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ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


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第71話:王女と聖女の談話室――銀河(おはぎ)の余波と、洗濯の聖域


 はざま村の昼下がりは、ソラが『銀河チーズおはぎ』を完成させた余波により、世界の解像度そのものが一段階跳ね上がったかのような輝きに満ちていた。


 吸い込むだけで肺がクリスタルのように透き通るほど清浄になった空気の中、ソラのログハウスのリビングでは、今日も「ま、いっか」の精神で小さな厨子の扉が開け放たれている。


 その扉から漏れ出す淡い光と、キッチンから漂う甘く芳醇なチーズの香りに誘われ、居間のソファには、実体化した三代前の帝国皇帝と、古代の魔法体系を築いたとされる大賢者が、当たり前のように座って茶を啜っていた。


「……おお。……これだ。……昨夜、我が魂を揺さぶったこの芳香。……現世にこれほどまでの理を丸めた菓子が存在しようとは……」


 三代前の皇帝が、霊体でありながらはざま村仕様にアップデートされた味覚で、震える手でおはぎを口に運ぶ。


「……あ、あの。陛下。そんなに急がずとも、おかわりはたっぷりございますわ。……何せ、このはざま村の特産品は、一口食べれば全知の叡智を授かり、二口食べれば争いなどどうでもよくなる……いわば平和の結晶なのですから」


 かつて帝国でその美貌と気品を謳われたプリシラが、今やおはぎ布教の大使のような顔で、次々とお皿を差し出している。彼女の瞳には、かつて外伝で予言されたオハギニア王国を、今ここで自らの手で既成事実化しようとする強い意志が宿っていた。


「……プリシラ! 予言で見た光景を、自分から強引に手繰り寄せに行くなよ! あの霊体たち、すっかり骨抜きになって、天界に帰るのを忘れて居座り始めてるじゃねぇか!」


 縁側の隅で、アレンが胃を押さえながら叫ぶ。彼にとって、あのおはぎを食べた瞬間に脳裏をよぎった

「パジャマ姿のソラが異世界の王宮で10円を拾う」という不可解なビジョンは、もはや恐怖でしかなかった。


 その時、リビングの重厚な空気を切り裂くように、一人のエルフの女性が堂々と足を踏み入れた。聖女エルナである。


 彼女の脇には、黄金色に輝き、周囲の因果を物理的に洗浄し続ける神具『神の洗濯板』が抱えられていた。


「……ソラ様。今、戻りましたわ」


 エルナは、ソラが脱ぎ捨てたばかりの、ほんの少し泥がついた靴下を、獲物を見つけた狩人のような鋭い目で見つめた。


「あら、エルナ。おかえりなさい。修行はどうだった?」


 パジャマ姿でティーカップを揺らしていたユウナが声をかけるが、エルナの耳には届かない。彼女の全神経は、ソラの靴下に絡みついた汚れという名の不敬に集中していた。


「……ソラ様。見てください。貴方様が『銀河チーズおはぎ』をお作りになった際、世界の解像度が上がりすぎたせいで、この靴下の繊維に絡みついた微細な因果の汚れさえも、天界のシミのように目立っております。……ですが、安心してください。この私が持ち帰った『神の洗濯板』と、ソラ様直伝の洗濯呪文(綺麗になーれ)があれば、過去の汚れという事実ごと、歴史から消去してみせますわ!」


「エルナさん、気合入ってますねぇ。でも、ただの庭仕事の泥ですよ? ま、いっか!」


 キッチンから、新調した麦わら帽子を被ったソラが、急須を片手に現れた。


 帽子の『最高神の羽』から漏れ出す神光が、エルナの持つ洗濯板と共鳴し、リビング全体に漂白剤を超越した究極の清潔感が爆発的に広がった。


「ソラ様! 汚れは万病の元、そして全宇宙の不浄の入り口です! 私は貴方様が常に、あの不老不死パジャマと共に真っ白な、概念的な無菌状態でいてほしいのです! ……あ、そこのご先祖様。今、座布団に霊的な塵を落としませんでした? 存在ごと除菌されたいのですか?」


 エルナが修行で手に入れた『因果消滅の雑巾』をパサリと広げる。その瞬間、古代の賢者の霊が「……ひっ! 魂の解像度を下げられる!?」と震え上がり、慌てて背筋を伸ばして正座した。


 そんな騒がしいリビングの隅で、もう一人の女性が、静かに、しかし燃えるような執念を持って獲物を狙っていた。元魔王軍軍団長、ベアトリクスである。


 彼女の手には、ソラがDIYで改造し、撫でるだけで邪念を消し飛ばす『超振動・概念浄化ブラシ』が握られている。その視線の先には、掃除の手を止めておはぎの匂いを嗅いでいる、黄金のハムスター姿のチッチさん(元魔王ゼノン)がいた。


「……ゼノン様。……さあ、こちらへ。おはぎの粉が、その輝かしい毛並みに付着しておりますわ。……私が、愛の超振動で、根こそぎ磨き上げて差し上げます……」


「チチチッ!(……ベアトリクス、よせ! そのブラシ、出力が上がっているではないか! 我の毛根が、神格化の余波で黄金の稲穂に進化して、そのまま刈り取られそうな予感がするのだ!)」


 チッチさんが慌ててソラの足元へ逃げ込むが、ベアトリクスの愛(ブラッシング欲求)は、はざま村の結界をも突き抜ける勢いだった。


「(……チチチッ。エルナは洗濯、ベアトリクスはブラッシング……。この家には、落ち着いて汚れを楽しむ隙も残っておらんのか)」


 チッチさんが思念を飛ばすと、ソラが「あはは、仲が良いですね」と微笑みながら、10円玉を取り出した。


「あ、そうだ。エルナさん。修行のお礼に、ジハンキさんの『特製・お疲れ様イチゴオレ』を買っておきますね。10円、僕が作ったポストに入れておきます」


「……っ!! ソラ様直筆のメッセージ付き10円! ありがとうございます、一生の宝……いえ、我が一族の聖遺物として末代まで語り継ぎますわぁぁ!!」


 エルナが絶叫し、神の洗濯板を抱えて歓喜の舞を踊る。その姿は、聖女というよりは、もはやソラの熱烈な信者(あるいは重度の洗濯依存症)のそれだった。


 ジハンキさんが冷静にアナウンスを入れる。


『……報告。聖女エルナノ感情指数、臨界値ヲ突破。……冷却用ノ、ナノミストヲ、ジハンキヨリ噴射シマス。……ツイデニ、ゴ先祖様タチ、オ茶ノオカワリ、10円デス』


「……ジハンキさん、どさくさに紛れてご先祖様から集金するなよ!」


 アレンのツッコミが響く中、ソラは満足げにイチゴオレのボタンを押した。


 はざま村の平和は、『銀河チーズおはぎ』の甘い記憶と洗濯聖女の狂気、そしてブラッシングの隙を狙う軍団長の執念によって、今日も(衛生的な意味で)ピカピカに守り抜かれるのであった。


「……ま、なんとかなりますよね!」


 ソラののんびりした声が、神域と化したリビングに響き渡り、明日への新しい混沌(と10円)を約束していた。


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。

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