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妖精とワイルドな王子様  作者: 爽健茶美
27/35

27 トム 






 アユミの部屋にいたレイは、突然のルカの訪問に驚いた。

 今日のレイは、神官長から頂いた紫宝石がはめられた銀色のブロックアイテムピアスをつけていた。


「レイ、頼む!どーにかしてくれ」


 ルカは鍛錬用の騎士服を着たまま、鍛錬前にも関わらず、半開きのドアにもたれてグッタリとしていた。

 

「あらルカ、どうしたの?鍛錬行かなかったの?」


 ルカは首を振った。


「それがよ、途中の廊下でマリーに会ったんだけどよ、もー顔が暗れーのなんのって!アユミかと思ったぜ」


 それを聞いたアユミが嫌な顔をした。


「ルカ、さすがにそれはちょっと」


「そうだよ、私に失礼だよ」

「暗すぎない?」


 この二人とは合わないから、アユミは思った。


「なぁ、アユミはトムとかいうマリーの男を知ってるのか?」


「え?うん、知ってるよ。前に聞いたことある。でもそうだな、いつぐらいからだったか急に会わなくなっちゃったみたい。その後マリーも様子がおかしくなっちゃったから、何となく聞けなくて」


 ルカはレイの横に来てソファに腰を下ろすと、レイのお茶を飲んだ。

 レイが「あ」と言ったが、全部飲み干されてしまった。


「ふーん、まぁいーや。とにかく、そいつが婚約したらしくてよ。あいつのフレンドから聞いたからまだ噂段階らしいんだが、あのマリーが超落ち込んでなんかスゲー地味になってんだよ!マジで……」


「私かと思ったんでしょ?もういいよ」


 アユミがいじけた。


「そうなの。でも、そんなことくらいで諦めちゃったら馬鹿みたいじゃない」


「軽チューくらいで別れる奴もいたけどな」


「マリーと話すわ」


 レイは華麗にスルーした。


 ルカが「後よろしくなー」と去っていくと直ぐにアユミが優しくレイの手を取った。


「私は、レイが普通だと思うよ」


「何のこと?」


「軽チューなんて、言い方が軽いだけだよ!」


 そして眉間に皺を寄せ「ルカって女の敵だよね」と憎々しげに呟くと「何かあったら相談に乗るからね」と心配されてしまったのだった。




 トムは、マリーの前で気を失ってしまった日以来、毎日マリーに手紙を書いていた。

 最初の頃はお城まで出向いたのだが、マリーから何も聞かされていない城の護衛達は、トムのことを単なる異世界人の熱狂的なファンの一人だと思ってしまい、追い払われてしまったのだ。

 手紙だけは何とか渡すことに成功したが、数多のファンレターの一枚に埋もれてしまっているせいなのか、いつまで待っても返事は来なかった。


 あの日、彼女は傷ついたに違いない

 会って謝らなくては


 気持ちは焦る一方だった。

 そのうち、風の便りにマリーがお城の若い騎士といい仲となったことを知った。

 トムは絶望した。

 

