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ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


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第46話:勇者アレン、里帰り。~普通って何だっけ?~


「アレンさん、すみません。どうしても村のお醤油(ソラ自家製)の仕込みに、隣町のカザルにはない『特殊な塩』が必要なんです。お願いできますか?」


ソラに丁寧にお願いされ、アレンは快く引き受けた。


正直、最近のはざま村はキャラが濃すぎる。元魔王のハムスターに、元冥界王の黒猫、加湿器になった精霊王、洗濯の女帝となったベアトリクス……。


「……たまには、普通の人間がいる場所で、普通の空気を感じたい」


アレンは、ソラが「ちょっと歩きやすいですよ」と貸してくれた『創世のサンダル』を履き、一歩踏み出した。


次の瞬間、彼は数百キロ離れた商業都市の門の前に立っていた。


「(……早すぎる。早すぎて、移動した実感がねぇよ……)」


アレンは胃を押さえながら、かつて自分が伝説の勇者として崇められていた街へと足を踏み入れた。


街のギルドに入ると、そこにはかつてアレンと共に戦ったAランクパーティー『暁の剣』の面々がいた。


「おい、あれ……アレンじゃないか!? 行方不明だって聞いてたけど、生きてたのか!」


重戦士のガストンが声を上げる。魔法使いのリーナも駆け寄ってきた。


「アレン! 貴方、どこで何を……えっ、その格好、何? 麦わら帽子に、ボロボロのシャツ……。それに、その足元の『藁草履』みたいなのは……」


アレンは、自分がはざま村の農作業スタイルのままであることに気づいた。だが、今の彼にとって、これが一番動きやすい正装なのだ。


「あ、ああ……。ちょっと北の方の村で、隠居……というか、手伝いをしてるんだ。今日は買い物に来ただけで……」


「隠居!? 冗談言うなよ、お前は人類の希望だぞ! 今、この街の近くに『災厄級(災害指定)』の魔獣・キングキマイラが現れて大騒ぎなんだ。頼む、力を貸してくれ!」


アレンは困惑した。


「(キングキマイラ……? ああ、確か昔は戦うのに三日三晩かかったっけな。……でも、今の俺からすると、あれって……)」


アレンの脳裏に、村でソラに「ちょっと邪魔だからどかしておいてください」と言われ、デコピン一発で山ごと吹き飛ばした『超古代龍(アカさんの遠い親戚)』の姿が浮かんだ。


「……いや、俺はもう引退した身だから」


その時、街に轟音が響いた。キングキマイラが正門を突破したのだ。


逃げ惑う人々。ガストンたちが武器を構えるが、圧倒的なプレッシャーに膝が震えている。


「くそっ、なんて魔力だ! これが災厄級か……!」


アレンは、無意識に鼻をひくつかせた。


「(……え? 魔力……? どこに? ……あぁ、あのキマイラか。……いや、薄くないか? 精霊王エリュシオンの『加湿ミスト』の方が、よっぽど魔力密度が高いぞ)」


アレンは、かつてソラからお下がりでもらった『全知の解析眼』を、無意識に発動させた。


【対象:キングキマイラ】

【状態:栄養不足。はざま村の雑草(神格化済み)を食べれば一瞬で治るレベルの弱体個体】


「(……弱っ。これ、ポチの餌にもならないんじゃ……)」


暴れ狂うキマイラが、リーナに襲いかかろうとした。


「危ない!」


ガストンが叫ぶが、間に合わない。


アレンは、溜息をつきながら一歩踏み出した。

『創世のサンダル』が、因果律を無視してアレンをリーナの前に転移させる。


「えっ、アレン!? いつ間に——」


アレンは、ソラが薪割りをする時のように、腰に下げていた『聖剣エクスカリバー(村では栓抜き兼用)』を抜き……すら、しなかった。


「……ちょっと、静かにしてくれ」


アレンが、キマイラの鼻先を指先で軽く弾いた。


ソラに毎日鍛えられ(こき使われ)、神域の空気を吸い続けたアレンの筋力は、すでに人類の域を遥か彼方に置き去りにしていた。


ドォォォォォン!!


キマイラは、まるで巨大な大砲で撃たれたかのように、街の遥か彼方の空へと消えていった。キラリと光る星になりながら。


「…………え?」


ガストンとリーナが、口をあんぐりと開けて固まる。


「……あ。……あ、いや、今の、その……運が良かったんだ。ほら、急所に当たったというか、風向きが……」


「アレン、お前……今、キマイラをデコピンで飛ばしたわよね……?」


リーナが震える指でアレンを指す。


「いや、そんなことより! お醤油の……じゃなかった、塩の買い出しに行かないと! ソラさんに怒られる……!」


アレンは、慌てて背負い袋を担ぎ直した。


その後、アレンは街中の視線を伝説の神を見るような畏怖の目で見られながら、猛スピードで買い物を済ませた。


店主が「お代なんていただけません!」と泣いて拝んできたが、アレンは無理やり10円(ソラがくれた魔法の硬貨)を置いてきた。


「(……ダメだ。街の空気が、なんだか物足りない。……湿度が足りないし、地面が硬すぎる。……何より、みんな驚きすぎだ)」


アレンは街の外へ出ると、一気に『創世のサンダル』を加速させた。


数秒後。


はざま村の入り口にある赤いポストが見えた。

その横には、ジハンキさんがいつものように冷たいイチゴオレを補充しており、上空ではエリュシオンが優雅にミストを撒いている。


「あ、アレンさん! お帰りなさい! 早かったですね」


ソラが、ベアトリクスが真っ白に洗い上げたシャツを着て、笑顔で出迎えてくれた。


「……ああ、ただいま、ソラさん。……やっぱり、ここが一番落ち着くよ」


アレンは、膝から力が抜けるのを感じた。


外の世界では神として崇められるような力が、この村ではちょっと力仕事が上手な人で済む。その異常な安心感が、今の彼には心地よかった。


「……チチチッ。(お、アレン。……お前のその顔。……下界で普通を味わって、絶望してきたな?」


チッチさんが、掃除道具を片手にニヤリと笑う。


「……うるせえよ、ハムスター。……俺はもう、手遅れなんだよ」


アレンは、ソラから渡された『搾りたての神聖牛乳(10円)』を一気に飲み干した。


五臓六腑に染み渡る、異常なエネルギー。


「アレンさん、塩は買えました? ……あ、なんだか少し強くなった気がしますね。街で何か良いことでもありました?」


「……いや、別に。……ただの、散歩ですよ。……ま、いっか」


アレンは、ソラの口癖を無意識に真似しながら、平和な村の景色を見渡した。


もう、かつての勇者としての誇りなんて、どこにもない。


あるのは、明日もこの非常識な村で普通に暮らしたいという、切実な願いだけだった。


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。

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