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ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


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第34話:庭の番人と池の主。……あるいは、世界最強の火加減と水質管理


はざま村の朝は早い。


ソラが『世界樹のログハウス』の窓を開けると、庭の隅にある赤い岩の隙間から、ひょこりと小さなトカゲのような頭が覗いた。


「おはよう、アカさん。今日もいい天気ですね。朝ごはんの準備をするから、ちょっとお火を借りてもいいですか?」


「ポポポ! ポポポポォッ!!(……ソラ、おはよう! 承知した、この我が誇る終焉の焔、朝食の目玉焼きに最適な温度まで落として貸し与えよう!)」


かつて終焉龍『イグニール・ヴォルガ』として世界を焼き尽くそうとしたアカさんは、今や手のひらサイズの可愛らしいトカゲ姿で、ソラが差し出したフライパンの底に、極限まで圧縮された熱量を「ポポッ」と吹きかけた。


ソラの『不磨の聖体』には心地よい微温にしか感じられないが、その熱量は一発で城壁をドロドロに溶かすレベルの超高密度エネルギーである。


「助かります。あ、ピピさんも。お水、ありがとうございますね」


池の方に目を向けると、手のひらサイズの青い竜のような魚、元リヴァイアサンのピピさんが水面からパシャリと跳ねた。


「ピピピッ! ピピィーッ!(……お任せください、ソラ様! 今朝の水は、私の鱗の成分を絶妙に配合した『高純度魔力水』に仕上げておきました。お米を炊くにも、お顔を洗うにも、これ以上の聖水はございません!)」


ピピさんが尾を振るたびに、池の水はサファイアのような輝きを放ち、水面に映る朝日が虹色の輪を作った。


その時、平和な庭に緊張が走った。


村の結界(という名の、ソラが適当に植えた垣根)を越えて、数人の重武装した男たちが侵入してきたのだ。


「……ここか。天界の温泉と、伝説の自販機があるという村は。……ふん、あんな間抜け面した男が村主か。今のうちに秘宝を回収するぞ」


彼らは隣国の過激派ギルドから派遣された、隠密特化の暗殺者たちだった。ポチがちょうど裏山の見回りに行っている隙を突いたつもりだったのだが……。


「ポポポ……ッ!(……不届き者が。ソラの平穏を乱すなど、万死に値するぞ)」


「ピピピッ……(……静かに、しかし確実に、地の底へお帰りいただくしかありませんね)」


アカさんとピピさんの瞳が、一瞬だけ本来の最上位種の鋭い輝きに戻った。


「あ、アカさん? ピピさん? 何かありましたか?」


ソラが振り返るより早く、アカさんが「ポポォッ!」と小さく一鳴きした。


瞬間、暗殺者たちの足元の地面が、一兆分の一秒だけ「数万度」まで熱せられ、次の瞬間、ピピさんの操作する水圧によって「絶対零度」まで冷却された。


物理法則を超えた急激な温度変化に、暗殺者たちの武器も鎧も、そして戦意も、粉々に砕け散った。


「う、うわぁぁぁ!? 魚が喋った!? トカゲが笑ったぁぁぁ!!」


「助けてくれ! ここは村じゃない、神々の処刑場だぁぁぁ!!」


「おや、あのお客さんたち、急に走り出してどうしたんだろう。……あ、もしかしてジハンキさんの朝のタイムセールに遅れそうなんですかね? ま、いっか!」


ソラは、空飛ぶ勢いで逃げ出す男たちを見送りながら、のんびりと目玉焼きをひっくり返した。


騒ぎを聞きつけたのか、庭のジハンキさんが『ガコンッ』と音を立てて二つのボトルを吐き出した。


『……外部侵入者ノ、効率的ナ排除ヲ確認。……アカ様、ピピ様、本日ノ報酬デス』


出てきたのは、アカさん用の「超高圧炭酸・マグマコーラ」と、ピピさん用の「深海圧搾・クリスタルソーダ」だ。


「ポポポ! ポポッ!(……ぬっ、ジハンキよ。貴様にしては気の利いた報酬ではないか。……ソラの平穏を守るため、我の火加減は常に完璧であるのだ)」


「ピピピッ!(……ふふ、私の水質管理も評価されたようですね。……さあアカさん、ソラ様が朝食を運んできてくださいますよ)」


二匹は、自分たちの正体が世界を滅ぼす龍であることをすっかり忘れ、ソラが切り分けた厚切りトースト(聖樹の果実ジャム添え)を、仲良く突っつき始めた。


「わぁ、いい感じに焼けましたよ。やっぱりアカさんは頼りになりますね」


ソラがニコニコしながら、完璧な半熟具合の目玉焼きを皿に盛り付ける。


褒められたアカさんは、小さな胸をぐいっと張り、得意げに尻尾を振った。


「ポポポッ!!(……ふふん、当然だ! ソラ、我が熱した究極の目玉焼きは素晴らしいだろう! この終焉龍の焔を、一ミクロンの狂いもなくコントロールできるのは世界で我ただ一人なのだからな!)」


アカさんは「もっと褒めても良いぞ!」と言わんばかりに、ソラの指先に頭をすり寄せた。


「あはは、アカさんも『もっと焼きたい』って言ってるのかな? でも、これ以上焼くと焦げちゃいますからね。ま、いっか!」


「(……いや、ソラ。我は自分の技術を自慢しておるのだが……。ま、我の火力が役に立っているのなら、それで良いか)」


アカさんは少しだけ肩を落としたが、ソラが「はい、アカさんの分です」と小さく切ったトースト(世界樹の蜂蜜がけ)を差し出すと、すぐに上機嫌になって「ポポッ!」と食いついた。


「ピピピッ!(……アカさん、単純ですね。でも、ソラ様に喜んでいただけたのですから、なによりですよ)」


「アレンさん、見てください。アカさんとピピさん、今日も仲良しですよ。……あ、アレンさんも朝ごはん、食べますか?」


「(……見てたよ。見てたけどさ。さっきの暗殺者たち、物理的に分子レベルで崩壊しかけてたよね……?)」


アレンは、相変わらず胃を押さえながら、アカさんが熱した究極の目玉焼きを一口食べた。


「……っ!? ……う、美味すぎる。……クソッ、こんなに美味いもん食わされたら、もう世界の危機なんてどうでもよくなってくるな……」


二匹は、自分たちの正体が世界を滅ぼす龍であることを忘れ、ソラの優しさに包まれながら、平和な朝食の時間を満喫するのであった。


「ま、なんとかなるもんですね。アカさんとピピさんがいれば、村の火と水は安心ですから」


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。

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