表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/75

第70話:万象の調律師――ソラの一日、あるいは「ま、いっか」の作法

 はざま村の朝は、誰が強制したわけでもなく、世界のことわりがソラの目覚めに合わせて書き換わることから始まる。


【AM 6:00:起床と『境界』の管理】

 ソラは、枕元に置いた『最高神の羽』付きの麦わら帽子が朝日を反射し、寝室に虹色の波紋(神界の崩壊を告げるほどの聖光)を描くのと同時に、ゆっくりと目を覚ます。


 彼が最初にするのは、昨夜から開け放していた厨子の扉を、そっと確認することだ。


「おはようございます。夜風、寒くなかったですか?」


 ソラが扉の向こう側――「あの世」や「高次元」の来客たちが立ち去った後の空間――に向かって声をかけると、居間の空気がふわりと温かく揺れる。


 扉から漏れていた霊的な冷気が、ソラのおはようという定義によって、一瞬で春の陽だまりへと上書きされるのだ。


 彼はパジャマのまま縁側に出て、大きく伸びをする。


 その際、ソラの関節が鳴る「ポキッ」という音に合わせて、村を囲む結界が再起動し、侵入を試みていた魔界の偵察部隊が概念ごと消滅しているのだが、ソラは「今日も空気が美味しいですね」と微笑むだけだ。


【AM 7:30:朝食と『調律』の儀式】

 ソラの台所仕事は、他の誰よりも静かだ。

 彼は『万象断ち』の箸を手に取り、まずはぬか床(ヌカドゥーラ=ラクトバチルス)さんの機嫌を伺う。


「今日も元気ですね。……よいしょっと」


 ソラの手が樽の中のぬか床をかき混ぜる。その指先の動きは、傍から見ればただの家事だが、実際には邪神の残滓を乳酸菌の善意へと強制的に練り込む概念の固定だ。


 かき混ぜるたびに、ぬか床からポコポコと至福の産声が上がる。


 朝食は、はざま村産の米と、漬物、そして『ハクのイチゴオレ』だ。


「ハクさん、おはようございます。今日も美味しそうです」


『……マスター。おはよう。……栄養バランス、完璧デス。……カザルヨリ、本日ノ、湿度管理データヲ、送信シマス』


 カザルのギルドにいるハクさんと、卓上の小さな水晶(ジハンキさん経由のリモート端末)で挨拶を交わす。ソラが一口ご飯を食べるたびに、村全体の魔力濃度が1%ずつ上昇し、その余波で庭のタンポポ(自警団)たちが背筋を伸ばして敬礼する。


【AM 10:00:庭仕事と『因果の整理』】

 午前中、ソラが最も時間をかけるのは庭の手入れだ。


 ソラが手にするジョウロ――『原初の泉』から水を汲み上げたDIY品――から放たれる水は、ただのH2Oではない。それはあるべき姿に戻るという概念を付与された聖水だ。


「この雑草さん、ちょっと元気すぎますね。もう少し、端っこの方で静かにしていてください」


 ソラがそう言って、神器の鎌(といっても、本人は百円ショップ的な店で買ったつもり)を軽く一振りする。


 その瞬間、鎌の軌道上にあった世界の不条理や残留魔力が、パリンとガラスのように砕け、美しい花畑へと再構築される。


 この時、ソラの肩にはアカさんが乗り、足元にはクロさんとピピさんがまとわりついている。


「ガウッ!(ご主人、俺、ここ掘るの得意だぞ!)」


 パジャマを脱いで身軽になったポチが庭を掘り返すと、地中から『古代王国の遺跡』や『失われた聖遺物』がゴロゴロと出てくるが、ソラはそれを「あ、大きな石ですね。庭石にちょうどいいかな。ま、いっか!」と、適当な配置で埋め直していく。


【PM 1:00:作業小屋での『創造』】

 昼食を終えたソラは、村の外れにある作業小屋へと向かう。ここがソラにとっての仕事場だ。


 小屋の中には、ソラが「なんとなく」拾ってきた素材が山積みにされている。オリハルコンの塊(漬物石用)、世界樹の枝(物干し竿用)、そして最高神の羽(帽子の飾り予備)。


