第96話:神域の攻防(2)――人間の意地と、エルフの誇り(定命の者たち編)
上空を覆う黄金の歯車から放たれた極太の「『初期化レーザー』を、アレンの『エクスカリバー・フルリリース』が正面から相殺した。
光と光が衝突し、猛吹雪が吹き荒れるはざま村の庭に、クレーターのような衝撃波が走る。
『……警告。警告。対象個体【アレン】、定命の人間でありながら、出力が世界規定値を20000%超過。……因果律の致命的エラーを確認』
原初の裁定者は、無機質な瞳をわずかに細めた。
その視線は、魔王ゼノン(チッチさん)や精霊王エリュシオンといった本来この世界で上位に位置する存在ではなく、アレンたち前衛へと向けられた。
『……優先排除対象を変更。まずはシステムへの矛盾が最も大きい「定命のバグ個体群」から初期化を実行する』
裁定者の背後にある黄金の歯車が分解され、無数の光の刃となってアレンたちに降り注ぐ。それは一撃一撃が、山脈を消し飛ばすほどの質量を持っていた。
「くっ、数が多すぎる……!」
アレンが聖剣で光の刃を弾くが、手が痺れるほどの重さだ。
「皆様、恐れることはありませんわ! わたくしに続きなさい!」
その時、凛とした声が戦場に響き渡った。
隣国の姫であり、今はすっかり村の生活(と、たこ焼き)に馴染んでいたプリシラ姫である。
彼女がソラお手製の『至高のはんてん』を翻して前に出た瞬間、彼女の中に眠る『王族の統率力』が、村の神聖な食事によって極限まで引き上げられた状態で発動した。
「わたくしたちは、この村で温かいお風呂に入り、美味しい食事をいただき、共に笑い合いました。……その恩を、ここで返さずして何が王族ですか! 陣形を展開! エルナ様、リーナさん、後方からの制圧射撃を!」
「はいっ! ソラ様から教わった『奉仕の心』、今こそ力に変えて!」
「ちょっと、あんた達本気で行くわよ! 『女神の午後の紅茶』パワー、見せてやるんだから!」
プリシラの絶対的な指揮バフを受けたエルナとリーナが、一気に魔力を高めた。
「……大いなる光よ、ソラ様がいつもお庭を綺麗にするように、この空の穢れを洗い流してください! 『神聖浄化』!!」
エルナ(聖女エルフ)が杖を掲げると、天界の最高位魔法すら凌駕する純白の光の奔流が巻き起こった。
ソラへの信仰心(と、洗濯への情熱)が斜め上にカンストしている彼女の祈りは、もはや神への祈りを超え、世界そのものへの直接干渉へと至っている。
「私も行くわよ! 『極大殲滅炎陣』!!」
リーナが魔導書を展開する。ジハンキさんから買った『女神の午後の紅茶(10円)』によって脳内に直接ダウンロードされた古代語魔法が、エルナの聖なる光と螺旋を描きながら融合した。
『……対象からの高エネルギー反応。防壁を展開』
裁定者が六角形の光の盾を幾重にも展開する。
二人の極大魔法が直撃し、鼓膜を破るような轟音と共に空間が激しく揺れた。しかし、煙が晴れた後には、裁定者の防壁はひび割れながらも健在だった。
「嘘でしょ……! あれだけ魔力を込めたのに、防がれた!?」
リーナが悔しげに唇を噛む。
『……魔法による干渉を無効化。反撃プロトコルに移行——』
「……遅い」
裁定者が反撃の光線を放とうとしたその瞬間、氷点下の囁きがその死角から響いた。
いつの間にそこにいたのか。
裁定者の真後ろの空間に、漆黒のパジャマ(ソラ製・安眠特化)を纏ったダークエルフの戦士、ヴォルガが音もなく張り付いていた。
「……ソラ殿の用意した極上の安眠を邪魔する者には、死あるのみだ。……『夢幻双剣・宵闇の安眠』!!」
裏森の清掃と安眠を担当し、ソラの精神に心酔している彼は、その極限まで研ぎ澄まされた集中力をもって、裁定者の防壁のわずかな継ぎ目を完璧に見切っていた。
ジャキィィッ!!
