第28話:世界最強、村に敗北を認める
「……ソラ殿。一つ、聞かせてくれ」
『黄金カブ』のぬか漬けにより、全盛期をも超える力を取り戻してしまったバルガスが、震える手でお茶を啜りながら尋ねた。
「貴殿は、これほどまでの神の恩寵とも呼べる資源を使い、一体何を成そうとしているのだ? 世界の支配か? それとも、天界への挑戦か?」
ソラはきょとんとして、庭で洗濯物を干しているチッチさん、エプロン姿のエルナや、温泉で優雅に平泳ぎをしているユウナを眺めながら答えた。
「え? 何をって……。朝起きて草をむしって、美味しい野菜を育てて、夜はみんなで賑やかにご飯を食べる。……そんな、普通の村人としてのスローライフを楽しみたいだけですよ」
「……チチチッ。(おい総帥、余計な詮索はよせ。この男に普通という概念を解かせたら、その瞬間に世界の理が崩壊するぞ。お主の小さな脳みそでは処理しきれん)」
肩に乗ったハムスター——チッチさんに冷ややかに諭され、バルガスは息を呑んだ。
「なっ……!? その圧倒的な魔圧と、すべてを見透かす真紅の瞳……ま、魔王ゼノン!? 貴様、なぜそんな愛くるしい姿で、小さなホウキを持って掃除などしているのだ!」
「あ、チッチさんはうちの掃除係なんです。彼が来てから、村の隅々までピカピカなんですよ。ま、なんとかなるもんですね」
ソラがニコニコと笑いながら言う。バルガスの目には、魔王がホウキを振るうたびに、空間の歪みが修正され、村の神聖度が増していくのがはっきりと見えた。
「魔王を掃除係にし、冥界の番犬をポチと呼び、伝説の勇者をドブ板清掃に駆り出す……。ここは、我々俗世の人間が物差しを当てて良い場所ではないのだな……」
バルガスは、静かに腰の剣から手を離した。
人類最強と謳われた彼の自尊心が、ソラののんびりした笑顔の前で、心地よい風に吹かれる塵のように消え去った。
視察を終えたバルガスは、村の入り口で待機していた精鋭部隊の元へ戻ると、一兵卒のように深く深くソラに頭を下げた。
「ソラ殿。……ギルド本部として、この村を『絶対不可侵・神域指定区域』に認定する。……いや、訂正しよう。この村には、我々俗世の人間は一切干渉しないことを誓おう。……ただ、もし許されるなら、時折、あのぬか漬けを分けてもらいに来ても良いだろうか?」
「ええ、もちろんです! いつでも遊びに来てください。あ、これ、お土産です。ジハンキさんが特別に詰めてくれた『10円おでん(聖遺物入り)』です。道中、冷めないうちにどうぞ!」
ソラが手渡したおでんのカップからは、一国の軍事予算を上回る価値の神聖エネルギーが漏れ出していた。
「……感謝する。……皆、撤退だ! 今日見たことは、国家機密として墓場まで持っていけ!!」
バルガスの号令とともに、ギルドの精鋭たちは、まるで神の逆鱗から逃げ出すように、猛スピードで馬車を走らせ去っていった。
「ふぅ。アレンさん、本部の人たちも、意外とアットホームでいい人たちでしたね。ま、いっか! 今日も平和でしたね」
「……あぁ、そうだな。……本部が物理的に消滅しなくて、本当に良かったよ。……あ、俺、もう一回胃薬飲んでいい?」
アレンは、ジハンキさんから出てきた『胃薬・改(服用すれば魔力がカンストし、ストレスが全快する)』を10円で買い、一気に飲み干した。
はざま村の夕暮れは、今日も規格外の平和と、ソラの能天気な鼻歌に包まれて、穏やかに更けていくのであった。
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ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。
本日21時、全3話の特別外伝『外伝:迷い込んだ最強の天然 —— 勇者召喚(パジャマ姿)』の2話を別枠で投稿します!未来のソラくんが大暴れ(?)するので、ぜひ覗いてみてください!
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