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妖精とワイルドな王子様  作者: 爽健茶美
28/35

28 エリザベス






 レイが、アユミと一緒にマリーの部屋でお喋りを楽しんでいたある日、フリードリヒ宰相の婚約者であるエリザベス公爵令嬢が、レイに会いに来てくれた。


 彼女はよくいる、ザ•悪役令嬢そのままの容姿をしていて、レイ達に比べて高身長だったが、出るところはマリー以上の、金髪碧眼縦ロールの吊り目な派手顔美人さんだった。

 しかし、身に付けているドレスは、意外にもフリフリのついた可愛らしい薄ピンクのガーリーなものだった。


「皆様、ごきげんよう。レイ様は、初めまして、ですわね。もうご存知かと思いますが、わたくしがエリザベスですわ」


「エリザベス様、初めまして。レイと申します」


 レイ達は、とりあえず席を立ってこちら世界風な挨拶をした。

 するとエリザベスは「あら、どうぞそのままお座りになって」と言ってくれた。

 そしてエリザベスは、レイのソファの向かい側でアユミの横に腰を下ろすと、ソワソワしながら上目がちに聞いてきた。


「レイ様、わたくし前々から一度レイ様とお話をしてみたいと思っておりましたのよ。今日はとても嬉しいですわ。何からお話をいたしましょう?そうですわ、レイ様はわたくしに関して何か質問などはございますかしら?」


 レイが少し考えているとエリザベスは「何でもよろしくてよ」と美しく笑った。


 気になること?

 うーん?


 と考えたレイは「何でもよろしくてよ」と言われたので、初対面ではまず聞かない属性の質問をしてみた。


「ちなみに私は絶望的な光なのですが、エリザベス様の属性は何ですか?」


 エリザベスがキョトンとした顔になり、エリザベスの侍女もハッと顔を上げてレイを見た。


「レイ!」

「レイ、失礼だよ!」


 マリーとアユミが焦ったが、エリザベスはニコニコと快く答えてくれた。


「あら、よろしくてよ。わたくしの属性は土ですわ。今は私のお庭を三ヘクタールほどしか耕せておりませんが」


 マリー達はホッとして、レイは感心したように頷いた。


「そうなのですね。では、お野菜など作られたり?」


 レイが聞くとエリザベスは、まさか!という顔をした。


「いいえ?平民でもあるまいし。わたくしに相応しく美しいお花ですわ。耕すのは栄養のある土に空気を含ませ少し固めて水はけをよくしたりするためですの。今度、レイ様にもわたくしのお花達を差し上げますわね」


「ありがとうございます。私もお花は大好きです。でも、くださる前にきちんと確認なさってくださいね」


「確認?何をですの?」


 エリザベスが再びキョトン顔になったので、レイが熱弁した。


「くださるなら育てる必要のない、すぐに飾れる切り花の方が好ましいです。また、花粉がついてしまったらおしまいな百合と、よく嗅いだら一体何かしらこの香りは?という菊もアレですので、それ以外のお花でお願いしたします。それから、虫がいないことをトリプルチェックくらいしてからください」


「わかりましたわ」


 この部屋にいたエリザベス以外の者たちは


 プレゼントだっつーのに

 いちいち注文が細けーし

 うるせーな


 とルカが憑依したように思っていた。



 そのうちレイとエリザベスは、美しさと引き換えに大変なこと、について話しだした。


「エリザベス様、私は先日の隣国の歓迎パーティーで、他国の王子様から声をかけられたと申しますか、ナンパをされたのですが」


「まぁ!ナンパですって!?わたくしにもよく起きることですけれど、レイ様のそれは、この間の精霊祭の時のことですわね?」


 エリザベスは驚いたように目を見開きレイは頷いた。


「ええ。それで、そのお方が表現も難しいほどに私の苦手なタイプで、あまりの辛さに精霊様がお迎えに来られるかと思ったんです」


 そしてレイは、何とかその王子に出会わないよう工夫したこと、なるべく恋人のルカと一緒にいるようにしたこと、などを話した。


「……という訳で、私はその手の心配が尽きないのです」


「まぁ、レイならわかるわね」

「うんうん、私もわかるよ」


 マリーとアユミも頷いた。

 エリザベスも力強く二人に同意した。


「わたくしもわかりますわ。レイ様は本当に妖精のようにお綺麗なお方ですもの。それこそ、わたくしと並んでも恥ずかしくないくらいに」



 この二人、気が合いそう


 皆の心が一つになった。


 エリザベスと気が合いそう?なレイは、実際に話してみると彼女は何でも正直に話す、素直な人だと感じていた。

 

