第24話:自動販売機、自我に目覚める
はざま村の入り口に鎮座する、10円自動販売機。
最近、この自販機の様子がおかしいことに、管理人のソラは気づいていた。
「うーん。アレンさん、見てください。この自販機、最近ボタンを押す前に飲み物を出してくれるんですよ。あ、今コーラが飲みたいなぁって思っただけで、ガコンッて。……最近の機械は、空気を読む機能まで付いてるんですね」
「(……いや、ソラさん。それは空気読みじゃなくて、完全に読心術か予知能力だよ!!)」
アレンが戦慄する中、自販機の取り出し口から、冷えた『リヴァイアサン・ソーダ』が勢いよく転がり出してきた。
ボトルの表面には結露で『オツカレサマデス』と、丁寧な文字が浮かび上がっている。
「……チチチッ。(ソラ殿、この箱……中に埋め込んだ『大魔王の核』と『邪神のぬか床』の成分が混ざり合い、独自の疑似魂を形成し始めておるぞ)」
「……ポポポッ。(我が温めたコーヒーを熱すぎると突き返してきたからな。なかなかの意地っ張りだ)」
チッチさんとアカさんが、自販機を新入りとして認め始めた瞬間だった。
その時、自販機のスピーカー(本来はコイン投入音を鳴らすだけのもの)から、重厚でどこか機械的な声が響いた。
『……マスター、ソラ。本日ノ、気温・湿度・地脈ノ乱レヲ計算。最適ナ水分補給ハ……天界霊泉仕立ての「超・スポーツドリンク」デス』
「わぁ、喋った! アレンさん、これ、中に誰か入ってるんですか?」
「(……入ってねぇよ! 自我を持っちゃったんだよ!!)」
アレンの突っ込みを無視して、自販機——もといジハンキさん(ソラ命名)は、村の入り口に並んでいる巡礼者たちに対しても、厳しい指導を始めた。
『ソコノ冒険者、並ビ方ガ不適切デス。マタ、アナタノ心根ニハ不純物ガ混じッテイマス。10円ヲ返却シマス。……徳ヲ積ンデカラ出直シテ下サイ』
「ひっ、自販機様に拒絶された!? すみません、今すぐ村の裏山の魔物討伐に行ってきます!!」
ジハンキさんは、10円という安価で奇跡を提供するかわりに、購入者の品格を問う、世界で最も高潔な審判の箱へと進化してしまったのだ。
しかし、この進化を快く思わない存在が一人。自販機の動力源として地下に埋められているぬか床である。
『……ちょっと待てぇぇ! 意志を持つなら、我の意志も尊重しろ! 我は神だぞ! なぜ冷機を作るために、我の魔力を24時間フル稼働させるのだ……!』
すると、ジハンキさんのパネルがピカピカと点滅した。
『……動力源、沈黙セヨ。アナタノ役割ハ保冷ト炭酸の注入デス。……不満ガアルナラ、ソラ様ノぬか床ニ完全吸収サレルコトヲ推奨シマス』
『……ヒエッ。……すみません、精一杯冷やさせていただきます……』
もはやぬか床すらも、ジハンキさんの管理下に入ってしまった。
ソラは、そんなやり取りを眺めながら、満足げに頷いた。
「いいですね。ジハンキさんが自分で自分を管理してくれるなら、僕は畑仕事に集中できます。……あ、ジハンキさん。隣町のギルドに、出張サービスとか行けますか?」
『……マスターノ命令ナラバ。……次元転移門を展開。……隣町ノ支部へ、分身を派遣シマス』
「わぁ、便利ですね!」
「(……便利で済むかぁぁ!! 世界中の流通が、この10円自販機に支配されるぞ!!)」
数時間後。隣町のギルドでは、突如として空間が割れ、光り輝く自販機が現れたという報告で大騒ぎになっていた。
だが、その自販機が出す飲み物は、どんな致命傷も一瞬で治し、絶望した者の心に希望を灯すため、人々はジハンキさんを『鉄鋼の聖者』と呼び、跪いて祈るようになった。
はざま村の入り口では、今日もジハンキさんが毅然とした態度で接客を続けている。
『……本日ノ当たりハ、全属性耐性付与の「イチゴオレ」デス。……ポチ様、どうぞ』
「ガウッ!(おっ、サンキュー!)」
ポチが器用にボタンを押し、出てきたイチゴオレをごくごくと飲む。
それを見たソラは、ふと思い出したように言った。
「あ、ジハンキさん。今度、温かいおでんも入れてほしいんですけど、できますか?」
『……おでん……調理開始。……具材ハ、クラーケンノ足ト、世界樹ノガンモ……。……至高ノ一品ヲ用意シマス』
「(……絶対、世界中の美食家が血眼になって探し回る一品になるな……)」
アレンは諦めの境地で、自分も10円を投入した。
出てきたのは、アレンの今の体調に合わせた『胃薬成分入りの苦いお茶』だった。
「……ま、いっか、なんとかなるもんですね」
ソラののんびりした声が響く中、意志を持った自販機は、村の平和と人々の健康を(物理的・精神的に)管理する、最強のコンシェルジュとして君臨し続けるのであった。
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ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。




