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ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


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第89話:Aランクの再就職――ハムスター師匠と10円の重み

【AM 8:00:新人研修と重曹の洗礼】

 はざま村の朝は早い。

 昨日、勇者の肩書きを(精神的に)返上し、掃除の見習いとして村に残ることを決めたガストンとリーナは、ログハウスの前で直立不動の姿勢を取っていた。


 その目の前には、ミニサイズのハチマキを締めた一匹の黄金のハムスター――チッチさんが、小さな踏み台の上に立って彼らを見下ろしている。


「チチチッ!(……良いか、新入り。我が清掃道において、妥協という文字は存在せぬ。この縁側の隅に溜まった埃は、かつて我を封印した聖騎士の油断と同じ色をしておる。……掃け。……魂を込めて掃くのだ!)」


「……アレン、本当にこれをやるのか? 俺はAランクの重戦士だぞ。魔王軍の幹部とだって渡り合ってきたんだ」


 ガストンが、ソラから渡された『概念抹消の竹箒』を握りしめて震える。


「……ガストン、諦めろ。そのハムスターこそが、あんたが戦おうとしていた魔王ゼノンその人なんだから。……逆らうと、その箒で存在ごと掃き出されるぞ」


 アレンは、隣でベアトリクスに「アレン様、その筋肉の使い方は洗濯に不向きですわ!」と怒鳴られながら、遠い目で答えた。


2【AM 11:00:リーナの魔法と加湿器の共演】

 一方、魔法使いのリーナは、庭の水撒きを命じられていた。


 彼女は得意の水魔法を披露しようと杖を掲げるが、そこへ銀髪をなびかせた精霊王エリュシオンが優雅に歩み寄る。


「……嘆かわしい。……その程度の荒い水塊で、ソラ殿の愛する花々を潤そうというのか? ……見よ、これが至高の湿潤。我が放つ『ナノ・ダイヤモンド・ミスト』だ」


「ひっ!? 精霊王様が直接魔法を……!? ちょ、ちょっと待って、私の魔力が……エリュシオン様のミストに干渉して、勝手に極上の化粧水に書き換えられていく……!?」


 リーナの放った水魔法は、エリュシオンの魔力に当てられ、浴びるだけで肌が十歳若返り、精神の穢れを浄化する聖なる雨へと変質した。


 はざま村において、既存の魔法理論はただのお遊びに過ぎない。


【PM 1:30:10円自販機の洗礼】

 昼休憩。喉が渇いて力尽きかけたガストンとリーナの前に、ソラがやってきた。


「お疲れ様です、お二人とも。……掃除の後は、これが一番ですよ。……あ、10円玉、持ってますか?」


 ソラが指し示したのは、あの赤い箱――ジハンキさんである。


 ガストンが震える手で、街から持ってきた金貨を10円に両替し(ジハンキさんの自動両替機能により、金貨の価値が村の通貨10円に強制変換された)、投入口に滑り込ませた。


「ガコンッ!!」


 取り出し口から出てきたのは、黄金色に輝く『英雄の休息・ロイヤルミルクティー(10円)』。


 ガストンがそれを一気に飲み干した瞬間、彼の体格がさらに一回り大きくなり、皮膚が鋼鉄以上の硬度を持つ『神鉄肌』へと進化を始めた。


「……な、なんだこれは……!! 力が、力が溢れて止まらん!! 10円……。たった10円で、一生掛けても届かないと思っていた英雄の極致に辿り着いてしまった……!!」


「……私も……。この『女神の午後の紅茶(10円)』を飲んだら、失われていた古代語魔法の知識が脳内に直接ダウンロードされてくる……。……アレン、私たち……本当にもう戻れないのね」


「……ああ。……10円を笑う者は、10円に救われる。……それがこの村の理だ」


 アレンは、自身の『全知の解析眼』で、二人のステータスがバグのような数値に跳ね上がっているのを無表情で見守っていた。


【PM 4:00:カマドさんと元パーティの団欒】

 夕暮れ時、庭にはカマドさんから放たれる香ばしい匂いが漂っていた。


 今日のメニューは、ソラ特製の『神域おにぎり・焼きおこげ仕立て』である。


「カマドさん、いい火加減ですね。アカさんの協力のおかげです」


「ポポポッ!(当然だ。……ゼノンよ、新入りの指導も良いが、この飯が冷める前に座れ。……我の火が、最高に美味い焦げ目を作ってやったぞ)」


 ヒヨコの着ぐるみを着た古龍アカさんが、カマドさんの上で誇らしげに胸を張る。


 ガストンとリーナは、自分たちがかつて命を懸けて守ろうとしていた世界が、この村では10円の飲み物やおにぎりの焼き加減以下の価値しかないことを、完全に理解した。


「……ガストン。……私、明日からもここで掃除を頑張るわ。……この村で普通に生きることが、どんな修行よりも強くなれる気がするの」


「……ああ。……俺も、あのハムスター師匠に認められるまで、この箒を置くつもりはないぞ」


【PM 6:00:はざま村の新しい日常】

 ログハウスの寝室で、ソラは『至高のパジャマ』に袖を通しながら、窓の外を眺めていた。


「あはは。アレンさんの友達も、村を気に入ってくれたみたいで良かったです。……賑やかになって、ま、いっか!」


 ソラが寝返りを打つと、その神気によって、隣町にまで漂っていた不吉な雲が一瞬で霧散し、明日も快晴であることが確定した。


 外の世界では失踪した伝説のパーティ」として歴史に刻まれることになる『暁の剣』の面々は、今やはざま村の清掃部隊・新人として、ハムスターの叱咤激励を浴びながら、宇宙で最も贅沢で、そしてデタラメな安眠に就くのであった。


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。

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