 そう言えば、聞きたいけれど

 まだ聞けていないことがあったわ


 レイは、自分と同い年であるエリザベスの放漫な肉体を、上から下までたっぷりと観察した。


「何ですの?」


 エリザベスが瞬きをしながら不思議そうに聞いた。


「いえ。ただ、フリードリヒ宰相様も、エリザベス様の魅力的なお姿にメロメロなのでしょうね、と考えていただけです」


 すると、エリザベスが途端に嬉し恥ずかしそうに頬に手を当て、クネクネした。


「まぁ!それはその通りですわ。優秀で素敵な彼と美しい私とは似合いだと、よく言われますもの」


 レイは、強く頷いた。


「やはりそうですよね、よくわかります。ちなみになんですけど、エリザベス様は処じ……」


 マリーがレイから借りて持っていた雑誌でスパーンとレイの頭を叩いた。


「痛っ!何をするのかしら、もう」


 レイは横に座っていたマリーを見ながら、殴られた自分の頭をなでなでした。

 向かいのアユミとエリザベスは、何が起きたか理解できずポカンとしていた。


「さすがに私もそれは聞かないわ!」


 マリーが青筋を立てた。


「そうかしら?でも、宰相様は普通に一般的なその手のお話をされていたわよ」


「あなた、そんな事聞いたの!?」


「何ですの?フリードリヒが何を話したのです」


 エリザベスが食いついてきたのでレイは、言ってもいい?的な視線をマリーに送った。

 マリーはもう手遅れだから知らない、的な諦めの目でレイを見た。

 アユミはレイとマリーの心を読んで、固まった。


「ええと……何と表現したらよいのかしら。ですから、エリザベス様は宰相様と男女のご経験がおありなのかどうか、またどのくらいお進みなのか、そこのところを詳しく伺いたかっただけなのです」


 するとエリザベスは、みるみるうちに茹でダコのように真っ赤になってしまった。


「まぁ!まぁ!まぁっ!そのような、何ということ!何ということーっっ!!」


 そして両手で顔を隠して立ち上がると、お行儀良く?歩幅の狭いギリギリな公爵令嬢早歩きで、慌てる侍女を引き連れて部屋を出て行ってしまった。


 マリーは、ほら言わんこっちゃない、とレイを睨んだ。

 アユミもあまりの衝撃に口が開いたままになっていた。


「お花摘みにしては大急ぎね」


 レイは肩をすくめた。


「あのね、言っとくけど彼女、ああ見えて結構稀に見るウブなのよ。私達の立場が保護されているから良かったものの、平民ならきっと刑罰ものよ?後でちゃんと謝罪しなさいよね」


 レイは驚いた。


「そうなの?でも、いかがなものかしら。あのお身体をお持ちでまだ使われていないなんて……」


「あなた、人の話聞いてる?」


「……宝の持ち腐れもいいところよね」


「使わなくても腐らないわよ」


「……というよりも、フリードリヒ宰相様は、あのお身体を目の前に何も致せないなんて、もはや拷問よね。戒律の厳しい僧侶にだってなれるんじゃないかしら」

 

 マリーはもう何も言わなかった。

 アユミは頭痛がするのか、こめかみを抑えていた。

 するとレイがふと何かを思いついた。


 ハッ!

 まさかそんな……

 もしかすると私は

 大きな勘違いをしているのかも知れないわ

 そうよ、何故気が付かなかったのかしら

 その可能性があるということに!!


 レイは、フリードリヒ宰相の姿を思い浮かべた。


 あんな容姿をお持ちでいらして

 こんな残酷なことってないわ!

 こちらの精霊様は血も涙もないのね

 私だって、もしルカがここにいなければ

 フリードリヒ宰相様を狙っていたのに!

 いえ、そこは神官長様かしら?

 まぁとにかく!

 少なくともお二人の間で

 心が揺れ動いたことは間違いないわ!


「そうよ、もしかすると……男性として、とても悲しい何らかのご事情がおありになるのかも知れないわ。もう迂闊にその手のお話をすることはやめておきましょう。私はそういう配慮ができる女性ですもの」


「あなた、声に出ちゃってるわよ」


 マリーとアユミが呆れる中、レイは顎に手を当て勝手に何かを納得していた。



 そしてこの日以降、レイはフリードリヒ宰相の執務室前を通り過ぎる際に扉を見つめ、何かに同情するような顔つきで通り過ぎるようになった。

 執務中だったフリードリヒ宰相は、時々あったドア越しに自分に向けられた何かしら非常に失礼な感情を感じとり、今日はペンを置くとすぐさまドアを開けて廊下を見渡したが、そこには少し先でレイが振り返り、オバチャンの挨拶のように体を折って深々と頭を下げられただけだった。




 エリザベスとの初対面から数日後、王都で購入した可愛らしいお菓子のお土産と一緒に先日の謝罪に伺おうと思っていたレイの元へ、エリザベスから百合と菊を除いたゴージャスなブーケが届いた。

 ブーケにはピンクのリボンがついたカードも刺さっており、そこには、「この間は突然お花摘みに行ってしまって御免なさい」という、そんな訳ないですよね文言が、可愛らしい文字で書かれてあった。







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