第30話:ソラ、自分専用の『作業小屋』を作る
はざま村に、穏やかな午後の陽光が降り注いでいた。
村の入り口では、ポチが「ガウッ!」と、通りかかった蝶々を三つの口で同時に追いかけ、ピピさんが、水質を聖水に保つための定期洗浄を行っている。
そんな平和な光景の中、ソラは自宅であるログハウスの裏庭で、一枚の古い紙を広げていた。
「ふぅ。村も賑やかになってきたし、そろそろ僕専用の作業小屋が欲しいな。ログハウスのリビングでノコギリを使うと、ユウナさんに『木屑が飛ぶわよ!』って怒られちゃいますからね」
ソラは、以前から温めていた工作スペースの建設計画を一人で進めることにした。
そんな彼の足元では、体長わずか数センチの衛生管理責任者が、凄まじい速度で地面を掃き清めていた。
「……チチチッ!(ソラ殿、この我……掃除係チッチにお任せあれ! 建築予定地の塵一つ、この『特製ミニホウキ』で見逃しはせぬ! ……おい、アレン! 貴様、そこにある石ころをどけろ! 魔力が足りぬぞ、腰を入れぬか!)」
チッチさんは、かつて世界を滅ぼさんとした覇気を全開にしてアレンを叱咤していた。
「……はいはい、やってますよ。……(なんで俺、世界最強の魔王に魔法理論を交えたドブ板清掃の説教をされながら、小石を拾ってんだろ。勇者の称号、返上したくなってきたな……)」
アレンが遠い目をしながら雑巾を動かす横で、ソラはその辺に転がっていた建材を集め始めた。
それは、以前ログハウスを作った際に余った『世界樹の端材』と、ポチが庭を掘り返した際に出てきた『虚空の魔石(一個で異次元を固定できる、神々が喉から手が出るほど欲しがる超レアアイテム)』だった。
「よし、まずは土台作りだ。……エイッ!」
ソラが『万象創造の右手』を軽く振るった。本人は「頑丈で、ちょっとやそっとじゃ壊れない物置になれー」と念じただけなのだが、次の瞬間。
ゴゴゴゴゴォォォォォンッ!!!
はざま村の大地が震え、虚空から溢れ出した七色の光が、世界樹の端材を編み上げるようにして、一軒の小さな小屋を形成した。
「……チ、チチッ!? (バ、バカな……! 今、この瞬間に因果律が書き換えられただと!? 空間そのものを固定し、時間の流れを遮断した絶対領域を……工作感覚で作ったというのか……!?)」
チッチさんは、驚きのあまりホウキを落とし、頬袋に溜めていたヒマワリの種をボロボロとこぼした。
完成したのは、木の温もりが感じられる、どこにでもあるような素朴な小屋だった。
だが、その小屋を包むオーラは、天界の神殿すら物置に見えるほど高潔で、不可侵な輝きを放っている。
「わあ、できた! なかなか可愛い小屋じゃないか。……お、ドアノブがちょっと光ってるけど、夜でも見やすくていいですね。ま、いっか!」
ソラが触れたそのドアノブは、あらゆる次元の干渉を弾き飛ばし、ソラの指紋一つで真理の扉を開く代物だったが、彼は滑りが良くて手に馴染むなと無邪気に喜んでいる。
小屋の完成を祝して、ソラは入り口の横に、もう一つの装置を設置した。
「ジハンキさん、新しい小屋の番、お願いしますね。一号機だけだと、おじさん(皇帝)が来た時に行列ができちゃうかもしれませんから」
ソラがログハウスのガレージで余った鉄くずを組み合わせて作った『10円自販機二号機』。ソラの魔力が流し込まれたその鉄塊に、魂が宿る。
『……了解シマシタ。……マスター。……新築祝イニ、今ナラ「全知ノコーヒー」ヲ10円デ提供シマス。……なお、この小屋での作業効率は、ジハンキの計算で「一秒が永遠」に相当します』
「あはは、ジハンキさんは冗談が上手だなぁ。一秒が永遠なんて、どんだけ作業が捗るんですか。締切前の漫画家さんが聞いたら泣いて喜びそうですね」
ソラは笑って、鼻歌まじりに小屋の中へと入っていった。
