第22話:村の温泉は天国に繋がっている
はざま村の朝は、ソラの元気な掛け声で始まった。
「アレンさん、やっぱり健康が一番です! 昨日の風邪で思い知りました。村には体を芯から温める温泉が必要ですよ。湯治っていうのもありますし、みんなで入れる大きな露天風呂を作りましょう!」
「(……いや、ソラさん。昨日のアレ、風邪じゃなくて死神の呪いだったよね? しかも一晩で自力で浄化しちゃったよね!?)」
アレンがいつものように胃を押さえていると、ソラは庭の隅、ちょうどポチの犬小屋(神殿)の裏あたりにアタリをつけた。
「この辺りが良さそうです。ポチ、ちょっとだけ地面を掘るのを手伝ってくれますか?」
「ガウッ!(任せろ、ご主人! 穴掘りは番犬の特技だ!)」
ポチが三つの首を器用に使い、前足で地面を掻き出す。その一掻きごとに、並の地震計が振り切れるほどの振動が村を襲うが、ソラは「元気があっていいですね」と微笑んでいるだけだ。
数分後、ポチが掘った穴はすでに深さ数十メートルに達していた。しかし、水気は一向に出てこない。
「うーん、まだ浅いかな。よし、ちょっとだけ僕が手伝いましょう」
ソラは、腰に下げた『聖なる金槌(伝説の神具)』を軽く握り直すと、穴の底に向かってトン、と軽く地面を叩いた。
ドォォォォォン……ッ!!!
村の地下を走る地脈そのものが悲鳴を上げた。
ソラの一撃は、通常の温泉層を遥かに通り越し、世界の裏側にある冥界の熱源を貫通。さらにその反動で、次元の壁を突き破り、遥か上空にある天界の貯水池(神々の霊泉)へと繋がる最短経路を強引に開通させてしまった。
「(……おい、ゼノン。今の衝撃、惑星の地軸が数ミリずれた気がするんだが……)」
「……チチチッ。(案ずるな。地軸のズレより、あそこから噴き出してくる『モノ』の方が問題だ)」
次の瞬間、穴の底から黄金色に輝く濁流が、天高く噴き上がった。
「わぁ! 出ましたよ、温泉です! すごい、キラキラしてて綺麗ですね」
噴き出したお湯は、浸かるだけであらゆる病が完治し、失った手足すら生えてくると言われる天界の秘宝『至高の霊泉』であった。その湯気(神気)が村に広がっただけで、近くを飛んでいたカラスが神鳥へと進化し、庭の雑草(伝説の薬草)が更に変異していく。
「あら、良いお湯じゃない。私の肌がさらに輝いてしまうわ」
「ソラ様! これは……浸かるだけで女神の加護を得られる、伝説の聖域の泉ですわ!!」
ユウナとエルナが感激する中、ソラは「ピピさん、お湯の温度調節をお願いします!」と池に向かって叫んだ。
「ピピピッ!(了解です! リヴァイアサンの氷結魔力で、42度の適温に保ちます!)」
池のピピさんが、絶対零度の冷気を絶妙に混ぜ合わせる。本来なら天界の熱量と海竜の冷気がぶつかれば大規模な水蒸気爆発が起きるはずだが、ソラの「ま、いっか」という領域内では、なぜか「ちょうどいい湯加減」として収束してしまった。
夕暮れ時。村の入り口には、ソラが即席で作り上げた豪華な総檜造りの露天風呂が完成していた。
もちろん、動力源(お湯を沸かす予備加熱)は、地下に埋まったぬか床邪神。
『……我は……神……。天界の水を……我が魔力で追い焚きさせられるとは……。あぁ、神々のエキスが……染みる……』
「いい湯ですね、アレンさん」
ソラはアレンと一緒に、男湯の岩風呂に浸かっていた。
「……あぁ、そうだな。もう、何が起きてるのか考えるのも疲れたよ……。でも、確かにこの湯……体の芯から絶望が溶けていく気がする……」
アレンの胃痛が、天界の霊泉によって物理的・精神的に完治していく。隣の女湯からは、ユウナ、エルナ、そしてプリシラの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「……ポポポッ。(おい、三つ首。お前も入れ。毛並みがさらに神々しくなるぞ)」
「……ガウガウッ。(あぁ、真ん中の首が寝そうだ……)」
庭ではポチが三つの首を交互に湯船に入れ、アカさんは湯船に浮かべた桶の上で贅沢にひまわりの種を食べている。
「温泉を作って良かったです。皆さんがこんなに喜んでくれるなら、掘った甲斐がありました」
ソラが満足げに空を見上げると、そこには温泉の神気(湯気)に引き寄せられた天界の使者(天使)たちが、勝手に『はざまの湯』に入ろうとして、番犬ポチに「ガウッ!」と追い払われている光景があった。
「ま、なんとかなるもんですね。明日もまた、元気に畑仕事ができそうです」
こうしてはざま村には、入るだけで神性が宿るという、世界一危険で平和な温泉が誕生した。
今日もソラの無自覚な親切心は、世界の理を温かく、そして盛大に書き換え続けていくのであった。
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ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。