 今日のソラの仕事は、昨夜の夜の来客たちのために、座り心地のいい椅子を増設することだ。


「うーん。もう少し、魂がとろけるような柔らかさが欲しいですね」


 ソラが手に取ったのは、雲の一部を固めた綿と、古い布。


 彼が針を刺し、糸を通すたびに、小屋の中に「パチッ、パチッ」と落雷のような音が響く。それは布を縫っている音ではなく、空間の壁を縫い合わせ、新しい次元のポケットを作っている音だ。


 ソラの『全知全能の解析眼(老眼鏡仕様)』が、素材の深淵を見通す。


「……あ、ここ(因果律)、少しほつれてますね。直しておきましょう」


 ソラが指先で布をなぞるだけで、素材の持つ寿命や劣化という概念が消去され、それは永遠に朽ちない『聖遺物以上の何か』へと変貌を遂げる。本人は「丈夫な椅子ができました」と満足そうに汗を拭う。


【PM 4:00:村の巡回と『10円の精算』】

 夕暮れ時、ソラは村の中央にあるジハンキさんの元を訪れる。これは、ソラにとって非常に重要な会計の時間だ。


「ジハンキさん、今日も村の管理、ありがとうございます」


『……マスター。……本日ノ、利用者、合計127名。……収益ハ、1270円。……全額、村ノ「ま、いっか基金」ヘ、回シマス』


 ソラは「石(10円玉自動生成岩)」から拾った10円玉を、一日の感謝としてジハンキさんに投入する。


「これ、僕の分です。明日もよろしくお願いしますね」


 この10円の投入が、はざま村のOSを最新の状態にアップデートする儀式となっている。10円が投入された瞬間、村全体の不純物がデフラグされ、不治の病を持つ旅人も、呪われた勇者も、10円のイチゴオレを飲んだ瞬間に「ま、いっか」と悟りを開いて帰路につく。


【PM 7:00:夕餉と『対話』】

 夜、リビングにはユウナやアレン、そして掃除を終えたミナやチッチさんたちが集まる。


 ソラはみんなのために『銀河チーズおはぎ』を並べ、お茶を淹れる。


「今日は、お掃除が一段と捗ったみたいですね」


 ソラの何気ない一言が、ミナやチッチさんにとっての勲章になる。ソラに褒められることは、彼らにとって天界の叙勲よりも、魔界の領地拡大よりも、はるかに重い『存在の承認』だ。


 ソラは食事をしながら、みんなの話を「へぇ、大変ですねぇ」とのんきに聞いている。


 アレンがどれだけ異世界の危機を語ろうと、ユウナが天界の権力争いを嘆こうと、ソラは「ま、なんとかなりますよ」と微笑みながら、10円の価値とイチゴオレの美味しさについて語る。


【PM 10:00:消灯と『扉』の開放】

 一日を終えたソラは、再び厨子の前に立つ。


「今日もお疲れ様でした。扉、開けておきますね。夜風が入って、気持ちいいですから」


 ソラが扉を開けたまま布団に入ると、村全体が深い神気の眠りに包まれる。


 彼が目を閉じた瞬間、はざま村の上空にある星座が、ソラのその日の気分に合わせておはぎ型やパジャマ型に微調整される。


 ソラは何もしていない。


 ただ、一生懸命に掃除をし、丁寧に料理を作り、心を込めて「ま、いっか」と笑う。


 しかし、そのただの日常こそが、全次元の均衡を保ち、最強の怪物たちを家族として繋ぎ止めている、最大にして最強の調律なのであった。


「……むにゃ。……おやすみなさい。……明日も、10円……晴れるかな……」


 ソラの寝息とともに、はざま村の平和は、今日も完璧に守り抜かれるのであった。



最後まで読んでいただき

ありがとうございます!


70話、ありがとうございます!


今回はソラさんの

朝から夜までを追った

一日密着回でした。


関節が鳴るだけで結界が再起動し

ポチが掘り返したら聖遺物が出てきて

10円を入れるだけで

村のOSがアップデートされる。


……これが「普通の日常」なんですよね笑


書いていて一番好きだったのは

「むにゃ……明日も10円……晴れるかな」

というソラさんの寝言です。


この人、寝言まで

「ま、いっか」精神なんだなと

改めて思いました笑


これからも

はざま村の日常をお届けします!


ま、いっか!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