第40話:村に『駅』ができました 〜超時空台車ソラ号、出発進行!〜
はざま村の朝。ソラは縁側で、クロさんを膝に乗せ、出来立ての冥界ナスの浅漬けを『箸(神器万象断ち)』で切り分けながら、ふと呟いた。
「ポスト、便利ですよね。手紙がすぐ届くし。……でも、手紙が届くなら、人も届いた方が便利かなぁ。アレンさんも、たまに実家に帰りたそうにしてるし」
その一言が、世界のパワーバランスを再び崩壊させる合図だった。
「(……待て待て待てソラさん!? さらっと言ったけど、それ郵便じゃなくて転送ゲートの話だよね!? しかも俺の実家、ここから馬車で一ヶ月かかる帝都なんだけど!!)」
アレンが胃を押さえて叫ぶが、ソラの『全知全能の解析眼』は既に、村の入り口にあるちょうどいい空き地をスキャンしていた。
「あそこに、ちょっとした『駅』みたいなものを作ってみましょうか。ま、なんとかなりますよね!」
「…ニャア。(……ま、いっか。我が膝の上で寝ている間に、この男が世界をどう作り替えようと知ったことではない)」
膝の上で丸くなるクロさんの横で、チッチさんが「チチチッ!(我も手伝おう! 掃除係として、世界一清潔な駅舎を造ってみせる!)」と鼻息を荒くした。
「それじゃあ皆さん、お願いしまーす!」
ソラの号令とともに、かつて世界を滅ぼしかけた面々や、高貴なる身分を捨てかけた(?)面々による、異次元のDIYが始まった。
まず動いたのはアレンである。
「くそっ、やるしかないのか! 『聖剣エクスカリバー・土木モード』!!」
本来、魔王を討つための聖剣が、ソラの適当な魔力付与により、一振りで山を削り、完璧な水平を出す超高性能ショベルカーへと変貌。
アレンが涙目で剣を振るたびに、駅の土台がミリ単位の狂いもなく固まっていく。
そこに、プリシラが麦わら帽子を被って駆け寄ってきた。
「アレン様! 私も手伝いますわ! ……ほら、ソラ様に教わった『整地の舞(ただの踏み固め)』ですわ!」
隣国の姫君が、優雅なドレスの裾をまくり上げ、土をトントンと踏み固める。その足元からは、なぜか浄化の光が溢れ出し、地面がオリハルコン並みの強度に変質していく。
『ポコポコッ!(おいマスター! 我の樽も日当たりの良いホームに置くのだぞ! 旅人たちに我の至高の発酵神気を浴びせてやるのだ!)』
縁側のぬか床さんが、自分も駅の一部になろうと激しく泡立ち、現場に美味しそうな匂いを振りまく。
池からはピピさんが飛び出した。
「ピピピッ!(コンクリートの代わりに、私の特製『硬化水魔法』で土台をコーティングします!)」
伝説の海竜が放つ超高圧の水が、土台をダイヤモンド以上の硬度で固めていく。
「ポポポ!(我も手伝おう。溶接なら任せろ!)」
アカさんが、鼻から一兆度の蒼い炎を吹き出し、ソラが用意したただの鉄屑(※オリハルコンの端材)
を、流麗なレールの形に焼き固めていく。
「はい! ソラ様! お洗濯のついでに、駅舎のカーテンを縫っておきましたわ!」
エルナが持ってきたのは、パジャマ(ソラ作)の余り布で作られたカーテン。
「(……おい、あのカーテン、物理攻撃を100%反射してないか!? 飛んできた鳥が跳ね返されて宇宙まで飛んでったぞ!!)」
アレンのツッコミが虚しく響く中、ソラ本人は作業小屋で車両の製作に入っていた。
数時間後、作業小屋からソラがガラガラと引いてきたのは……。
「できました。余った板(世界樹)と、壊れた大八車の車輪で作った『台車』です。……あ、でも寂しいから椅子を六つほどつけてみました」
見た目は、どこからどう見ても、近所の子供が遊ぶ木の台車である。
だが、その車輪にはソラの『万象創造』によって摩擦係数ゼロと因果律無視のルーンが、まるで落書きのように刻まれていた。
「……ソラくん、これに、乗るの……?」
ユウナが引き気味に尋ねる。
「ええ、みんなで試乗しましょう! ……あ、ジハンキさん。駅長さん、お願いしますね」
『……了解シマシタ。……臨時駅務プログラム、起動。……「はざま村中央駅」トシテ、全次元ノ座標ヲ登録。……乗車券ハ、10円デス』
ジハンキさんの取り出し口から、黄金色に輝く硬貨状のチケットが吐き出された。
ちょうどその時、村の神域指定の定期点検に訪れていたバルガスが、部下の騎士たちを連れて現れた。
「……な、なんだこの賑わいは。……ソラ殿、今度は何を……。……えっ、駅!? この『狭間の地』に駅を作ったというのか!?」
「あ、バルガスさん! ちょうどいいところに。今から試運転なんです。一緒に乗ってみませんか? 10円ですよ」
「……10円? ……ふむ。まあ、その木の台車なら、精々村の周囲を一周する程度だろう。良かろう、我がギルドを代表して試乗してやろうではないか」
これが、バルガスの人生最大の過ちだった。
「それじゃあ、出発進行〜!」
ソラが台車の取っ手を軽く「ポン」と叩いた。
カッ!!
