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殺意のバタフライ・エフェクト  作者: 知恵利一


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第二章 リトライは数字の羅列から

ここからは古きガジェットが出てきます。

これはこの物語のキーアイテムとなり、様々な思考を巡らすことに。

何かは読んでのお楽しみ!

 最悪の推論が、脳細胞という名の基盤をショートさせる。

(まさか、あいつ――駅で別れた後に、独りで「あの場所」へ向かったのか?)

 嫌悪を伴う思考が、僕の脳内を泥靴で駆け巡る。

 あの「事故」――否、あの日曜日の朝、テレビのブラウン管越しに僕の心臓を射抜いたのは、明確な悪意の産物たる「事件」の報道だった。

 その瞬間の僕は、心身喪失という言葉すら生温い、魂の空洞に陥っていたのだ。

「あの時、我儘に付き合って、ゲームセンターへ同行していれば」

「あの日、見栄を張らず、彼女を玄関先まで送り届けていれば」

 無意味な「たられば」の積木細工。僕はその罪悪感に耐えきれず、事件の記憶を脳の最深部、光の届かない暗黒へと封印した。忘却という名の、最低で最悪の自己防衛。

 そんな僕に、やり直す資格などあるのか?

 これは奇跡か、あるいは神による悪質な皮肉か。

 自問自答を置き去りにし、僕は駅へと疾走した。五つ先の駅。物理的な距離にして数キロ、時間にして数十分。しかし、ホームに滑り込んできた鉄の塊に飛び乗った僕にとって、その時間は永遠という概念を視覚化したかのように長く感じられた。

 駅名のアナウンスが終わり、ドアが開く。

 陸上競技の号砲を聞いたかのような反射で、僕は改札を飛び越える勢いで走り出した。

(この駅で、ゲームセンターと言えば――あそこだ!)

 過去という時間軸に身を置きながら、過去の記憶を掘り起こすという、脳が捻じ切れるような奇妙な感覚。

「頼む――松木、そこにいてくれ!」

 不夜城のごときネオンが、周囲の暗がりを無遠慮に、そして頼もしく照らし出す場所に着く。自動ドアの開放を待つ時間さえ惜しく、肩をぶつけるようにして店内へ。

 視界を埋め尽くす筐体の群れ。僕は十機ほど並んだUFOキャッチャーの列を、飢えた獣のような眼差しで走査する。

(あった! あの、呪わしいほどに愛らしいぬいぐるみだ!)

 だが、周囲に松木の姿はない。焦燥が喉を焼く。

「くそっ! どこだ……!?」

 アーケードコーナーへ。

 そこには、格闘ゲームのレバーを親の仇のようにガチャつかせ、ディスプレイの向こう側の敵に興奮の眼差しを向ける、生身の、紛れもなく生きている松木の姿があった。

「よ、よかった……間に合ったんだ」

 膝の力が抜け、僕はその場に無様にへたり込んだ。

 その気配を察したのか、彼女は僕を発見するなり、静謐なはずの店内をつんざくような大声を上げた。

「あー! アンタ、結局来るんじゃない! ツンデレの教科書通りのムーブね!」

 周囲の視線が針のように刺さるが、そんな痛みは彼女の生存という事実の前では無に等しい。

 その後、彼女の要求に屈し、十戦ほど対戦という名の蹂躙に付き合わされた。一勝もできず、僕に残されたのは疲労困憊の肉体だけ。けれど、その後に見せた彼女の屈託のない笑顔が、僕の疲労を特効薬のように霧散させていった。

「ねえ、ねえ! このぬいぐるみ、私の推しキャラなの! アンタが獲りなさいよ!」

 千円近い対価を払い、ようやくクレーンの爪がその獲物を掴み上げた時、松木の満面の笑みを見て僕は自分を納得させた。(損は……していない。彼女の笑顔には、これくらいのインフレ率が妥当だ)

