第27話:ギルド本部の偉い人、はざま村で世界の真理を知る
一台の豪華な馬車が、はざま村の入り口に止まる。
白銀の装飾が施されたその馬車は、帝国でも数台しかない最高級品だが、はざま村ののどかな田園風景の中では、どこか場違いな成金趣味のように浮いて見えた。
「……ここが、あの『規格外生物ギルド』を一晩で建て直した男が住むという村か」
馬車から降り立ったのは、ギルド本部の最高責任者、総帥バルガス。
かつて単身で古龍を討伐し、大陸全土にその名を轟かせた歴戦の猛者である。
彼の背後には、本部直轄のSSS級魔導騎士団が、まるで行軍のような威圧感を持って控えていた。
その横で、地元のギルドマスターは生まれたての小鹿のように膝を震わせ、滝のような汗を流している。
「は、はい……。ソラ殿という男ですが、見た目は……その、非常に善良そうな、ただの若者です。ですが、その背後には神話級の……いや、それ以上の何かが……」
「ふん。この私を驚かせる者が、こんな辺境で土をいじっているなど信じがたい。魔力測定器も無反応ではないか。……ん? なんだ、あの犬は」
バルガスの視線の先には、村の入り口で「ガウッ!」と元気に三つの首を振りながら尻尾を回す、巨大な黒犬——ポチの姿があった。
「あ、いらっしゃいませ! ギルドの方たちですね。わざわざ遠くからありがとうございます!」
ソラが麦わら帽子を脱ぎ、人懐っこい笑顔で駆け寄ってくる。
その後ろでは、アレンが「(終わった。本部のラスボスが来ちまった……)」という顔で、もはや悟りを開いた仏のような表情で空を見上げていた。
「貴殿がソラか。私はギルド本部の……」
バルガスが、長年培ってきた覇気を全開にして名乗ろうとした、その瞬間だった。
『……オツカレサマデス。……貴殿ノ魂ニハ、長年ノ激戦ニヨル「渇キ」ガ蓄積サレテイルヨウデスネ。……今ナラ「全自動・聖水ソーダ(超微炭酸)」ヲ10円デ提供シマス』
入り口に設置されたジハンキさんが、突如として深みのあるバリトンボイスで喋り出し、バルガスの目の前に黄金のボトルをガコンッ!と吐き出した。
「なっ!? 意志を持つ魔導具だと……!? しかもこの液体……」
バルガスが驚愕したのは、その外見ではなく、中身だった。
ボトルの隙間から漏れ出る光は、聖都の最深部に封印されている『始祖の涙』すらも不純物に見えるほど、圧倒的に清らかな神聖魔力を放っていた。
「あはは、ジハンキさんも歓迎してるみたいですね。さぁ、立ち話もなんです、うちの特等席へどうぞ!」
ソラはバルガスを、家の裏手にある黄金に輝くぬか樽が鎮座する居間へと案内した。
「ちょうど今、良いカブが漬かったところなんです。お口に合うかわかりませんが、どうぞ」
出されたのは、先の野菜コンテストで優勝し、そのあまりの神々しさに審査員たちが失神したという伝説の黄金カブのぬか漬けだった。
バルガスは、一瞬「毒か?」と疑う本能を、その高潔な香りにねじ伏せられた。抗えない誘惑に負け、一切れを口に運ぶ。
その瞬間。
バルガスの脳内で、全知全能の光が弾けた。
「……っ!! な、なんだこれは!? 身体の芯から、かつてない純度の魔力が湧き上がってくる……! 10年前の古龍討伐で受けた、癒えるはずのない呪いの古傷が……消えただと……!?」
バルガスの肌は二十代のようなツヤを取り戻し、白髪が混じっていた髪は漆黒へと染まり直していく。
「(……いや、バルガスさん。それ、ただの野菜じゃないんだ。元邪神のぬか床が、自分のプライドと魔圧をこれでもかと練り込んだ『究極の旨味神』の結晶なんだよ。一口食えば寿命が延びるし、二口食えば悟りを開いちゃう代物なんだ……!)」
アレンの心の絶叫も届かず、バルガスは涙を流しながら、漬物皿を神棚のように拝んでいた。
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