26 隣国にて プレゼント
パーティーから何日か過ぎ、暇を持て余していたレイとルカは、貴賓室の廊下の壁にある謎の赤いボタンの前に立っていた。
「気になるわ、何かしらこれ」
「押してみろよ」
そしてドキドキしながら「ポチッとな」と押してみた。
これといって音も鳴らなければ、何も起こらなかった。
「ギャハハハ!昭和かよ!何だよ「ポチッとな」って」
ルカが、お腹を抱えて笑い転げた。
「あら?今は昭和がブームなのよ。大体ルカだって、子供の頃ゴミ収集車に乗って現れるヒーローアニメの再放送観てたじゃないの」
「お前まさかそれ、ヤッターマ◯じゃねーよな」
「そんなお名前だったかしら?」
レイが首を捻った。
隣国の王妃様付きの侍女の一人は、異世界人の入国時にルカを見かけ、一目惚れをした。
なんて素敵な方なの
異世界人の方々は生涯収入も安定しているし
殆どの方々が平民と婚姻を結ぶと聞くわ
我が国に滞在されるのも数日しかないのだから
勇気を出して後悔しないようにしなければ!
侍女は、異世界人歓迎パーティーに顔を出すことはできなかったが、鍛錬場へ向かうルカと自分の仕事の休憩時間が大体同じ時間帯である事を知り、思い切って挨拶だけでもしてみることにした。
「ごきげんよう、ルカ様」
「よぅ侍女ちゃん、どうした?」
人見知りという言葉を知らないルカが、ニヤリと笑った。
「いえ、あの、その、ルカ様はお耳に沢山のピアスをつけていらっしゃいますね」
侍女は、まずは挨拶から!と思って話しかけていただけに、思いの外フレンドリーなルカにテンパり、変な質問をしてしまった。
しかし、ルカは全く気にしない様子で耳を触った。
「これか?まぁ、こっちじゃ珍しいかもな」
「はい!とてもす、素敵だと思います!!」
「おーありがとな、侍女ちゃんも可愛いーぜ」
ルカは、必殺その気があるような気がしちゃうセリフを無意識で使ってしまった。
「かっ!?あああありがとうございますっ!!それで、あ、あのルカ様は、どのようなデザインのピアスがお好きなのですかっ?」
「んー?まぁ、シンプルなやつ?」
「そうなのですね!わかりました、あの、ありがとうございましたっ!!」
侍女はペコリとお辞儀をすると、急いでどこかへ去って行った。
翌日、侍女は貯めていたお金を用意して、超お高いブロックアイテム専門店へ向かった。
シンプルなデザインなピアスをたっぷりと時間をかけて厳選し、これなんか素敵だわ!と思ったものを、「プレゼント用に包んでください」と、ルカ好みであろうピアスを購入した。
たまたま、隣国への出店を目論んでいたブロックアイテム専門店のレニー店長は、珍しく女性が購入する場面を目撃したので、店員に話しかけてみた。
「あちらは……珍しいデザインのピアスですね」
「はい。新人デザイナーの作品で、一点物です」
「このお店は、女性のお客様も多いのですか?」
すると店員は、途端に冷たい態度になった。
「さあ?偵察ですか、レニー店長」
レニーは驚いて、店員の顔を見た。
知り合いでは無い、と思った。
「失礼、お名前を失念してしまったようで」
「名乗ってないので、失念はしないでしょうね」
店員は意地悪く答えた。
レニーは、?になった。
「私もね、フィンレーで貴方のお店に行ったんですよ」
レニーは更に驚いた。
まだ駆け出しの自分のお店に、こんな老舗の店舗から偵察に来てくれていたとは、夢にも思わなかったのだ。
「う、嬉しいです!来てくれてっ」
レニーは感動したが、店員はため息をついた。
「全く、あなたは憎めない人ですね。その金髪縦ロールの女性のような見た目、同業者の間では既に有名人なんですから、気をつけた方がいいですよ」
レニーは幸せそうに笑って店員にお礼を言うと、ブロックアイテムを一通り見させてもらってからお店を後にした。
ルカのピアスを購入した侍女は、支払いを済ませプレゼントを受け取ると足早に去って行ったので、とっくにいなくなっていた。
ダメでもともとよ!
当たって砕けろだわ!!