次の瞬間、音も光も、そして存在という概念すらも置き去りにする衝撃が走った。
「「「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」」」
台車に乗ったバルガス総帥、アレン、ユウナ、プリシラ、エルナの五人の顔が、凄まじいG(重力)によって、まるで焼きたての餅のように後ろへと引き伸ばされる。
「(……は、速すぎる!! これ、移動じゃない! 空間を削り取って進んでるぞ!!)」
アレンの『全知の解析眼』が、視界に『時速:測定不能』という文字を叩き出す。
「お、おほほほほ! 景色が……景色が線になって見えませんわーっ!」
プリシラは、あまりの速度に逆にハイテンションになり、ドレスをなびかせながら絶叫している。
「ポコポコォォォ!!(最高だ! この速度による摩擦熱が、我がぬか床の深部をさらに活性化させる! 我は今、光速で発酵しているぞ!!)」
台車の後部に積み込まれたぬか床さんが、黄金の蒸気を噴き上げながら歓喜の声を上げる。
窓もない、屋根もない木の台車。
しかし、ソラが適当に張った風除けの結界のおかげで、髪の毛一筋すら乱れない。
ただ、背景が『緑の森』から『帝都の城門』、そして『天界の入り口』を、コンマ一秒ごとに交互に映し出しているだけだ。
「おぉ、いい眺めですね。あ、あそこに冥界が見えますよ。クロさん寄りたいですか?」
「ニャア……(……止めておけ。我のかつての部下たちが、この速度の台車を見たら『最終審判の馬車』だと勘違いして自爆するわ)」
クロさんは、ソラの膝の上で平然と欠伸をしていた。
対照的に、バルガスは白目を剥き、泡を吹いて固まっている。
「……あ。そうだ、ブレーキを忘れてた。ま、いっか!」
「「「「良くないわあああああ!!!」」」」
台車は、世界をちょうど三周ほどしたところで、ピタリと「はざま村中央駅」に停車した。
時間にして、わずか三分。
「ふぅ。やっぱり、乗り物はいいですね。これで買い出しも楽になります。ま、なんとかなるもんですね」
ソラが満足げに台車から降りると、そこには腰が抜けて立てなくなったバルガスと、灰のようになったアレンたちが転がっていた。
『……試運転、完了。……現在、アトラス帝国、聖天教会、並ビニ魔界各地ヨリ、駅の設置ヲ請ウ悲鳴……イエ、依頼ガ100万件届イテオリマス』
ジハンキさんが淡々と報告する。
「ええっ、そんなに!? 困ったなぁ。……あ、でも、みんなが仲良く移動できるなら、いいことですよね。ま、いっか!」
その日の夕暮れ。
はざま村の駅には、さっそくルシウスがお忍びのつもりもフル装備でやってきていた。
「ソラ殿……! 頼む、この10円を受け取ってくれ! 我が国にも、この神の台車を停めてほしいのだ!!」
「あはは、おじさんも気が早いですね。……エルナさん、夕飯の準備ができたら、駅の皆さんにもお裾分けしましょうか。さっき切ったお漬け物、美味しいですよ」
「はい! ソラ様! 喜んで!!」
ポチが三つの首で「ガウッ!」と駅の門番を始め、クロさんが駅舎のベンチで丸くなる。
プリシラは駅弁と称して、ソラの作ったおにぎりを並べ始めた。
はざま村は、ついに郵便だけでなく、世界の人と物流をも支配する、文字通りの中心地へと進化したのである。
「(……もう、何も言うまい。……でもソラさん、次は空飛ぶ駅とか言い出さないでくれよ。俺の心臓が持たないから……)」
アレンの祈りも虚しく、ソラは既に、余った車輪を見つめながら「これ、空も飛べそうだな。ま、いっか」と呟いていた。
はざま村の平和な夜は、台車が置き去りにした衝撃波の残響とともに、静かに、そして賑やかに更けていくのだった。
皆様、いつも「はざま村」の物語を見守っていただき、本当にありがとうございます!
おかげさまで、ついに40話という大きな節目を迎えることができました。
1人ぼっちから始まったソラくんの勘違い生活も、気づけば郵便局ができ、ついには全次元対応の駅まで爆誕してしまいました。
聖剣がショベルカーになり、邪神(ぬか床)が光速で発酵する……。
執筆している私自身も「ま、いっか!」と驚きながら、ソラくんたちの無自覚な暴走を楽しんでいます。
これからも、皆様の日常にクスッとした笑いと、少しの癒やしを届けられるよう、50話、100話と歩んでいければと思います。
「はざま村中央駅」は、いつでも皆様のご乗車(ご一読)をお待ちしております!
今後とも、応援よろしくお願いいたします!