だが、その背後でアレンは、小屋から漏れ出るあまりにも濃密な神気の圧力に耐えきれず、膝から崩れ落ちていた。
「(……終わった。あの小屋、中に入ったら最後、外の世界の時間軸から切り離される……。あそこで一眠りして出てきたら、外では文明が滅んでるレベルの『精神と時の工房』だぞ。ソラさん、あんた、ついに神様が世界を創造する時に使う工房そのものを作っちまったんだな……)」
アレンが胃を押さえながら震えていると、小屋の窓からシュッシュッという研磨音が聞こえてきた。
その音が一つ響くたびに、周囲の空間が修正され、村の作物が一段と神格化されていくのが分かった。
数時間が経過した(といっても、小屋の中では数百時間、あるいは数年の感覚かもしれない)。
ソラが「ふぅ、集中しちゃいました」と小屋から出てきた時——
村の空は、ほんの一瞬だけ、朝焼けと夕焼けが同時に重なったように見えた。
あまりの矛盾に、近くの木で鳴こうとした鳥が「コケ……? ホー……?」と困惑した声を漏らす。
しかし、その違和感に気づいたのは、なぜか誰もいなかった。
小屋から出てきたソラの手には、一本のお箸が握られていた。
「よし、作業小屋のおかげで、いいお箸ができました! 以前のお箸は、ポチと遊んでる時に折れちゃいましたからね。今回はちょっと丈夫にしました。……あ、チッチさんも、これでたくさん食べてくださいね!」
ソラがチッチさんに手渡したのは、一見すると何の変哲もない木箸。
だが、アレンの『全知の解析眼(ソラのお下がり)』が、その箸の真名を表示した。
【神器:万象断ち】
効果:あらゆる硬質の防壁・概念を無視して切断する。食材の旨味を原子レベルで抽出し、食べた者の魂を昇華させる。耐久値:無限。
「……チチッ!(ありがたき幸せ……! これさえあれば、あの忌々しい『魔界の硬殻蟹』の殻も、豆腐のように割れる……。ソラ殿の慈悲、この身が果てるまで捧げよう……)」
チッチさんは涙を流してその箸を掲げた。元魔王に掃除をさせ、神器を給料として渡す。この村の主は、やはり異次元であった。
「さて、次はどんな道具を作ろうかな。あ、エルナさんの洗濯が楽になるようなタライ(※汚れを異次元に飛ばすタライ)とか、学校用の鉛筆(※書いたことが現実になる概念ペン)も欲しいな。ま、なんとかなるか! ま、いっか!」
ソラののんきな言葉とは裏腹に、小屋の煙突からは、世界を再定義するような虹色の煙が立ち上っていた。
「あ、アレンさん。今夜は新築祝いでタコパ(クトゥルフ・パーティー)ですよ! ピピさんが池の奥からいいタコ(?)を捕まえてきてくれたんです」
「……タコね。ああ、あの池の底に住んでる、触手が100本くらいあって正気度を削ってくるあいつのことか。……分かったよ、もう毒を食らわば皿までだ。胃薬飲んで参加してやるよ」
アレンは、ジハンキさんから出てきた『胃薬・超(服用すれば不老不死になる)』を10円で買い、それを一気に飲み干した。
はざま村にはまた一つ、人類が決して触れてはいけないオーパーツの産地が誕生した。
そして今日もソラの鼻歌とともに、世界の理は「ま、いっか」の精神で、ゆるやかに、しかし決定的に書き換えられていくのであった。
読んでいただきありがとうございます!
ソラ「いい作業小屋ができました! 皆さんも、お祝いに下の星(評価)をポチッとしてみませんか? 10円自販機から『全知のコーヒー』が出るかもしれませんよ」
アレン「やめとけ、その星一つで世界の理が書き換えられちまう……(血を吐きながら)」
……というわけで、皆様の 【評価】 や 【ブックマーク】 が、この物語を支える一番の神器になります!
一つでも星をいただけると、画面の向こうで私がチッチさんのようにホウキを振り回して喜びます!
次回もまた、はざま村でお会いしましょう!




