第41話:女神、ソラの正体を求めて天界で絶叫する
はざま村の平和な昼下がり。
女神ユウナは、縁側で『ソラ特製の麦茶(飲むだけで寿命が100年延びる)』を飲みながら、隣でスヤスヤと昼寝をするソラを凝視していた。
「(……おかしい。絶対におかしいわ……)」
ユウナは、自分がソラをこの世界に転生させた時に与えた三つのスキルを思い返す。
『全知全能の解析眼』:万物を見通す。
『万象創造の右手』:望むものを作り出す。
『不磨の聖体』:傷つかない肉体。
確かにどれも最高位のチートスキルだが、あくまでもこの世界のシステム内での話だ。
昨日の『超時空台車ソラ号』はどうだ。あれは空間を物理的に削り取り、因果律を無視して走っていた。
それはもはや創造ではなく法則の書き換え……いや、『世界のOS(基本システム)の再構築』に近い。
「(……ちょっと、天界の万象記録書で、彼の魂のルーツを調べてくるわ。このままだと、私の女神としてのメンツが丸潰れよ!)」
ユウナはちょっとコンビニに行ってくるくらいの軽いノリで、一瞬だけ天界へと帰還した。
天界、中央神殿。
そこには、この宇宙のあらゆる魂の履歴が記録されている万象記録書が眠っている。
「……ユ、ユウナ様!? なぜこのような場所へ! 今、天界は、はざま村から飛んでくる10円おにぎりの香りで大騒動になっているというのに!」
慌てふためく司書天使たちをかき分け、ユウナは禁忌の書庫の最奥へと足を踏み入れた。
「いいから、天野宙の魂の記録を出しなさい。私が与えたスキルの使用履歴と、彼の存在強度を照合したいのよ」
司書天使が震える手で、クリスタルの端末を操作する。
「は、はい……。照合を開始します。……えーっと、対象:天野宙。……スキル使用履歴……。……あ、あれ?」
「どうしたの? 早くしなさいよ」
「……お、かしいです。……ソラ様の『万象創造』の使用回数が、記録上では【0回】になって……る……?」
「……はぁ!? なによそれ! 毎日あの人、変な台車とか箸とか作ってるじゃない!」
司書天使の顔が青ざめていく。
「……ち、違いますユウナ様。……ソラ様が行っているのは、スキルの発動では……。……彼はただ、『そうであるのが当然だと思って、手を動かしているだけ』です。……スキルという道具を使わず、直接、世界の理に触れて、粘土細工のようにこねくり回しているの……かもしれません……」
ユウナは絶句した。
つまり、ソラがDIYだと思っている行為は、システムとしてのスキルを介さず、もっと根本的な……神すらも触れられない領域での作業だということだ。
「……じゃあ、彼の『不磨の聖体』はどうなっているの? どんな攻撃も効かないのは、私の加護のおかげでしょう?」
司書天使は、さらに端末の深層を覗き込み、ついに叫び声を上げた。
「……ひ、ヒィィッ! ……ユウナ様、見てください! ソラ様の肉体の周囲にあるのは、貴女様の加護ではありません! ……これは、『世界そのものが、彼を傷つけることを拒絶している』反応のような……?!」
「……世界が、ソラくんを拒絶……?」
「いいえ! 逆です! 『世界がソラ様に恋をしている』状態です! 彼が歩けば地面が喜び、彼が寝返りを打てば大気が彼を包み込もうと浄化される。……彼が望むなら、太陽すら西から登るでしょう。……彼は転生者などではなく……『この宇宙が、退屈しのぎに産み落とした、世界そのものの化身』……、あるいは……」
司書天使の言葉が、急激なノイズによってかき消された。端末には赤い文字で、見たこともない警告が表示される。
【閲覧制限:これ以上の解析は、天界の崩壊を招きます】
「……な、なによこれ! 私、一応この世界の最高神の一人なのよ!? 自分の居候の正体くらい教えなさいよ!」
ユウナが端末を叩こうとした瞬間、背後に凄まじい神気が立ち込めた。
そこには、天界の最高意思決定機関である「大いなる光」の影が立っていた。
『……ユウナよ。探るのを止めよ』
「……じ、大いなる光様!? なぜここに!」
『……あの男、ソラは……。我らが定めたシステムの外にいる。……彼が「ま、いっか」と呟くたびに、我らが必死に維持している宇宙の均衡が、彼の「のどかな理想」に合わせて、勝手に書き換えられていくかのようだ…。……あれはもはや、神ではない。……「最強の、天然」……我らをもってして未知の存在……』
「……最強の、天然……?」
ユウナは、呆然としたまま、はざま村の縁側へと戻ってきた。
隣では、ソラがちょうど目を覚まし、大あくびをしていた。
「ふわぁ……。あ、ユウナさん。おかえりなさい。どこに行ってたんですか?」
「……天界よ。ちょっと、あんたの正体を調べにね……」
「僕の正体? ……そんなの、しがない村人ですよ。あ、それより、さっき寝てる間にいいアイデアを思いついたんです。……村の池(ピピさんの家)を、ちょっと改造してプラネタリウム(宇宙が見える天然プラネタリウム)にしようかなって」
「(……プラネタリウム……あんた、今度は池を宇宙に繋げる気!?)」
ユウナは、先ほど天界で聞いた世界のOSの書き換えという言葉を思い出し、頭痛がしてきた。
だが、ソラのその穏やかで、邪気のない笑顔を見ていると、難しいことを考えるのが馬鹿らしくなってくる。
「ニャア。(……女神よ。無駄な足掻きはやめておけ。我も冥界で同じことをしたが、結局この男の膝の上で寝るのが一番だという結論に至った)」
クロさんが、悟りを開いたような顔でユウナを見上げる。
「チチチッ!(ユウナよ、早く座るのだ。 ソラ殿が今、食べるだけで全ステータスがカンストする『特製おはぎ』を万象断ちで作ってくれるそうだ!)」
チッチさんが、嬉しそうに小皿を運んでくる。
「……はぁ。……もう、いいわよ。ソラくんが何者でも。……世界が壊れない程度に、手加減しなさいよ?」
「え? 手加減? よく分かりませんが……。……ま、なんとかなりますよね。おはぎ、食べましょう。ま、いっか!」
ソラがニコニコと笑いながら、神器『万象断ち』でおはぎを切り分ける。
その瞬間、天界では「はざま村から未知の高エネルギー反応を検知!」と天使たちが再びパニックに陥っていたが、はざま村の空気は、どこまでものどかだった。
ユウナはおはぎを頬張り、その信じられない美味しさに、全ての悩みを放棄した。
「……うん。美味しい。……ま、いっか!」
女神までもが「ま、いっか」の波動に完全に同化し、はざま村の平和(と世界のバグ)は、今日もしっかりと維持されるのであった。
——その日、はざま村の上空に浮かぶ星の配置が、
誰にも知られないまま、ほんの少しだけ書き換わっていた。
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ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。




