13.三瀬ダムの怪(弐)
いつも読んでくださってありがとうございます。
今日はいつもより短めです。投稿が遅れてすみません。
宜しくお願いします。
その車は激しい轟音とともにダムの底へと消えた。僕の目の前を通り過ぎて柵を破壊した後、視界から消えてその数秒後それが崩れる音がした。
「落ち...た。」
人が死んだ。目の前で。何もできなかった。いやこの場にどんな人が居ようと誰も暴走した車を止めることなんてできない。だから別に自分に責任があるわけではない。けれどこの場にいたのになにもできなかったという事実が突き刺さる。腰が抜けて、僕はその場にペタンと座り込んだ。情報が整理できなくて、混乱する。皆んな驚いた顔をして一瞬固まる。露忌は反対側にいたけど車が落ちた瞬間走って車が下に落ちるのを見ていた。
「くそっ」
そう言って露忌は後ろに下がった。
「やべぇことになったな...。」
矢口と呼ばれた人はそう言って携帯を取り出すとどこかに電話し始めた。
「...さっき私が動けててタイヤを破壊できてれば...なんとか助かったかも知れないのに...。」
喪模は自分の手を見てぐっと握り込んだ。
「幽羅っなんとか助けられないの!?」
幽羅はモノを記憶した状態に戻せると言っていた。記憶は無理らしいが体だけだったらどうにかできないだろうか。
「ワタクシの能力は生者にしか...この距離から落ちてしまっては即死でしょうから。」
幽羅も顔を暗くして下を見つめた。
僕になにかできることはあったのだろうか。いや、無い。僕は今なにをすれば...。
「おい、そこの四人。暗くなってるところ悪いがもうすぐ他の警官が来る。お前らのことを知らない奴が殆どだから見つかると面倒だ。」
流石は警察、こういうのには慣れているのか表情というか表向きの変化がほとんど無い。
「わかってる。露忌行こう。」
そういうと喪模は顔を手でパンッと叩いたあと前を向いた。それはいつも顔だった。
「あ、嗚呼。わかった...。」
それとは対象的に生気のない顔をしていた露忌がはっとした顔をして言ったが、その後すぐまた暗い顔をした。
すると喪模がはぁ、と溜息をついて露忌の方へやってくる。
「シャッキっとして!死んだ奴は戻らない。ただ次の輪廻の平穏を願うだけ、そう言われてるでしょ?」
喪模が強い声で言った。それを聞いたとき幽羅の顔が一瞬声に驚いた顔になったあと決心を固めた顔になって立ち上がる。そして露忌まで近づいて喪模に続いた。
「そうですよ、露忌。貴方の大好きな女の子の前でなんていう顔してるんですか!昔、大泣きしてたワタクシだってなんとなっているです。慣れてくださいなんて言えませんが自分を責める前に死んだ人に敬意を払って前を向いてください。」
そういうとにっこりと笑った。思いの外女性陣の方が立ち直りが早かった。それにしても露忌も眼の前で人が死ぬことに慣れていなかったらしい。僕は彼らはとっくに死に慣れているものだと思い込んでいたが人が死んだことに関して悲しんだり責任を感じたりするところが共感できてよかったと思ってしまった。
「瑠雨、貴方が今の貴方になってから眼の前で人が死んだのは初めてだったのでしょうか。」
「まぁ、うん。でもあんまりにも突然過ぎて現実味が薄いかな...。」
「あまり責任を感じないでくださいね。」
「ありがとう。」
二人の声を聞いたらなんだかさっきより悲しさというか人が死んだということの僕の痛情が薄れた気がする。
「んじゃあ、今日は撤収だな。」
気がつけば露忌は立ち上がって僕を見下ろしていた。いつも通りの顔。いつも通りの声。内心ほっとした。露忌の暗い顔なんて見たくなかったから。
「あ、そうだった。矢口様、少しお話があって...。」
そういうと幽羅は草履を滑らせて警官に近づいた。ここからだと遠いから聞こえない。僕は軽くそちらを気にしながら僕達は車に乗り込んだ。
「ねぇ、喪模。」
「なに?」
「さっき今回の異変は怪異か呪いって言ってたけど、どっちか検討はついた?」
「うーん。事前に軽く調べたんだけど、ここで車が落ちるだなんて都市伝説はなかった。だから、そうとうマニアックなものかそれとも半神か呪いか...うーん予測がつかないわ。」
「半神?」
「そう半神。そうだ瑠雨はこの”星界”の神様について知らなかったのよね。宗教は数あるけれどそれは神の一部にしか過ぎない。星界には絶対神と母神がいてその下に十三の神様、で、更に下に数え切れないほどの半神がいる。怪異と半神は似てるようでぜんぜん違うから同じカウントにはいれてない。」
