戸棚から
僕達がやってきた場所は、僕達にも覚えのある場所だった。
「あれ、ここ僕達がニンジンを運んできた……」
「そうなのですか? ……そういえばここのお店で最近、新商品を作って売れたと自慢しているのを聞いたような気が……」
僕の言葉にミミがそう答える。
どうやらあの美味しいジャムは、新商品であったようだ。
そう僕が思っているとフィスが歩いて行って店のドアを開く。と、
「いらっしゃ~い……フィス、どうしたの?」
「“宝玉”の関係でお話が」
「……今日はお店をしめるしかないね」
そう言ってうさ耳のお姉さんは、僕達が入るとともに臨時休業の看板を掲げてしめる。
そして僕達に、
「ここまでニンジンを運んでくれた人たちも仲間だったのかしら?」
「いえ、違うのですがこちらでたまたまあっただけです。ですが信頼は出来る方々です」
「そう、だったら案内してもいいわね」
そう兎の耳のお姉さんは僕達に言ったのだった。
離れの工房でニンジンのジャムを作っているらしい。
甘くて美味しそうな匂いがする。
後でここで購入しようと思いつつそこで兎の耳のお姉さんが、
「これ、渡しておくわね」
そう言ってミミに透明な球を一つ渡した。
握り拳くらいの大きさのもので、お菓子の入っている戸棚から出てきた。
そして、その戸棚から今度はパイのようなものを兎の耳のお姉さんは取り出して、
「とりあえずお客さん用のお菓子を……どうしたの? ミミ」
「あの、今そこにあったのが宝玉……」
「ええ。でもこんな場所にあるとはだれも思わないでしょう?」
そう、兎の耳のお姉さんは悪戯っぽく笑ったのだった。