「お前の家、ここから近いんだろ? 送るよ」

 不安の種は、まだ僕の心臓の裏側に根を張っている。

 玄関の鍵を閉めるまで、見届ける必要があるのだ。

「そこまでしなくていいわよ。……アンタ、今日の挙動、おかしくない? 妙に優しいというか、あるいは何かの宗教にでも勧誘しようとしてる?」

「そ、そうか? 僕はいつだって慈愛に満ちた聖人君子セイントだよ」

「……まあいいわ。でもホント、家までは歩いて五分もかからないし。親に見られたら面倒なことになるから」

 彼女はぬいぐるみを愛おしそうに抱きしめ、「また明日」という希望の言葉を残して闇へと消えていった。僕は念のため、事件の現場となるはずだったゲームセンターの裏手へと回る。

 雑多な空間。沈黙。何かが起きるような予兆も、不穏な気配もそこには存在しなかった。

 過去は、書き換えられたのだ。

 ――ようやく、自宅に辿り着いた。

 自転車を停め、懐かしい木製の玄関を開ける。

「孝太郎! あんたこんな時間まで何やってたの!」

 鼓膜を震わせたのは、懐かしの重低音――母親の怒声。

 その顔を見た瞬間、僕の視界は、自分でも制御不能なほどの大量の涙で塗り潰された。

「――母ちゃん」

「ちょっ、あんたどうしたの? 悪いものでも食べた?」

 無理もない。ホームレスとして社会の底辺を這いずっていた五十歳の僕にとって、母の顔は二十年以上も前に失われた「聖遺物」に等しい。三十の頃、癌で亡くなったと聞かされたあの日。僕の世界が真っ白になり、人生のハンドルを投げ出したあの絶望。

 その母親が今、目の前で、元気すぎるほど元気に僕を叱りつけている。

「生きてる……!」

 思わず抱きつこうとした僕を、「気持ち悪いんだよ!」という無慈悲な突っ込みと共に頭部への衝撃が襲った。

 父は幼い頃に他界し、この家には僕と母の二人だけ。居間に用意された夕飯を、僕は嗚咽と共に胃に流し込む。母親がドン引きしているのを感じながらも、その温かさに、僕はただ感謝を捧げるしかなかった。

 食後、風呂で汚れを落とし、二階の自室へと踏み込む。

「……うぅ」

 またもや涙が溢れた。僕が家を出た当時のままの、不器用な少年の部屋。

 センチメンタルという名の感情の洪水に溺れそうになりながらも、僕は机に座った。

 今日という、あまりにも濃度が高すぎる一日を、振り返るために。


 僕は、なぜか死に、そして高校時代の決定的な分岐点へと回帰した。

 この現象が超心理学的な飛躍なのか、あるいは量子力学的なバグなのかを解明しようとするほど、僕は向こう見ずではない。なぜなら、その真理に触れた瞬間に僕の精神は、砂上の楼閣のごとく瓦解がかいしてしまいそうで怖かったからだ。

 だが、事実は一つ。松木の死は回避した。

 あの日、後悔という名の津波にさらわれた分岐点を、僕は自らの意志で、自らの筋力で、ねじ伏せたのだ。

 しかし――回避したからといって、それがなんだというのだ。

 このまま平穏という名の惰眠をむさぼり、青春を謳歌すれば、それで幕は下りるのか?

 「そんなにうまくいくものか」という、毒蛇のような疑問が脳内で鎌首をもたげる。

「……」

 やがて、視界の端で机が歪み始める。

 睡魔。それは死に等しい強制的な暗転。僕はそれに抗うすべを、持ち合わせてはいなかった。

 翌朝、耳をつんざくような目覚まし時計のベルによって、僕の意識は強制起動された。

「……この旧時代の相棒アラームを黙らせる作法を、完全に忘れているな」

 三十年前の遺物をどうにか鎮め、階段を降りて冷や水を顔に浴びせる。脳細胞が過剰に覚醒した、その時だった。

「孝太郎――このニュースを見て」

 眉間に深い溝を刻んだ母親の声に導かれ、僕は居間のテレビに釘付けになる。

《本日未明、東進台駅から約三百メートル先のゲームセンター裏で、女子高生と思しき人物が殺害される事件が発生しました。被害者は搬送先の病院で死亡が確認されました――》

 フェイクニュース。

 そう断じるには、画面の中の景色はあまりにも鮮明すぎた。

 僕の知る正史では、彼女の死は夜の十時。だがキャスターは「未明」と告げている。時間が、ズレている。ならばこれは、松木ではない誰かの受難ではないのか?

