第20話:神話級タコパ! 禁忌の海獣と黄金のソース
はざま村の広場(※ソラの家の庭)では、朝から賑やかな準備が進んでいた。
今日は新入りであるプリシラ姫の歓迎会。ソラは、村の入り口にある10円自販機の横に特設の長机を並べ、腕まくりをしていた。
「プリシラさん、村の生活には慣れましたか? 今日は歓迎会ですから、ちょっと豪華にたこ焼きパーティーをしましょう! ほら、丸くて可愛らしいですから、女の子にも人気なんですよ」
「た、たこ焼き……? 王宮の晩餐会では聞いたことがありませんわ。でも、ソラ様が仰るなら、きっと伝説の宮廷料理に違いありません!」
プリシラが目を輝かせる横で、アレンは冷や汗を流していた。
「(……いや、プリシラ。たこ焼きは庶民の味だよ。……ただ、ソラさんが言うたこ焼きが、ただのタコで済むはずがないんだ……。嫌な予感しかしない……)」
そう言いながら、ソラはふと縁側の隅に置いてあった白い布に目をやった。
「……あ、この布。そういえば、何に使おうと思ってたんだっけ」
それは、先日「丈夫そうだな」と拾ってきた、やけに光沢のある白い布だった。
ハサミでも傷一つ付かず、引っ張っても伸びない不思議な素材だが、ソラは特に気にしていない。
「まぁ、そのうち寝巻きでも作ろうかな。ちょうど今のパジャマ、少しくたびれてきてますし」
「(……は? 寝巻き? その布で!? いや待て、今の一瞬、空間が歪まなかったか……?)」
アレンが嫌な予感に眉をひそめるが、ソラはすでにたこ焼きの準備に意識を戻していた。
「アレンさん、ちょっと近所の海までタコを買い……いえ、釣ってきますね! ポチ、お留守番をお願いします!」
「ガウッ!(合点だ! 門番は任せろ、ご主人!)」
ポチが、尻尾をプロペラのように振って見送る中、ソラは軽装で禁忌の海域へと向かった。
その後。
世界の果て、荒れ狂う波が岩を砕く死の海の断崖に、ソラは立っていた。
「うーん、この辺りに大きなタコがいるって、ピピさんが言ってたんですけど……。あ、いました! ちょっと足が多そうだけど、これならみんなでお腹いっぱい食べられますね」
ソラが海面に投げ入れたのは、特製の『黄金のタコ壺(実は神話級の封印具)』。
次の瞬間、海が真っ黒に染まり、一隻の軍艦を赤子の手をひねるように粉砕する巨大な触手が、空を覆い尽くした。
伝説の魔獣『クラーケン』。
その一振りが島を沈めると言われる災厄の化現が、ソラのタコ壺に吸い寄せられていく。
「はい、釣れました! 意外と素直なタコさんですね。……よいしょっと!」
ソラが竿を引くと、空間がピキピキと音を立てて歪んだ。
スキル【万象創造】——対象の『食材化』。
「ギ、ギエェェェ……!? 我は……海の王……。それが、なぜ……この小さな壺に……!? 全身の筋肉が、強制的にプリプリした食感に書き換えられていくぅぅ!!」
クラーケンの悲鳴は、波音にかき消された。
ソラは、壺の中に綺麗に収まった(強制的に縮小・洗浄された)クラーケンを抱え、鼻歌まじりに村へと戻った。
村に戻ると、ソラは巨大な鉄板を用意した。
「チッチさん、火加減をお願いします! アカさんは、その横でソースを煮詰めてください!」
「チチチッ!(……心得た。この魔王の魔圧で、外はカリッと、中はトロッと焼き上げてくれるわ!)」
チッチさんが、神速の千枚通し(ピック)捌きを見せる。
「ポポポ、ポポッ!(……任せろ。古龍の焔で、ソースのコクを極限まで引き出してやる)」
アカさんが吐き出す微弱なブレスが、ソースの入った鍋を黄金色に輝かせる。
さらにソラは、隠し味としてぬか床の樽を叩いた。
「ぬか床さん、旨味が足りないので、ちょっとだけエキスを分けてくださいね!」
『……我は……神……。たこ焼きの……隠し味にするなぁ……。あぁ、我の神格が……鰹節のような香ばしさに変えられていく……』
こうして、伝説の海獣クラーケンを具材にし、魔王が焼き、古龍が熱し、邪神が味を整えた、『宇宙開闢以来、最も危険で美味いたこ焼き』が完成した。
「さあ、出来上がりました! 熱いうちにどうぞ!」
ソラが皿に盛り付けたのは、一粒食べるだけで寿命が千年延び、全ステータスがカンストしそうなほど光り輝く球体だった。
「……っ!? な、何ですの、この芳醇な香りは……! いただきますわ!」
プリシラが一口頬張る。その瞬間、彼女の背後に青い海と銀河の幻影が広がった。
「お、おいしい……! 全身の細胞が歓喜の歌を歌っていますわ! これ、王宮で出したら、間違いなく隣国と戦争になりますわよ!?」
「アレンさんもどうぞ。ほら、口を開けて」
「……あ、あーん。……モグッ。…………っ!!(美味すぎて魂が口から出そうになった!!)」
アレンは、クラーケンの吸盤が口の中で心地よく弾ける感触に、勇者としての全ての苦悩を忘れた。
池ではピピさんが「ピピピッ!(……かつての同僚が、こんなに美味しくなるなんて!)」と喜び、ポチは三つの頭で一度に三粒のたこ焼きを飲み込んでいた。
「ま、なんとかなるもんですね。みんなでこうして美味しいものを食べるのが、一番の平和ですから」
ソラがニコニコと笑い、自らもたこ焼きを口にする。
その背後では、満足した巡礼者たちが自販機の周りで踊り、はざま村はかつてない祝祭の空気に包まれていた。
——その日、はざま村の空に浮かぶ星座が、
『タコの形』に並び替えられていたことに、誰も気づかなかった。
読んでいただきありがとうございます!
星座がタコの形になるなんて、はざま村の空もだいぶ賑やかになってきましたね(笑)。
実は最近、累計PVに喜びを噛み締めています!
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次回もまたお会いしましょう!




