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ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


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第88話:暁の剣、神域に散る――勇者の帰還と普通の崩壊

【AM 10:00:伝説の追跡】

 商業都市を震撼させたキングキマイラ・デコピン事件から数日。


 かつてアレンと共に戦ったAランクパーティー『暁の剣』の重戦士ガストンと魔法使いリーナは、険しい北の山嶺を越えていた。


「おい、リーナ……本当にこっちで合ってるのか? ここら一帯は、地図じゃ生命存在不可の死の大地、はざまの地のはずだぞ」


「……アレンが消えた方向はこっちよ。あんなデタラメな力を手に入れた彼が、普通の場所にいるはずがないわ。……それに、見てなさい。あの不毛の地と言われた場所から、ありえないほどの聖気が溢れ出しているのを」


 二人が最後の峠を越えた瞬間、その眼前に広がる光景に、言葉を失った。


 そこには、雪深い山々に囲まれているにもかかわらず、常春の如く花々が咲き乱れ、黄金色の陽光が降り注ぐ楽園があった。

「な……なんだ、ここは。天界の入り口か……?」


「……違うわ。あれを見て……。アレンが言っていた村よ」


【AM 11:30:門番と加湿の洗礼】

 二人が震える足ではざま村の入り口に辿り着くと、そこには一台の赤い箱――ジハンキさんが鎮座していた。


「……何だ、この禍々しい威圧感を放つ鉄の箱は! 魔王軍の古代兵器か!?」


 ガストンが大剣を引き抜こうとしたその時、上空から銀髪をなびかせた絶世の美男子が舞い降りた。精霊王エリュシオンである。


「……愚かな人間よ。……その鉄屑を仕まえ。……我が放つ『ナノミスト』が、貴様らの薄汚れた装備と肌を、極限まで潤してやろうではないか(シュゴーッ)」


「ひっ!? せ、精霊王……!? なぜ神話の存在が、こんな場所で霧を撒いているの!?」


 リーナが腰を抜かす中、村の奥から聞き慣れた声が響いた。


「あ、ガストンにリーナ。……本当に来ちゃったのかよ」


 そこには、麦わら帽子を被り、ソラから渡された『搾りたての神聖牛乳(10円)』をストローで啜っているアレンがいた。


 その背後には、三つの首を持つ巨犬ポチが「ガウッ(また客か?)」とあくびをしている。


【PM 1:00:神の厨房のピザと「ま、いっか」の洗礼】

「アレン! 貴方、今までどこで何を……って、その牛乳、魔力が結晶化して光ってるじゃない!!」


「……ああ、これか。ソラさんが『喉が渇いたでしょう』って10円で売ってくれたんだ。……まあ、細かいことはいいから、とりあえず座れよ。今、ソラさんがお昼ご飯を作ってくれてるから」


 アレンに案内され、二人がログハウスの庭に足を踏み入れると、そこにはカマドさんの前でエプロン姿の青年――ソラが、アカさん(ヒヨコ姿の元古龍)と相談しながらピザを焼いていた。


「あ、アレンさんのご友人ですね! 初めまして、村人のソラです。ちょうど今、ピザが焼けましたよ。ま、いっか、と思ってチーズを多めにしときました!」


 ソラが差し出したのは、宇宙を震撼させた『銀河チーズピザ』である。


 ガストンが恐る恐る一口齧った瞬間、彼の全身から黄金のオーラが噴出した。


「……っ!! お、おおおおお……!! 全身の古傷が……! 10年前の肉離れまで完治していく!! ……それにこのチーズ、どこまで伸びるんだ!? 国境を越えて隣の帝国まで届いてるぞ!!」


「……美味しい……。……私、今まで何を信じて魔法の修行をしてきたのかしら……。このピザ一切れで、私の全魔力量が昨日の百倍になってるわ……」


【PM 3:30:元魔王の掃除指導】

 食後、放心状態の二人の前を、一匹のハムスターがミニ竹箒を持って横切った。


「……チチチッ!(おい、アレン。この連中、食ってばかりで掃除を手伝わぬのか? 我が特製重曹水の浸透圧教育を叩き込んでやってもよいぞ)」


「ア、アレン……。あのハムスター、今『我』って言わなかった? しかも、その魔力……まさか、伝説の魔王ゼノンじゃ……」


「……ああ、ゼノンな。今は掃除担当だ。……ちなみにそっちの黒猫は冥界王クロさんで、あそこで洗濯してる美女は魔王軍の軍団長ベアトリクスだ。……驚くのはもう、無駄だぞ」


 アレンの死んだような魚の目を見て、ガストンとリーナは悟った。


 かつての英雄であるアレンは、このデタラメな神域の中で、すでに常識という名の境界線を踏み外してしまっているのだと。


【PM 5:00:伝説の辞退】

 夕暮れ時、二人はソラからお土産として、ハクさんが精製した『万能浄化石鹸(10円)』と、アカさんの残り火を詰めた『携帯用床暖房石』を渡された。


「アレン……戻ってこないのか? 街では、お前を王宮騎士団長に任命しようって話まで出てるんだぞ」


 ガストンの問いに、アレンは庭でポチの首を三つ同時に撫でながら、穏やかに首を振った。


「……いや。俺は、ここでいい。……ここでは、俺の力なんてちょっと力仕事ができる便利屋程度なんだ。……それが、一番落ち着くんだよ」


 ソラが後ろから「アレンさーん! 明日は裏庭の池の掃除ですよー!」と声をかける。


「……ほら、仕事だ。……じゃあな、二人とも。塩が必要になったら、また行くよ」


 アレンが『創世のサンダル』で一歩踏み出すと、彼は一瞬でログハウスの裏へと消えた。


 村の入り口に残されたガストンとリーナは、ジハンキさんから10円で出てきた『賢者の吐息(コーヒー牛乳)』を啜りながら、沈む夕日を眺めた。


「……リーナ。俺たち、もう勇者なんて名乗るの、やめないか?」


「……ええ。……明日から、私たちも『掃除の見習い』として雇ってもらえないかしらね」


 はざま村の夜は、元勇者たちの誇りを優しく、そして徹底的に粉砕しながら、今日という一日を平和に締めくくるのであった。


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。

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