 朝食を拒絶し、僕は昨夜の戦場――ゲームセンターへと向かった。

 カサついた唇が、焦燥を物語る。東進台駅からの全力疾走。喉の渇きが肺をく。

 現場には、黄色の規制線が、まるで侵すべからざる聖域の境界線のように張り巡らされていた。

「……くそっ! どうにかして確認できないのか!」

 その時だった。鑑識の一人が裏路地から、一つの「遺留品」をビニール袋に封印して現れた。

「――っ! あ、あれは……!」

 紛れもない。僕が昨日、彼女に手渡した、あのキャラクターのぬいぐるみ。

 否定という名の盾は、粉々に砕け散った。

 なぜだ。回避したはずだ。救ったはずだ。

 僕はフラフラと飲食店の隅に腰を下ろす。

「どうなってんだよ……結末は、変わらないっていうのか?」

 因果律。一つの過程を書き換えても、世界が同じ結末へと帳尻を合わせようとする、執念深い修正力。

 僕は学校を放棄し、河川敷の土手に腰を下ろした。

 未来の僕が、ホームレスとして泥にまみれた寝床。結局、僕はあの絶望的な未来へと、最短距離で回帰しているだけではないのか。

 苦しい。逃げたい。この先の「答え」を知っているからこそ、僕は耐えられなかった。

「……死のう」

 独白。それは最も安易で、最も確実な終止符。

 ――その時だった。腰元でポケベルが、まるで心臓の鼓動を模倣するように激しく震えた。

《061102710》

 見慣れない数字。

 文字盤を持たないこの古代の通信機は、語呂合わせという名の暗号コードで感情を伝達する。《084(おはよう)》、《4649(よろしく)》、《14106(愛してる)》。

 だが、この数字は何だ。

 誰からだ。誰が、僕の番号を知っている。それよりも、語呂合わせですらないかもしれないこの数字。解読できる奴は……。

「心当たりがあるとしたら……あいつか」

 僕は制服に着替え、学校へと疾走した。

 昼休みの喧騒。そこで僕は、ターゲットを発見する。

「――いた」

 売店の行列から、コロッケパンと焼きそばパンという「炭水化物の暴力」を両手に抱え、幸せそうに歩く少女。ポケベルの操作を

「遠藤、ちょっといいか」

 遠藤美佳えんどう・みか。ルーズソックスに茶髪、薄化粧。ギャルとヤンキーの境界線上で踊る、僕の同級生であり、ポケベルへのメッセージをキーボードのタッチタイピングのように操る凄腕の持ち主。

「あっ、遅刻魔だ」

「常習犯みたいに言うな! ……それより、遠藤。お前に解読してほしい数字があるんだ」

 僕は彼女にポケベルの液晶を突きつける。《061102710》。

 松木が死んだという絶望のしらせはまだ世間、そして学校には伝わってない。ただ女子高生が亡くなったとだけ報道されただけだ。だからこそ僕はただ、この数字にすがるしかなかった。

「あー、あんたこんなのも判読できないでポケベル使ってんの? 義務教育の敗北ね」

「いいから! なんて読むんだ!」

 遠藤はパンが冷めるのを嫌がるように、足早に答えた。

「『もう一度やり直せ』……だと思うわよ」

 もう一度、やり直せ?

