がいつもより長く感じた。
すると親父の目線が右にずれる。
___なんだ?
次の瞬間腹部痛みが走った。
___喪摸!?
体制が維持できなくて倒れた。何故彼らがここにいるんだ?家の場所は誰も知らないはず、それに早すぎる...っ、闘夜か。友達は作れなかったが俺が園児の頃からの付き合いだった。家も近かったから彼なら家の場所を知っていても不思議じゃないし、車があるから飛ばせばすぐ着く。
でもその時の俺は目の前のこいつを殺すことしか頭になかった。
親父は咳込みでその場に倒れる。首には手形がくっきりついていた。
殺しきれなかった。
「クソッ。」
腹が痛むが、なんとか立ち上がる。
「露忌、アンタまさか最初からこうするつもりで...」
喪摸が俺を見て言った。なんでそんな顔するんだ?
「違う、ただ...」
別に最初から殺そうとしていたわけではない。一瞬目が覚める。
しかし次の言葉でまた意識はそちらに戻った。
「お前を家から出すべきじゃなかったな。ゲホッ、ゲホッ、親に手を上げるとは育てた恩を忘れたか、このクソ息子!」
顔に衝撃が走る。これは恐らく本気だ。口が切れて血が出る。俺じゃなかった骨が折れててもおかしくない。
こいつも本気なんだ。
じゃあ俺も本気でいいはずだ。
体制を崩しかけたが後ろに足をついて体を支える。そしたら勢いのまま親父を蹴った。別に人間だからって手加減する必要はない。
親父は吹っ飛んで壁にあたる。手ごたえがあったから多分骨は折れていると思う。
「いい加減目を覚ませ!」
親父は叫ぶ。
五月蠅い。
なにを言ってるんだ、自分の劣等感にしか目がいっていないお前が言えた言葉じゃないだろう。それに
「目なら覚めてる。お前こそ状況がわかってるのか?まぁいい。お前の人生はここで終わりだ。あの世で母さんに謝るんだな。」
こいつは今ここで殺す。これ以上”今の母さん”にも迷惑をかけないように。
少しふらつくが動ける。殴られたより喪摸に蹴られた場所の方が痛い。当たり前か俺たちは人間じゃないのだから。
あとは刀抜いて首を落とすだけ。
柄に手をかける。それを抜こうとした時なにかに抑えられているのがわかった。
「アンタ、自分が何しようとしてるかわかってんの?」
わかってる。わかってるのに...
喪摸が瞳をじっと見つめる。
なんで止めるんだ?ただ守りたいだけなのに、いや、違うのか?本当はそんなこと思ってなくて大義名分を持っただけで、これはただの自己満足?ただ親父を殺す理由が欲しかった?
兎にも角にも仲間にこんな顔されてはできることもできない。
「はぁ...命拾いしたな。クソ親父。」
刀を無くなるその瞬間理性が戻ったように一気に体が重くなった。
今、俺はなにをしようとした?人を殺そうとした?しかも親を、何があってもやらないと決めていたことを自ら進んでやりにいこうとした。
そう考えたら人を殺そうとしたことへの恐怖に襲われる。
ここにいたら駄目だ。おかしくなる。
そして誰にも目を合わせずに部屋から出た。
途中で母さんとすれ違ったが合わせる顔がなかった。
今はただ一人になりたい。
読んでくださりありがとうございました。
今回はちょっと暗かったかもしれません。
次回は瑠雨視点でいつも通り進みます。書くのが大変で時間がかかってしまいました。
次回もよろしくお願いします。