ヴォルガの放った、音を置き去りにする漆黒の連続剣技が、防壁の接合部を正確に切り裂く。
『……エラー。背面装甲のパージを——』
「おいアレン!! 道は開けたぜ!!」
裁定者が体勢を立て直すより早く、ヴォルガが切り開いた防壁の隙間に向かって、巨大な影が跳躍した。
元Aランク冒険者、『暁の剣』の重戦士ガストンである。
彼の肉体は、『英雄の休息・ロイヤルミルクティー(10円)』の力により『神鉄肌』へと進化を遂げ、連日のハムスター師匠による竹箒のしごきで、足腰のバネは限界を突破していた。
「オラァァァッ!! これが、はざま村清掃部隊の、魂の一撃だぁぁっ!! 受けやがれ、『神鉄剣・一掃大両断』!!」
ガストンの渾身の必殺技が、裁定者の本体である黄金の装甲にクリーンヒットする。
甲高い金属音と共に、絶対に破壊不可能とされたシステムの外装が、蜘蛛の巣のようにひび割れ、ついに砕け散った。
『……致命的損傷。対象群の身体能力、論理的解明が不可能……』
裁定者が初めて体勢を崩し、その無表情な顔にわずかなノイズ(焦り)が走る。
「今だ! アレン!!」
ガストンの叫びに応え、雪を蹴り上げて空へと跳んだのは、かつての伝説の勇者、アレン。
「……神々や魔王から見れば、俺たちはただの人間だ。寿命も短く、脆く、弱い、定命の存在だ。……でもな」
アレンの脳裏に浮かぶのは、毎日庭で掃き掃除をし、カマドさんでピザや餅を焼き、こたつの中でみんなと他愛もない話をして笑い合う、あのバカバカしくて温かい日々の記憶。
「……その『普通の日常』を守るためなら、人間は神様にだって牙を剥けるんだよ!!」
アレンは空中で身を捻り、ソラから受け継いだ『全知の解析眼』を極限まで稼働させる。
裁定者の砕けた装甲の奥にある、最も脆いコアの座標を視覚化する。
手に持つ聖剣エクスカリバー(肩叩き棒兼用)から、ほんのりと香る『神域醤油』と『湿布』の匂い。それが、アレンに絶対的な安心感と力を与えていた。
「これで……終わりだァァァッ!! 『聖剣奥義・極光一閃』!!」
勇者の全てを込めた最速の必殺剣。
それは光そのものだった。人間の限界を遥かに超え、しかし人間としての魂と意地を乗せた神速の一撃が、裁定者の胸のコアを深々と貫いた。
ピシィィィィッ……!!
裁定者の巨大な体が硬直する。
直後、内部から溢れ出した眩い光と共に、黄金の装甲と歯車が大爆発を起こした。
ズシィィン……ッ。
猛吹雪の中、空から焼け焦げた黄金の残骸がパラパラと降り注ぐ。
「……はぁっ、はぁっ……」
アレンが雪の上にふわりと着地し、荒い息を吐く。
ガストンもリーナも、エルナやヴォルガ、プリシラ姫も、全員が肩で息をしながらも、その目には確かな達成感が宿っていた。
「……やったか?」
ガストンが大剣を杖にして呟く。
神々ですら干渉を恐れる『原初の裁定者』を、定命の人間とエルフたちの連携だけで打ち破ったのだ。これは、世界の歴史がひっくり返るほどの偉業であった。
だが。
『……コア・再起動。
……対象領域の危険度を、最上位【クラス・オメガ】へ更新。
……物理的排除プログラムを破棄。次元消滅プロトコルへ移行します』
アレンの足元から、ぞわりと這い上がるような悍ましい魔力が噴出した。
砕け散ったはずの裁定者の残骸が、宙で液状化し、禍々しい漆黒の球体となって再構成されていく。それはもはや人型ですらなく、世界を無に帰すための純粋なエネルギー体へと進化を遂げようとしていた。
「……冗談だろ。あれだけやって、まだ本気じゃなかったってのかよ……!」
アレンが絶望的に呟き、再び剣を構えようとした、その時。
「……チチチッ。(よくやった、人間ども。貴様らの意地、確かに見届けたぞ)」
「……ニャア。(下がれ。ここからは、理不尽には理不尽で返す『深淵の領域』だ)」
アレンたちの前に進み出たのは、愛用のミニ竹箒を肩に担いだ黄金のハムスターと、艶やかな毛並みの黒猫。
——世界のバグを消去しようとするシステムに対し、かつて世界を絶望で支配した『魔界と冥界の王』が、静かにその牙を剥いた。
読んでいただきありがとうございます!
第96話、お届けしました。
10円ドリンクやソラくん特製の衣服で限界突破したアレンたちの意地の一撃、最高に熱くなりますね……! 聖剣から漂うお醤油と湿布の匂いは、実家のような安心感があります(笑)。
しかし、世界のシステム(原初の裁定者)は甘くなく、さらに凶悪な姿へと再起動。
絶望的な状況の中、ついにあのこたつで丸くなっていた最強の二匹が動き出します。
「アレンたちの絆に痺れた!」「チッチさん、ついに本気を!?」「ソラくん、早くお醤油買って戻ってきて!w」と思ってくださった方は、
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