 何を。どうやって。

 友達が手を振る場所へと、去りゆく遠藤の背中を見送りながら、僕は暗号という名の呪文を、ただ見つめ続けるしかなかった。


 もう一度、やり直せ。

 遠藤美佳がパンの温もりを優先するために投げ捨てたその回答は、僕の脳内で反芻はんすうされるたびに、奇怪な毒気を帯びて膨れ上がっていった。

 やり直せ? 何を。どうやって。

 そもそも、この《061102710》という無機質な数列のどこをどう縦に読めば、そんな能動的かつ絶望的な命令文が浮かび上がってくるというのか。

 僕は校舎の屋上へと続く階段の踊り場で、独り、その小さな液晶画面を凝視する。

 解読だ。

 これは単なる語呂合わせではない。もっと執念深く、もっと悪趣味な、言葉のパズルだ。

(いいか、落ち着け。まずは分解だ。要素を分解し、再構築する。それがこの時代の、ポケベルという名の不自由な文明を使いこなすための最低限の作法だ)

 まず冒頭の《06》。

 これを「マル・ロク」と読むのは素人の浅知恵だ。ここは「マ」と「オ」――あるいは「モ」と「ウ」。即ち、「もう」。強引? ああ、強引さ。ポケベルの数字遊びなんてものは、元から解釈者の妄執によって成立している。

 続く《11》。

 いちが二つ並んでいる。イチ・イチ。あるいは「ひと」が二つで「ひとつ」。転じて、「いちど(一度)」。

 

(ここまではいい。問題は、その後の《02710》だ。ここがこの暗号の、心臓部にして劇薬だ)

 《0》は「まる」。

 《2》は「じ(二)」。

 《7》は「なな(七)」。

 《10》は「とお(十)」。

 繋げてみろ。「まる・じ・なな・とお」。

 「まる」を「ま」に、「じ」をそのままに、「なな」を「な」に、「とお」を「お」に。

 ……「まじなお」? いや、惜しい。

 《2》を「に」と読み、《7》を「な」と読み、《10》を「し(死・四)」の変奏曲として捉えるならば。

(「ま・に・な・お・し」――「やり直し」!)

 《0(や)》《2(り)》《7(な)》《10(おし)》。

 もはや日本語としての整合性など、この際どうでもいい。重要なのは、この数列が僕に対して「現状を否定しろ」と叫んでいるという事実だ。

 《061102710》。

 「もう一度、やり直し(0・2・7・10)」。

 

「……馬鹿げている」

 僕は独り、踊り場の壁に頭を打ち付けた。

 こんな強引な暗号を送りつけてくる奴が、僕の知人にいたか?

 いや、そもそもこれは、誰かの「悪戯」なのか。

 それとも、松木の死を「未明」へとズラし、僕の回避行動を無効化した「世界そのもの」からの、再テストの通知なのか。

 やり直せというのなら、やってやろうじゃないか。

 因果律が僕の善行を上書きするというのなら、僕はその因果の喉元を掻き切るまでだ。

 

 しかし、そのためには――。

 僕は再び、あの日へと、あの瞬間へと、バックトラックしなければならない。

 死という名の、不確実で暴力的なチケットを手に入れて。

 だが、やり直すにしても、その具体的な方法論を僕は持ち合わせていない。

 言葉で絶叫すればいいのか? あるいは、某ミステリー作品の主人公のように指を鳴らせば、世界は僕の意図に従って巻き戻るのか?

 前者を試みるにしても、神様を説得するためのパスワードが「開けゴマ」程度の平易なものだとは到底思えない。

 とりあえず、可能性を潰すために指を鳴らしてみる。

 「パチンッ」

 ……静寂。

 何も起きない。鼓膜を揺らしたのは、僕の指先が奏でた乾いた摩擦音だけだ。

「俺を一日前に戻してくれ!」

 青空に向かって、絶望を燃料にした咆哮ほうこうを投げつけてみる。しかし、大気は僕の願いを吸い込み、無機質に拡散させるだけ。奇跡の気配は微塵も存在しなかった。

(くそっ……! トリガーは何だ? どこにある!?)

