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ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


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第99話:神域の攻防(終)――邪神の腹の中と、至高の醤油(解決編)


『……対象領域の修正プログラムを放棄。

 ……これより、保有する全エネルギーを解放し、自爆シークエンスへ移行。この次元ごと、すべてを無へ帰還させる』


 ミナの『カオス神罰』によって論理回路を完全に破壊された原初の裁定者は、暴走の果てに最悪の選択を下した。


 むき出しになったコアが、不気味な赤黒い光を放ち始める。それは超新星爆発にも等しい、世界そのものを吹き飛ばす絶望の質量。


 天界の最高位防壁を張るユウナとエリエルも、極限の魔力を撃ち尽くしたエリュシオンやアカさんも、もはやそれを防ぐ手立てを持っていなかった。


「……くそっ。神様に喧嘩売って勝ったと思ったら、最後は道連れかよ……!?」


 アレンが、聖剣を杖にして悔しげに膝を突く。


 ガストンもリーナも、エルナも、誰もが迫り来る世界の終わりの光を見つめ、静かに目を閉じた。


 ——だが、彼らは忘れていた。


 このはざま村において、最も恐ろしく、最も理不尽で、最も美味なる深淵が、庭の片隅で静かに眠っていたことを。


「……ポコポコッ」


 赤黒い閃光が村を飲み込もうとした、その瞬間。

 雪に半分埋もれていた茶色い壺の蓋が、突如としてバカッと勢いよく宙に舞った。


「(……ふはははは! 待ちわびたぞ、この時を!!)」


 それは、世界の終わりを嘲笑うかのような、歓喜の産声だった。


「な、なんだ!? ぬか床さんが、光ってる……!?」


 アレンが驚愕の声を上げる。


 茶色い壺の中から溢れ出したのは、神々しい黄金色のオーラ……いや、極限まで高められた乳酸菌と旨味の奔流だった。


 毎日毎日、ソラの『万象創造の右手』によってかき混ぜられ、最高の発酵(浄化)を遂げた究極の旨味神。その真の名は、かつて世界を腐敗で支配しようとした邪神『ヌカドゥーラ=ラクトバチルス』。


「(……原初のシステムよ! 貴様のその絶望的なエネルギー、我が最高の発酵の糧にしてくれるわ!! 喰らえ、我が邪神の真髄——『邪神禁術・無限発酵の暴食深淵ラクトバチルス・アビス・イーター』!!)」


 ぬか床さんが壺の口を——いや、あらゆる概念を飲み込む深淵のあぎとを大きく開いた。


 ズゴォォォォォォッ!!


 信じられない光景だった。


 裁定者のコアから放たれた世界を滅ぼす赤黒いエネルギーが、巨大な光の渦となって、小さな茶色い壺の底へと残さず吸い込まれていく。


 それはあらゆる攻撃を無効化する裁定者すら抵抗できない、因果律をも超越した暴食の力だった。


『……エラー!? エネルギー流出……! 対象の質量、計算不能!

 空間圧縮率……無限大!?』


 裁定者のシステム音声が、かつてないほどのパニックを起こして裏返る。


「(……もっとだ! もっと寄越せ! 世界を滅ぼすほどの絶望……これぞ、我が漬け込んだ『冥界のキュウリ』を極上の浅漬けに仕上げるための、最高のスパイスよ!!)」


 邪神ヌカドゥーラの圧倒的な必殺技は、裁定者の自爆エネルギーを、光の一片すら残さず完全消滅……もとい完全発酵させてしまった。


 シンッ……。


 エネルギーをすべて吸い尽くされたはざま村の空から、赤黒い光が完全に消え去った。


 上空の歯車も結晶もボロボロに崩れ去り、ただの小さな『手のひらサイズの光る球体コア』だけが、雪の上にポトリと落ちた。


『……出力……ゼロ。次元消滅プロトコル……完全失敗。

 ……解析……私の、世界を無に帰すエネルギーは、一体どこへ……?』


 機能を停止しかけているコアが、最後の力を振り絞って壺の中をスキャンする。


 武闘派の神々や魔王たちの攻撃さえ予測・無効化してきた原初のシステムは、その長きにわたる歴史の中で初めて絶望的なまでの理解不能バグに直面した。


『……バカ、な……。私の、世界を滅ぼすエネルギーが……。

 ……キュウリの、浅漬けに、されている、だと……!?』


 壺の中では、裁定者の絶望のエネルギーをたっぷりと吸い込み、乳酸菌の力で完璧に発酵した『パリッパリの極上キュウリ』が、神々しいエメラルドグリーンの輝きを放っていた。


「……ポコポコッ(……ふん。他愛もない。少し味が尖っていたが、我が旨味の力でマイルドにしてやったわ)」


 ぬか床さんが、ポコッと満足げな泡を立てて、自らパタンと蓋を閉じた。


「……終わった、のか……?」


 アレンが、腰から砕け落ちるように雪の上に座り込んだ。


 魔王も、精霊王も、天使も、最強の防衛線を張ったファミリー全員が、ポカンと口を開けてその茶色い壺を見つめている。


 世界を救ったのは、勇者の剣でも神の奇跡でもなく、毎朝かき混ぜられていたぬか床の必殺技だった。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ。