次の日の朝、前にルカと出会えた時間にお仕事の休憩をもらい、プレゼントを持ってルカを探していると、レイと一緒にいるルカを見つけてしまった。
ルカはいつもの通り、レイにベタベタしていた。
二人は、一目で恋人同士とわかった。
侍女は、とりあえずプレゼントを持ち帰った。
そして傷心から少しだけ落ち着いた翌日。
侍女は、ダメ元だったのだし、せっかくルカ様のために買ったんだし、軽いプレゼント感覚で渡そう!と、今度は一人で廊下を歩いていたルカに駆け寄った。
「あの、ルカ様、突然申し訳ございません。もうすぐご帰国されるそうですが、あの、私からお餞別があるのですが」
「お、プレゼントくれんのか?ありがとな」
ルカはその価値も知らず、ニヤリと笑った。
侍女は心がポカポカして嬉しくなった。
ルカは少し困った顔をした。
「あー、俺も侍女ちゃんに何かやりてーんだけどよ」
「欲しいモンあるか?」と聞いてきたので、お返しなど期待していなかった侍女は慌てた。
「いえ、私が勝手にしたことですので!」
侍女はブンブン手を振って遠慮した。
ルカが「ま、どっちにしろ今は何もねーから今度な」「はい!あ、プレゼントはこちらなんですが」と二人が話していると「何してるのー?」とレイが現れた。
「ハッ!レイ様!こ、ここれは違うのです!」
侍女は浮気現場を見つかってしまったかのような気分になり焦りまくったが、ルカは涼しい顔で言った。
「レイ、侍女ちゃんが俺にプレゼントがあるんだってよ」
「あら、そうなの」
レイは、日頃からファンクラブのある人気者のルカに慣れていたので何とも思わなかったが、侍女は真っ青になった。
「も、申し訳ございませんっ!!ルカ様にはレイ様というお美しい恋人がいらっしゃるというのに、図々しい真似を……」
レイは侍女の震える手の中にある小さなプレゼントの箱を見た。
「あら、でも貴方それ、誰かに使い道があるの?」
「……いいえ」
侍女は肩を落とした。
「それなら可哀想よ。ルカ、貰ってあげて?」
「よろしいのですか?」
侍女が上目遣いに聞いた。
「もちろんよ。私は、心の広い女なの」
「マジか。お前は本当に優しいよな」
もともとレイの許しなど無くても貰う気満々だったルカが、のたまった。
キラキラしたプレゼントの箱を開けると、赤いベルベットのような布の上に乗った、紋章模様の金色ピアスが入っていた。
「お、金か。ま、シンプルでいーじゃん。侍女ちゃん、ありがとな」
「いえ!気に入ってくださって嬉しいです!」
侍女はバッと頭を下げた。
「まぁ!素敵なピアスじゃない。よかったわね、ルカ。それじゃあ私もファンからもらったものを身につけさせてもらうわね」
レイがルカから目を逸らして後半を早口で言った。
ルカが、ジロリとレイを睨んだ。
「何だよそれ。それならダメだ、ナシナシ」
「もう決めたもん」
「はーん?お前さてはお前もうもらってんな?」
「ハッ」
「子供か!で?誰からもらったんだよ」
「知らない。名もなき神官長様よ」
「アイツか!」
「ああっ!」
「お前マジで変なとこ抜けてるよな。まーそこが可愛いんだけどよ」
そしていつも通りルカはレイにキス魔になり、人目を憚らずラブラブ状態になった。
そして「ま、俺もつけることだし、プレゼントくれーいっか」と譲ってくれた。
侍女は、ルカに手渡したキラッキラの上等なプレゼントをチラ見しながらラブラブな二人を前に、あれ結構高かったのにもうヤダもん、となっていた。
精霊祭が終わって帰国した後、ルカがエル神官長と廊下ですれ違った時のこと。
神官長の袖から、小さなカードがヒラリと床に落ちた。
「神官長様よ、何か落としたぜー」
ルカが拾って見ると、それはルカも持っている、あの金髪縦ロール男子の名刺だった。
ん?
これってアイツんとこの本店か?
ルカは王都で、冒険者アイテム専門店の帰り道、金髪縦ロール男子に跡をつけられたことがあった。
彼は、闇属性から心を読まれないというブロックアイテム専門店の店長だったのだが、異世界人のルカに、最近王都に建てた支店の広告塔になって欲しくて近づいてきたのだ。
何となく面倒臭そうだったので断ったが「せめて名刺だけでも!」と半ば無理矢理渡されたのだった。
「ありがとうございます」
エル神官長が風魔法でサッと名刺を手に取ると、ルカが何か話し出す前に「では、失礼」と風と共に瞬間で目の前から消えてしまった。
何だアイツ……
ルカは色々考えて沈黙した。
隣国の侍女からもらったプレゼントのブロックアイテムは、アルフレッド王子が目ざとくルカのピアスに気付き、その価値を教えてくれた。
何と恐ろしいことに、平均月給のおよそ三倍から五倍というからドン引きだ。
侍女ちゃんに悪いことしたな
そこそこのお値段のヘアアクセサリーをレイと選んでお返しにあげたルカは思った。
ん?ちょっと待てよ
アイツからレイがもらったプレゼントってまさか!
ルカは自分はフツーにもらっておきながら怒った。
「あんな高価なモン渡しやがって!ふざけんな、下心見え見えなんだよ!」
そこに偶然通りかかった新人のイシュメル神官は
ルカ様がまたお怒りになっていらっしゃる!
この間も怪しげな雑誌を真剣に読んでいらしたし
全く私とは絶対に合わない方ですっ!
と恐々道を変えたのだった。




