第51話:はざま村・お留守番チームの受難 〜運動会の裏側で世界は二度救われた〜
はざま村の裏手で、全宇宙を巻き込む大運動会が開催されていたその頃。
村の入り口、ソラ自慢のログハウスの縁側では、三つの首を持つ冥界の番犬ポチが、鋭い眼光で周囲を警戒していた。
「ガウ……(……主様、楽しそう。……俺も行きたかった……)」
「ウゥゥ……(……だめだ。……ここを空ければ、運動会の神気に釣られた悪いやつが村を荒らす……)」
伝説の魔獣として、村の守護を全うしようとするポチ。その首元には、ソラが今朝「迷子にならないように」と端材で作った【お手製の名札(真名:絶対座標固定の鎖)】が、場違いに可愛らしく揺れていた。
その横で、女神ユウナは眉間に深い皺を刻み、村の障壁を維持していた。
「……ちょっと、信じられない。あのはざま村中央駅から、全次元に向けて『フォークダンスの波動』が垂れ流しになってるじゃない! このままだと、魔界の魔王城がダンスの振動で倒壊するわよ!」
「ユウナ様、そんなにカリカリしては、ソラ様特製の『至高のパジャマ』にシワが寄ってしまいますわ。ほら、このハーブティーをどうぞ」
隣国のプリシラ姫が、優雅に紅茶を淹れる。彼女の横には、ソラが箸置きにでもと渡した【文鎮(真名:次元安定の楔)】が、ティーカップの熱から時空を守るように鎮座していた。
その時、ポチの鼻がピクリと動いた。
村の境界線から、ソラの神気に引き寄せられた「深淵の軍勢」が姿を現したのだ。
「ガウッ!!(……敵襲! 冥界の番犬たる俺の力、見せてやるぜ!)」
ポチは立ち上がり、ケルベロスとしての本領を発揮した。三つの口から地獄の炎を吐き出し、空間を噛み砕く。その一撃一撃は、本来なら大陸を沈めるほどの威力だ。
ところが、ポチが牙を剥く直前。首に巻かれたソラお手製の『名札』が、ポチの守りたいという意志に反応して、勝手に発動した。
パァァァァァ……。
ポチが炎を吐くよりも速く、名札から溢れた浄化の光が、軍勢を包み込んだ。
「(……な、なんだこの光は……!? 我らの邪悪な心が……洗われていく……!?)」
世界を滅ぼすはずの魔物たちが、光に触れた瞬間に「ま、いっか」という表情になり、次々と大人しい小動物へと姿を変え、野原へ帰っていった。
「ガ、ガウ……?(……俺の出番は……? 俺、今から全力で噛み付くところだったのに……)」
ポチは拍子抜けしたように、開いた口を閉じた。ケルベロスとしてのプライドを上回る、ソラのチート道具による強制解決。ポチは少しだけ寂しそうに尻尾を丸めた。
「あら、ポチさん、吠えなくても解決してしまいましたわね。ソラ様の道具は本当に凄いですわ」
プリシラがのんきに笑う。
ユウナは白目を剥いた。
「ポチのケルベロス砲が出る前に、名札が『不審者の存在定義』を消しちゃったわよ……」
運動会がいよいよフィナーレのフォークダンスに突入した瞬間、村の座標が揺れ始めた。
「止まって! みんな止まって! ここまで踊り出したら、村ごと次元の彼方に飛んでいっちゃう!」
パニックになる女神。一方、プリシラ姫は「あら、少し床が汚れていますわね」と、ソラから借りた『万象断ちの箸』を手にした。
「ソラ様がお帰りになった時に汚れていては失礼ですわ。ちょっと失礼……」
プリシラは、床に落ちた時空の歪み(黒い亀裂)を、お箸で器用に摘み上げた。
彼女にチート能力はない。ただ、彼女が持っているのはあらゆる概念を切断し、抽出するというソラ自作の最強の箸だ。
「えいっ」
プリシラがゴミを捨てるつもりで箸を動かすと、箸が勝手に次元の歪みを物理的な燃えるゴミとして切り出し、ゴミ箱へシュートした。
「ちょっと! プリシラ! あなた今、何をしたか分かってる!? そのお箸、あなたの掃除したいって願いを勝手に汲み取って、物理法則を無視してゴミの概念を書き換えたのよ!」
「あら、掴みやすいお箸ですわね、くらいにしか。ほほほ」
プリシラはあくまで普通のお掃除をしているつもりだ。だが、ソラの道具が彼女の手を借りて、勝手に宇宙を救っていた。
「おーい、皆さん! ただいま帰りました!」
超時空台車からソラが降りてくる。その後ろでは、アレンたちが灰のように燃え尽きていた。
「ソラ様、お帰りなさいませ。ポチさんと一緒にお庭を綺麗にしておきましたわ」
プリシラが微笑みながら、先ほどまで軍勢がいた場所を指差す。そこは今、ソラの道具の影響で神域の花園へと変貌していた。
「おお、ポチ、偉いなぁ。よしよし。……あ、ユウナさん。なんだかすごく疲れてませんか? 運動不足ですよ。次はユウナさんも一緒に走りましょう。ま、なんとかなりますから!」
ソラの無垢な提案に、ユウナは膝をついた。
「……もう、嫌。ソラくん、あなたが作った『名札』と『お箸』のせいで、私たちの努力が全部『ま、いっか』で済まされちゃってるじゃない……。……ま、いっか。……イチゴオレ、私の分もある?」
「もちろんです! ユウナさんには特大サイズを!」
ジハンキさんが重厚な音を立てて、虹色のイチゴオレを吐き出した。
夕闇が迫るはざま村。
「いやぁ、やっぱり我が家が一番ですね。……アレンさん、明日は作業小屋で『自動で草をむしってくれる的な何か』を作ろうと思うんです。ま、なんとかなりますよね!」
「……もう、頼むから惑星規模で除草するようなのは勘弁してくれよ……。……ま、いっか」
アレンの諦めに満ちた返信が夜の村に響く。
はざま村の平和は、ソラの無自覚な創造と、それを使って(知らず知らずのうちに)世界を救ってしまう仲間たちによって、今日も守り抜かれたのであった。
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ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。