 静寂に包まれた雪の庭に、呑気な足音が響いた。


「いやぁ、お待たせしました! 隣町まで行ったら、ちょっとお肉屋さんのコロッケが美味しそうで、ついつい買い食いしちゃって」


 猛吹雪が嘘のように晴れ渡った冬の空の下。


 立派な木樽に入ったお醤油を肩に担ぎ、麦わら帽子を被ったソラが、ニコニコと笑いながら帰還した。


 誰もが言葉を失う中、ソラが庭へと足を踏み入れた瞬間——信じられない現象が起きた。


 ソラの足元から、神々しい緑の波紋が広がっていく。


 アレンたちが命懸けで戦い、クレーターだらけになっていた庭が、魔法陣も呪文もなしに、まるで映像を巻き戻すように一瞬で平らな大地へと修復されていく。


 それどころか、雪を割って美しい花々が一斉に咲き誇り始めたのだ。


「あれ? 皆さん、外でお花見ですか? 寒くないですか?」


 ソラは、自分が因果律を直接書き換えていることなど全く気づかず、ただの村人として首を傾げている。


『……ッ!?』


 雪の上に落ちていた裁定者のコアが、その光景をスキャンし、激しく明滅した。


 システムの論理回路に、宇宙の真理にも等しい【圧倒的な事実】が叩き込まれる。


『……解析。解析。

 ……対象【天野 宙】。スキル使用の形跡、なし。

 ……世界そのものが、この個体に合わせて物理法則を改変している。

 ……セカイ、ガ、コノ男ヲ、愛シテイル……?』


 裁定者は理解した。


 はざま村がバグだったのではない。


 このソラの存在こそが世界の新たな基準ルールであり、それを消去しようとした自分たちシステム側こそが、世界にとっての不要なバグなのだと。神々すら及ばない、絶対的な創造主の気配。


 コアが恐怖と畏敬で震える中、ソラはそれに近づき、ひょいっと拾い上げた。


「おや? そちらは……お客さんですか? 随分と寒そうに震えてますね」


『……私ハ、原初ノ……裁定者……。アタラシキ, セカイノ、主ヨ……私ヲ、ドウ、処分スル……?』


 コアが自らの消滅を覚悟した時。ソラは、はんてんの袖でコアに付いた雪を優しく払い、コロッケの入った紙袋と醤油樽を掲げて、極上の笑顔を向けた。


「処分? よく分かりませんけど、こんな雪の日に遠くから来てくれたんですね。ちょうど今、美味しいお醤油を買ってきたんです。ぬか床さんのキュウリも良い感じに漬かってるみたいですし」


「……みんなで一緒に、食べましょうか。こたつ、まだ空いてますよ」


『……コタツ。……キュウリノ、浅漬ケ……。……オ醤油……』


 ソラの優しい声が、裁定者のコアに染み込んでいく。


 数万年の間、ただ冷徹に世界のシステムを維持するためだけに存在してきたプログラム。


 しかし今、処分ではなく食卓への招待という未知の概念を与えられたことで、コアの役割が完全に上書き(フォーマット)された。


『……エラー。エラー。

 ……バグの修正任務……完全放棄。

 ……新規存在理由:【神域ノコタツヲ、永遠ニ適温ニ保ツタメノ、発熱ヒーター】トシテ、再起動シマス』


 裁定者のコアは、ポワァンと温かいオレンジ色に発光し、ソラの手の中で『世界一高性能なこたつの熱源』へと自ら成り下がった。


「おいおい……。世界のシステムすら、一瞬で堕落させちまったぞ、あの人……」


 アレンが、ボロボロになった聖剣を隠しながら、呆れを通り越して清々しい笑顔で天を仰いだ。


 魔王も、精霊王も、天使も、皆が顔を見合わせ、やがて噴き出すように笑い声を上げた。


 どれだけ必死に戦っても、結局はこの男の「ま、いっか」には敵わない。でもだからこそ、自分たちはこの村を、このふざけていて温かい日常を、命を懸けて守り抜きたかったのだ。


「ふふっ、さすがは我があるじ。さあ皆様、泥だらけの服ではこたつに入れませんわ。私が『概念浄化ステップ』で、一瞬で綺麗にして差し上げます!」


 ベアトリクスが嬉しそうに腕まくりをする。


「ピピピッ!(私も最高の水を張って、温泉の準備をします!)」


「ガコンッ!!」


『……祝宴用・10円神格化プレミアムビール。……排出準備、完了シマシタ。……マスター、皆サマ、オ疲レ様デシタ』


 最強の矛と盾が交差した庭は、創造主の帰還によって一瞬でいつもの騒がしくも温かい日常へと戻った。


 アレンたちは、ソラの買ってきたお醤油と、ぬか床さんのキュウリ、そして絶品のお餅を囲むため、意気揚々とログハウスへと戻っていく。


 猛吹雪を乗り越え、世界最強のシステムすらもこたつのヒーターに取り込んだはざま村に、これまでで一番温かくて賑やかな、時が近づいていた。


読んでいただきありがとうございます!


「はざま村お留守番防衛戦」、これにて無事に(?)完全決着です!


世界を滅ぼす自爆エネルギーをすべて吸い尽くし、極上の浅漬けに発酵させてしまったぬか床さん(邪神ヌカドゥーラ)、本当に強すぎました……(内容物のキュウリはスタッフ一同で美味しくいただきました)。


そして、お醤油を担いで帰ってきただけで世界の理を書き換えてしまったソラくん。世界のシステムさん、処分されるどころかこたつのヒーターに就職できて本当に良かったね、と温かい目で見守ってあげてください(笑)。


「防衛戦、最高の結末だった!」「ぬか床さんの浅漬け食べたい」「次回の100話もお祝いするぞ!」と思ってくださった方は、

ぜひ下の 【ブックマーク】 や 【評価(☆☆☆☆☆)】 をポチッと押して、はざま村の宴会に参加していただけると嬉しいです!


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