第47話:第一回『家事効率化会議』 ~聖女と女帝の、甘やかし頂上決戦~
はざま村の午後。ソラが作業小屋で新しい肥料の調合に没頭している間、リビングでは異様な緊張感が漂うお茶会が開かれていた。
テーブルを挟んで向かい合うのは、聖女エルナと、新入りの洗濯の女帝ベアトリクス。
「……ベアトリクスさん。貴女が来てから、ソラ様のシャツの洗い上がりが少し白すぎではありませんか? あまりに輝きすぎて、ソラ様が眩しそうに目を細めていらっしゃいましたわ」
エルナが、にこやかな笑顔のまま、手に持ったティーカップ(世界樹の木彫り)をピキリと鳴らす。
「あら、エルナさん。それは光栄ですわ。……でも、貴女が今朝お出しした朝食のオムレツ。……あれ、一口食べただけで、ソラ様の魔力が全回復して溢れ出し、村の雑草が一斉に大樹に進化していましたわよ? 加減というものを知りませんの?」
ベアトリクスも負けじと、妖艶な笑みを浮かべながら『絶望の鎌』を椅子代わりに座り直す。
二人の背後では、アレンが冷や汗を流しながら、壁際に張り付いていた。
「(……ダメだ。これ、どっちも『ソラさんを甘やかすこと』に関しては、ブレーキが壊れてやがる……!)」
「……お互い、目的は同じはずですわ」
ベアトリクスが、テーブルに一枚の羊皮紙を叩きつけた。
「ソラ様は働きすぎです。元ブラック企業の社員だったとかなんとかで、放っておくとすぐに自分を後回しにして、私たちのために神器を作ってしまう……。……ならば! 私たちが究極の効率をもって家事を完遂し、ソラ様が『何もしなくていい時間』を強制的に作り出すのですわ!」
「……珍しく、意見が合いましたわね」
エルナが目を細める。
「では、決めましょう。誰が、どの分野で、世界一効率的にソラ様をお世話するかを……! 『第一回・はざま村家事効率化会議』、開幕ですわ!」
「……会議っていうか、これ、核軍縮会議より物騒な雰囲気なんだけど!?」
アレンのツッコミを無視し、二人の家事バトルが幕を開けた。
「まずは私の専門、洗濯ですわ!」
ベアトリクスが、ソラから借りた『創世のサンダル』をシュタッ!と履きこなす。
「このサンダルで踏めば、汚れは原子レベルで消滅します。……ですが、私はさらに効率を求めました! 私の闇魔法『絶望の深淵』を洗濯桶の中に展開し、時間を停止させた空間で一万年分、衣類を熟成・浄化させますわ!」
「(……パジャマの寿命が縮まるだろ! ってか、一万年洗ってどうすんだよ!)」
「甘いですわね、ベアトリクスさん」
エルナが聖典を取り出す。
「私は、ソラ様が脱いだ瞬間の脱ぎたてを空中でキャッチし、そのまま光魔法『天界の洗礼』で蒸着洗浄します。……これにより、ソラ様が新しい服に着替えるまでの時間は零コンマ一秒に短縮されますわ!」
二人の後ろで、ハクさんからの思念がポスト経由で届く。
『……計測。……洗濯効率、銀河レベルニ到達。……副産物トシテ、村全体ガ「柔軟剤の香り」デ物理的ニ包囲サレマシタ』
「次は食事です。エルナさん、貴女の料理は確かに美味しいですが、ソラ様の健康を考えすぎて栄養価が暴走していますわ」
ベアトリクスが、どこからか取り出した『冥界のナス』を掲げる。
「私は、ぬか床さんと協力し、このナスに全宇宙の旨味を凝縮させました。……これを一口食べるだけで、ソラ様は向こう百年間、食事を摂らなくても活動できるエネルギーを得られます。……これで、料理の手間が省け、ソラ様との語らいの時間が無限に増えますわ!」
「……恐ろしいことを言いますわね。ソラ様は食べる楽しみを大切にされているのです」
エルナが立ち上がる。
「私は、一回の食事に一生分の幸福感を詰め込みました。……私の料理を食べたソラ様は、あまりの多幸感に、食後三時間は膝枕で動けなくなりますわ。……これこそが、真のスローライフの強制です!」
「……二人とも、やってることが洗脳に近いんだよ! 誰か、まともな食育を教えてやれ!!」
アレンは、膝の上でアクビをしているクロさんに助けを求めたが、クロさんは「(……ま、いっか。美味いもんが食えればな)」と目を逸らした。
会議が最高潮に達した頃、作業小屋からソラが戻ってきた。
「ふぅ、肥料の調合が終わりました。……あれ? なんだか村が……ものすごく『石鹸のいい匂い』がして、地面から『カツ丼のオーラ』が立ち上ってる気がするんですが……」
ソラがリビングの扉を開けると、そこには限界まで着飾ったエルナとベアトリクスが、三つ指をついて待機していた。
「おかえりなさいませ、ソラ様。……お風呂(霊泉炭酸Ver.)の準備は、すでに三万年分、未来まで完了しておりますわ」
「お夕飯(宇宙の旨味凝縮Ver.)も、ソラ様の喉を通る瞬間に一番美味しい温度になるよう、時空を固定してありますわ」
「え? ええっ……?」
ソラが一歩踏み出すと、足元の床がハクさんのおもてなし床と同期し、スルスルと自動でソファーまで運ばれる。
「あ、あの、自分でお茶くらい……」
「ダメですわ!!」
二人の声が重なる。
「ソラ様は、そこに座って、呼吸をしているだけでよろしいのです。……後のことは、私たちがすべて因果律を書き換えて終わらせておきましたから!」
ソラは、差し出された至高のパジャマ(一万年洗浄済み)に着替えさせられ、エルナの膝枕とベアトリクスの耳かきを同時に受けるという、天国を通り越して虚無に近いほどの至福に包まれた。
「……あ、あはは。……なんだか、すごく楽ですね。……これなら、明日も、明後日も、何もしなくていいのかな? ……ま、いっか! なんとかなりますよね!」
ソラが完全に甘やかしモードに陥り、瞳からハイライトが消えかけた、その時。
「……ダメだ!! このままだと、ソラさんがただの神像になっちまう!! 誰か、この暴走を止めてくれ!!」
アレンの絶叫が、村中に響き渡った。
しかし、その叫びすら、精霊王エリュシオンの静寂の加湿ミストによって優しくかき消され、はざま村は今日も、非常識なまでの平和と奉仕に包まれていくのであった。
読んでいただきありがとうございます!
もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!
ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。