 やはり、私など相手にされなかったのだ


 それからトムは手紙を送るのをやめた。

 これ以上、迷惑な年寄りになりたくなかった。





 ルカから話を聞かされたレイは、一人でマリーのお部屋へ突撃した。

 声かけも無く入ってきたレイに、虚な目をしたマリーがソファに横たわったまま言った。


「レイ……ルカは……一緒じゃないのね」


 レイはマリーを見て、真っ青になった。


「マリーったら大変!お顔が整形前に戻ってるわ!」


「どうやって戻るのよ。でも、もう何でもいいのよ」


 マリーはスッピンで、盛らないお手入れフリーのパサついた金髪を変なゴムで後ろに一つに束ねていた。


「ねぇ、トム様のお屋敷へ行きましょうよ」


 マリーは力なく首を振った。


「もういいのよ。迷惑じゃない。婚約したんだから」


「それなんだけどね、どうやらガセネタっていうか、勘違いみたいなのよ」


 マリーが飛び起きた。


「どういうこと?」


 レイは、裏を取るためにフリードリヒ宰相経由で彼の部下にトムが婚約した噂の確認をお願いしていた。

 すると、婚約したのは東の領地を司るお貴族様のたまたま名前が同じ男性で、西の領地をもつマリーのトムとは全くの別人である事がわかったのだ。


 真相を知ったマリーの目が輝きを取り戻した。


「ね?だから思い立ったが吉日、直ぐに行きましょうよ。こんな風に落ち込むくらいなんだから、彼の事、まだ愛してるんでしょう?」


「でも……」


 珍しく歯切れの悪いマリーに、レイは驚いた。


「何かしら。本当にアユミに見えてきたんですけど」


「私達、もうしばらく会っていないの」


「だから?」


「私も……彼を忘れたくて男遊びなんかしちゃったし」


「評判も悪いし、彼に相応しくないと思うのよ」とマリーは下を向いた。

 テーブルの上に雫が数滴落ちた。


 レイはマリーをジッと見つめていたが、ため息をつくと言った。


「ねぇマリー。昔の事ばかり気にしていたら、後ろ向きの根暗オババまっしぐらよ?私なんかね、目の前でルカが他の女の子と粘膜と粘膜を接触させている所を目撃させられたことだってあったのよ」


「凄いでしょ?」とレイが思い出したように嫌な顔になった。


「それは……浮気現場を目撃したってことよね」


 言葉足らずなレイに、マリーが「ルカ、殺してやりたいわ」とスナイパーのような目つきになった。


「辛かったわよね、レイ。何かあったら何時でも私の部屋に来ていいからね」

 

「?ありがとう」


 またもや労られるレイだった。



 レイは、マリーを連れてトムのお屋敷まで来た。

 もう夕方だったので「明日にしない?」というマリーを引きずって「善は急げなの!」と無理矢理馬車に乗せたのだ。

 もちろん上から下までレイプロデュースのもとバッチリお洒落をさせてから。




「お久しぶりね」と気まずそうなマリーに、トムの執事は飛び上がって喜んだ。

 

「マリー様!お久しぶりでございます!」


「突然来てしまって御免なさい。トムは……」


「申し訳ございません、ご主人様は只今外出されておりますが、もう間もなく、いえ直ぐに!お戻りになられますので、どうかどうか中でお待ちください!」


 それを聞いたレイは、御用があって護衛から外れたランドルフとライリーの代わりに護衛騎士としてついてきてくれたニールに「私はすぐ戻るから、楽にして待っててね」と声をかけ、お屋敷の中へお邪魔した。

 執事はテンパリながらも侍女達にお茶菓子と紅茶を用意させ、二人を応接間に案内した。


 そして、頃合いを計ってマリーに話をし始めた。


「マリー様がお屋敷を出られました後、トム様はマリー様宛に何通もお手紙を書いておられましたが、数多のファンレターとして処理されてしまったようでした」


 マリーは、実はお手紙の事は知っていたので黙っていた。


「お城にも向かわれましたが、熱狂的な異世界人信者と勘違いされたのか、邪険に扱われてしまったそうです」


 執事は残念そうに言った。

 マリーは目を見張った。

 そんなことは知らなかった。


 それから執事は少しだけ口籠ると、意を決したように話し出した。


「実は、トム様はお小さい頃に事故でご両親を亡くされていらっしゃるのです」


「まぁ……事故で?」


「はい。申し訳ございませんが、私から申し上げましたことは」


「わかってるわ。内緒にしてあげるから、話して」


「ありがとうございます。あれはトム様がまだ7才だった頃なのですが、ご家族で乗られていた馬車の馬が突然暴れ、物凄い速さで走り出し、木にぶつかって馬車が横転してしまったのです。その際、旦那様と奥様はトム様を庇われまして。その後はご想像の通りでございます」