星界が現世と天界と地獄をあわせた総称であることは知っていたけど神様関連にはよくわからなかったから初耳だ。ただそんな宗教事情がひっくり返りそうなことを堂々と言って大丈夫なのだろうか。
「でたファンタジー!」
「ファンタジーと言われても事実だし...。そうだ、瑠雨はなにかわかった?」
わかったこと...僕は下調べなんかは全くしていないから無知に等しいかったが一つ思い出したことがあった。
「僕はなにかわかるってわけじゃないけど、運転手?の後ろに一瞬だけ子供っぽいのが沢山見えたんだ。」
僕が驚いて運転座席を見た時確かに見た。見た瞬間はそれがなにか認識できなかったけど、思い出してみればあれは子供だった。
「子供?」
「ワタクシ達が居た位置からだと運転座席が見えないなのでそれが怪異か呪いかの確証は得られなそうですが半神という選択肢は消えたでしょうね。」
「幽羅!?いつの間に戻ってきたんだ、」
幽羅はにっこりと微笑んだあと後ろを振り返って
「矢口様はなにか見えましたか?瑠雨の近くにいらっしゃいましたよね?」
遠くから首を振る矢口さんの姿が見えた。
「単に角度が悪かっただけでしょうか?それとも幽霊だったから見えなかったのでしょうか?」
「なんで半神じゃないの?」
「それは、半神は群れないからさ。沢山いるんだったらそれは半神じゃない。」
露忌が説明を加える。そう話している間に幽羅は助手席に座ってシートベルトを締めた。それを確認したあと車は発車した。一瞬この車も落ちるんじゃないと思って焦る。
「でも一番有力なのはこのダムに沈んだ村がなにかしたっていうのだけど...あっそうだ。幽羅さっきなに話してたの?」
すると幽羅は聞かれるのを待っていたかの如くきらきらといた目で振り返った。
「今日車がおかしくなったところまで封鎖して貰っていました!もしそれで被害がなくなればある一定の範囲に効果を及ぼすモノとわかると思ったのです!」
ん?でもそれって...
「それって失敗すれば次の犠牲が出るだけじゃない?」
するとあ、っと重要なことに気がついたようで真っ青な顔になった。
「ワタクシ、なんてことをっ」
そういうとこっちを見て露忌が軽く笑った。笑うのはいいのだが危ないので前を向いてほしいものである。
「今日は一旦寝て明日考えましょ。」
「まぁ一番楽なのはダムの水を丸々抜いてその村を調べることだけど...あーあダム村に異界があるかどうか調べられればいいのになー。」
喪模はそう言って頭の後ろで腕を組んで足をバタバタさせた。
沈黙が走る。
「「....いた!」」
幽羅と露忌がそれだ!といって向き合った。
全くわからない。だけどお願いだから露忌、前を向いてくれ。
「「??」」
僕と喪模で顔を見合わせる。
「なんで本人が気がつかないんだ...。」
「喪模の特異異変は異界と現世を繋げるじゃないですか。」
「あっそっか!」
パンと手を合わせ喪模が明るい顔になる。
「じゃあ明日それやろう!」
知らぬ間に勝手に解決されてしまった。
「いや、待ってくれ。お願いだから僕にわかるように説明して。」
「なんか最近説明ばっかしてるような...」
「いいから!」
「ええ、っとまず知らないと思うが喪模の特異異変はブラッディーメアリーっていう海外の都市伝説からきてる。それは調べればわかるんだが、ブラッディーメアリーを別のナニカに置き換えて召喚してるんだ。その時に大鎌で裂いて異界と現世を繋いで向こうから持ってくる。だから、」
「喪模に異界を繋がせて原因を探るってこと?」
「そういうこと」
露忌が説明し終えた時喪模はうーんとうなった。
「いつも決まったところしか繋いでないから別の異界って繋げるのかなぁ?」
「だから一応異界があるはずの場所の近くでやってみよう、と、いうことです。」
「ふーん。それは明日の自分に任せるわ。なんか座ってばっかで疲れちゃったし。」
そういうとがっくりとする。
「運転、変わってくれてもいいんだけど、」
「免許持ってないから無理よ。」
「まぁまぁもうすぐ着きますから。」
もうすぐ着くとは宿のことだろうか。
皆明るく振る舞ってるけどまだなにか暗い感じがする。やっぱり皆んなショックだったんだろうか。僕は怖いという思いはあったけどなんだかあまり実感が湧かなかった。
若干道が開けてきた気がする。今日はちゃんと眠れるだろうか。
そんなこんなであまり発見の無いまま今日の調査は終わった。
読んでくださってありがとうございました。
この怪の原因はなんなのか、次回も宜しくお願いします。




