第48話:紅蓮の古龍、村の「床暖房」になる。~アカさんのプライドと、冬の足音~
はざま村に、少しずつ冬の足音が近づいていた。
精霊王エリュシオンが放つミストは、ソラのサンダルが作る花園を潤し続けているが、夜の空気だけはどうしても冷え込む。
「……ポポッ。(……ふむ。最近、夜中にソラが布団を蹴飛ばしておる。……これは、元ブラック企業社員の虚弱な体には毒だな)」
赤いトカゲの姿をしたアカさんは、ログハウスの暖炉の上で独りごちた。
最近、村には新入りが増えすぎている。
加湿器の精霊王に、洗濯の女帝。さらには創世のサンダルという歩く神器まで現れた。
「……ポポッ!(……このままでは、我の『終焉を司る業火』の出番がなくなる。……かつて世界を焼き尽くした我の熱量、今こそソラの安眠のために捧げる時……!)」
アカさんは、手のひらサイズの小さな体を震わせ、漆黒の瞳に決意の炎を灯した。
「あ、アカさん。ちょうど良かったです」
作業小屋から戻ってきたソラが、アカさんをひょいと持ち上げた。
「最近、夜が冷えますよね。……アカさん、いつも体がポカポカしてるから、寝る時に一緒に布団に入ってくれませんか? ……あ、でも、そのままじゃ少し熱すぎるかな。……よし、アカさん専用の『防護服』を作ってあげますね!」
「……ポポポ!?(……なっ、我をパジャマの中に収めるだと!? ……しかも防護服とは、我の熱を『遮断』するつもりか! 逆だ、ソラ! 我の本気を見れば、村ごと温泉に変えてやれるというのに!)」
アカさんの抗議を「やる気満々ですね!」と勘違いしたソラは、さっそく作業小屋の端材を手に取った。
「素材は……先日、不法侵入した人(天使)が落とした『光る羽(大いなる光の欠片)』を使いましょう。……これ、熱を吸収して心地よい暖かさ(遠赤外線)に変えてくれそうなんですよね。……あとは、この木(世界樹)の綿を詰めて……」
ソラが金槌『万象断ちVer.』で、アカさんのサイズに合わせた小さな『龍用着ぐるみ(ヒヨコ型)』を叩き出す。
その瞬間、天使の羽に宿っていた天界の最高意志が、ソラの無自覚な魔力によって【究極の断熱・蓄熱術式】へと書き換えられた。
「はい、できました! アカさん、試着してみてください」
「……ポポポォッ!!(……断る! 我は古龍だぞ! こんな黄色い鳥の格好で——)」
だが、ソラが『万象創造』の指先でアカさんをシュポッ!と着ぐるみに押し込んだ瞬間、アカさんは驚愕した。
「(……な、なんだこのフィット感は。……我が内側に秘めた『終焉の業火』が、外に漏れることなく……優しく、そして力強く、【全方位型・無尽蔵床暖房エネルギー】へと変換されている……!?)」
アカさんが一歩歩くたびに、ログハウスの床板を通じて、村全体の地脈に心地よい春の陽気が伝播していく。
ソラのサンダルが表面を聖域化するなら、アカさんの熱は地下から世界を温める【創世の地熱】へと昇華したのだ。
「おぉ、すごい! アカさんが歩いたところから、霜が溶けて冬眠中のカエルさんが起きてきちゃいましたよ!」
「(……違うよソラさん! それ、カエルが起きたんじゃなくて、アカさんの熱が『生命の根源』を刺激して、強制的に進化(覚醒)させちまったんだよ!)」
アレンが、庭で巨大化して直立歩行を始めたカエルを見て、顔を覆った。
その頃、天界の最高意思決定機関『大いなる光』は、再びパニックに陥っていた。
「報告します! 奪われた『光の欠片』が、北の境界地(はざま村)にて観測されました! ……が、様子がおかしいのです!」
「何!? あの絶対的な光の権能を、どう使っているのだ!」
「……それが……。……最高神の威光を、『床暖房のボイラー』として利用しているようです! ……はざま村を中心に、惑星の核の温度が、ソラという男の寝心地に合わせて変動しています!」
「馬鹿な……! 私たちの意思が、ただの湯たんぽの燃料にされているというのか……!?」
天界の神々が絶望する中、当のアカさんは、ログハウスの寝室でソラの腕の中にいた。
「(……フン。……まあ、いいだろう。……天界の光ごときを我の炎の種火にするとは、ソラ、貴様もなかなか粋な真似をする。……今日の寝床は、太陽の核よりも温かくしてやろう……)」
翌朝。
はざま村は、周囲が雪景色になりつつある中、そこだけが常春の楽園として輝いていた。
ソラは『至高のパジャマ』と『アカさん湯たんぽ』の相乗効果で、かつてないほどの快眠を貪り、肌がピカピカに若返っていた。
「いやぁ、アカさん、最高でした! あなたこそ、村の『暖房大臣』です!」
「……ポポポ。(……ふん。当然だ。……おい、鼠、黒猫、加湿器。……見たか。冬の主役は、やはりこの我なのだ)」
アカさんは、ヒヨコの着ぐるみを着たまま、威風堂々とリビングを闊歩する。
その背後では、エリュシオンが「……私のミストが、アカ殿の熱で『スチームサウナ』のようになっている。……これぞ究極のデトックス……」と、これまた悟りを開いた顔をしていた。
「(……もういい。……もう、何も言わねえよ)」
アレンは、常夏の庭で巨大化したカエルと相撲を取るポチを眺めながら、静かに10円のコーヒー牛乳を飲み干した。
はざま村の冬は、古龍のプライド(と天界の光)を燃料にして、どこまでも暖かく、そしてデタラメに過ぎていくのであった。
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ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。