「そうだったの。それで血を見ると思い出すのね」


「はい。それからは騎士の鍛錬場にも顔を見せなくなりましたし、調理場も刃物で指を切る者がおりますので来られなくなりました」


「何てことなの。どうしたらいいの、私そんなこととは知らずに……」


 マリーが青くなっていると


「何を言っているのかしら」


 とレイが呆れたように言った。


「そんなことは、知らないに決まっているじゃない」


「それはそうだけど……」


「二人とも、最初からちゃんと相手に伝えておかなければわからないことだったのよ?」


「そうね」


「だからつまり、二人とも言葉足らずの、ただの、お馬鹿さんだった、ってことなのよ」


「何か腹が立つわね」


「でも仕方のないことよ。もう終わってしまった過去ですもの。お互い色々間違ってた、って事で無事解決じゃない。じゃ、私はもう帰るわね。これ以上ここにいたら大人の展開になるかも知れないし、マリーのそういうお声とか聞きたくもないから」


 執事が耳まで赤くして下を向いた。


「失礼ね!私だって嫌よ!」


「あら、それなら邪魔者は消えた方がいいじゃない。末永くお幸せに。執事さん、私はお城へ帰るから、マリーは今夜はここに泊めてあげてね」


「かしこまりました」


 強引に話を進めるレイにマリーが焦った。


「ちょっと、勝手なこと言わないで!まだ彼と話もできていないのよ?図々し過ぎるわ」


「それなら問題はないよマリー」


 いきなり扉からトムが現れた。

 執事はホッとし、マリーが固まった。


「すまないね。とっくに着いていたのだが、つい話の途中で入りにくくなってしまった。しかしマリー、僕はあの日から君以外目に入らないんだ。毎日君のことを想っていたんだよ」


 それを聞いたレイは、毎日?怖いから、と思ったがマリーはポロポロと涙を流して喜んだ。


「私も、本当はあなたが良かったの、本当は」


「わかっている。私達はお互い一目惚れだったじゃないか」


 そしてトムはマリーを抱きしめ、マリーの涙が落ち着くまで待った。

 そして、マリーの涙をハンカチでぬぐい、肩を優しく撫でてから「少しいいかい?」とマリーの足元でそっと跪いた。

 皆が、?となっている中、トムはどデカいブロックアイテムリングをよくある映画のワンシーンのように箱をパカッと開いてマリーに見せた。


 マリーは、ルカのピアスの価値を聞いていたので、それよりも遥かに大きいサイズのリングに目を見張った。

 

「こちらの世界では婚約指輪は左手の真ん中の指にはまるんだが、マリーの世界では薬指にはめると聞いたよ。だから私は、もう一年以上前からこちらの世界用とマリーの世界用の二種類のリングを作らせておいたんだ」


 レイもその価値を知っていたので、


 マリーったら良かったわね

 別れたら高く売れそうよ


 と、失礼な事を考えていた。


「マリー、愛している。私には君しかいないんだ。君に会えない間、私は生きながら死んでいた。もう決して君を離したくない。どうか、私の妻になってくれないか?」


 それを聞いたレイは


 会えない期間をスッ飛ばして

 いきなりプロポーズなんて誰が受けるの?

 これだからオジイは


 と密かに思っていたが、マリーが「こちらこそ、よろしくお願いします」と泣きながらトムに抱きついたので、お邪魔虫は退散とばかりに、執事さんと共にそっと部屋を出た。


 ハンカチを手に感動の涙がおさまらない執事に見送られたレイは帰りの馬車で


「ねぇねぇ、聞いて?ちょっと凄い事が起きたの!」


 と、半ば無理矢理馬車に乗せた護衛騎士のニールに、マリーの婚約話を順を追って聞かせてみたのだが


「へー、あーそーなんだ、よかったねー」


 と反応が極薄だったので、全くもって面白くなかった。

 そして、その鬱憤を晴らすべく、ニールと似たような反応のルカに夜中まで熱く話して聞かせたため、「レイ、何でも買ってやるからもう勘弁してくれ」と言われてしまったのだった。






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