 「やり直せ」というからには、そこには実行可能なインターフェースが用意されているはずだ。たとえその確率が無限にゼロに近いとしても、この閉塞した現状を打破するには、その「穴」を見つけるしかない。

 思考を研ぎ澄ませ。

 ポケベルに届いた、謎の文字列。

 この平成六年という、インターネットがまだ産声を上げたばかりの未開な時代。携帯電話という名の魔法の杖は一部の特権階級の玩具であり、情報のやり取りはもっと、物理的で、不自由だった。

 手紙ではない。直接の対話でもない。

 あくまで、ポケベル。

(……ポケベル。……待てよ、もしかして)

 僕はポケベルの電源ボタンを押し込む。

 画面が落ち、液晶は虚無を映し出す。

 ……変化なし。

 再度、電源を投入する。

 バイブレーションの微かな振動と共に、システムが立ち上がる。しかし、周囲の景色――古びた校舎も、喧騒も、僕の絶望も、一分一秒の狂いなく維持されたままだ。

(これも違うのか……)

 苛立ちという名の毒素が血流に混じる。その時だった。

 脳裏に、閃光のような刹那の思考がぎる。

 自分自身に、メッセージを送るのはどうだ?

 ポケベルによって運命が変容するというならば、ポケベルというプロトコルで返信を試みるべきではないのか。

 入力すべき数字。それはきっと、高度な暗号である必要はない。なぜなら、あのメッセージを送った「誰か」は、僕と同じように松木の死を、この救いようのない結末を、回避したいと願っているはずだからだ。

 だとしたら、採用されるべきは――この時代の、誰もが共有している最も平易な語呂合わせ。

 メッセージは、《もう一度やり直せ》。

 ならば、僕が返すに足る唯一の肯定文、即ち、合意の数字は――。

 僕は吸い寄せられるように、緑色の電話ボックスへと駆け込んだ。

僕は受話器を引ったくるのと同時に、焦燥しょうそうに震える手で財布をこじ開けた。

 指先を小銭入れの奥へと滑らせ、銅の感触――十円玉という名の通行許可証を探し求める。しかし、僕の指が触れたのは、冷たくて硬い、空虚な底だけだった。

(くそっ、こんな時に限って……!)

 絶望が喉元までせり上がったその時、視界の端に、今の時代(令和)ではもはや化石に等しい「懐かしい遺物」が飛び込んできた。

 それは、テレホンカード。

 通称、【テレカ】。

 磁気情報の羅列によって通話という権利を担保する、薄っぺらなプラスチックの板。現代のICカードのようなスマートさもなければ、スマホのような万能性もない。ただ「削られていくだけ」の、一方通行の消耗品。

 僕は迷うことなく、その薄いカードを公衆電話の挿入口へと叩き込んだ。

 機械が「ガギッ」という前時代的な咀嚼音そしゃくおんを立て、カードをその胎内へと飲み込む。

 直後、小さな、あまりにも小さな液晶画面に、無愛想なデジタル数字が浮かび上がった。

” 5 ”

 五度数。

 十円玉にして五枚分。

 ポケベルへメッセージを送信するという行為に換算すれば、わずか五回分という、心許こころもとない生存の残高だ。

 だが、今の僕にとっては、この「5」という数字こそが、運命という名の強大な銀行から引き出せる唯一の軍資金だった。

 呼出音が鳴る。

 僕は震える指で、自らのポケベル番号と、そして――僕の全存在を賭けた四桁の暗号を、力強くプッシュした。

 そして僕は、自らのポケベル番号をダイヤルし、呼出音が繋がった瞬間に、迷うことなくその四桁を打ち込んだ。

 《4649(よろしく)》

 ――託したぞ。

 受話器を置いた、その刹那。

 世界の解像度が急激に上昇し、あらゆる色彩が一点に収束したかと思った次の瞬間、僕の視界は圧倒的な「ホワイトアウト」によって蹂躙じゅうりんされた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

ようやく孝太郎は気付き始めました。

これは単なる「過去へのやり直し」ではなく、何者かによって与えられた『再挑戦の権利』なのだということに。

救ったはずの松木が再び命を落とし、届いた謎の暗号――『061102710』。

そして、自分自身へ送った『4649(よろしく)』。

果たして、このメッセージは未来の自分からなのか。

それとも、別の誰かからなのか。

そして、何度やり直しても変わらない運命など、本当に存在するのでしょうか。

物語はここから、タイムリープの謎と因果律との戦いへと加速していきます。

次回も、孝太郎の選択を見届けていただけたら嬉しいです。

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