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殺意のバタフライ・エフェクト  作者: 知恵利一


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10/19

第九章 リメイクは別世界線を描き出す

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

本話をもちまして、第一部は一区切りとなります。

当初は三人を中心とした物語で終わらそうとしましたが、文字数的に不完全と感じ、「まだ終われない」と二部構成にしました。

武沢たちの物語は今回で一つの結末へ辿り着きます。しかし、この世界そのものに残された謎は、まだ何一つ解き明かされていません。

そのため、本作以降から第二部へ突入します。

第二部では舞台もキャストも一新し、新たな主人公たちの視点から、この物語の本当の核心へ迫っていきます。

第一部の出来事が、どんな意味を持っていたのか。

ぜひ最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

また変わらず読者の方には、誤字脱字の指摘、ストーリーの矛盾点がありましたら遠慮せず仰ってください。

みなさんと作り上げしょう!

 天玉駅前のロータリーは、家路を急ぐサラリーマンやルーズソックスを履いた女子高生たちの喧騒で満ち溢れていた。

 薄暗い街灯の下、緑色の公衆電話ボックス。その狭いガラス張りの空間の中に、僕は一人で立っていた。

 ジリリ、と背後で駅の案内放送が鳴る。

 手元の腕時計の針は、午後七時四十五分を指そうとしていた。

 計画のタイムリミットだ。今頃、あの木造アパートの一室では、松木と遠藤が息を潜めて僕からの「シグナル」を待っているはずだった。熊谷の死体は、彼女たちの手によって、発見が数時間遅れるような絶妙な工作が施されている。

「……ふう」

 一つ、深く息を吐き出して、僕はポケットから一枚のテレホンカードを取り出した。

 度数は残りわずか。磁気レーンに刻まれた【2】の数字が、夕闇の中で頼りなく光っている。これが僕に残された、この世界を書き換えるための最後の弾丸だ。

 ガチャリ、と重い音を立ててカードをスロットに差し込む。

 受話器を耳に当て、ツーーという発信音を確認すると、僕は迷わずにプッシュボタンを押し始めた。

 狙うのは、熊谷洋平が持っていたあの「不発のポケベル」の番号。

 プッシュ音が、受話器の向こう側へと吸い込まれていく。

 ピ・ポ・パ・ポ・ピ・ピ・パ――。

 繋がった。電子の海を渡り、僕の指先が、あの凄惨な密室へと直通する。

 続いて入力するのは、警察の捜査の目を完全に欺き、僕たち三人以外の「架空の犯人」を仕立て上げるための、偽装の暗号コードだった。

『 8181(バイバイ) 』

『 093(ヤクザ) 』

『 4949(シクシク) 』

 あらかじめ松木から聞き出していた、熊谷が裏で繋がっていた街の不良グループのコードと、あいつが最後に怯えていたとされる闇組織の影。それを暗示する数字を、交互に、かつ正確に打ち込んでいく。

 警察がのちにこの端末を回収したとき、彼らは必ずこの通信履歴に着目する。熊谷は死ぬ直前、何者かによって脅迫され、呼び出されていたのだと。そこに「武沢」という平凡な高校生が介在する余地は、一文字たりとも存在しない。

 最後に、僕はもう一つの番号へダイヤルを切り替えた。

 僕自身の、ポケットの中で静かに眠っているポケベルへ宛てて。

 プッシュ音を響かせる。

 打ち込むのは、僕から僕への、そして僕たちをここまで狂わせたこの時間跳躍タイムリープという名のシステムへの、最後の「アップデート」のメッセージ。

『 0510(おーと) 』

『 39(さんきゅー) 』

『 1515(いこいこ) 』

 ――0510391515(アップデートは、もう終わりだ。さあ、行こう)。

 シャコン、と小気味いい音がして、公衆電話からテレホンカードが吐き出された。

 磁気レーンに刻まれた数字は、完全にゼロへと変わっていた。

 度数は尽きた。僕のタイムリープの旅は、今、この瞬間に文字通り「終幕」を迎えたのだ。

 受話器をフックに戻し、電話ボックスのガラス扉を押し開ける。

 夜の冷たい空気が、火照った僕の頬を撫でた。

「……終わったのね、武沢」

 街灯の影から、静かに姿を現したのは遠藤美佳だった。

 彼女はもうカッターナイフなんて握っていなかった。いつものように少し不機嫌そうな、けれどどこか晴れやかな瞳で僕を見つめている。

「ああ。これで全部、上書き完了だ。警察は明日、あの部屋を見つける。だけど、そこから先は僕たちの知らない歴史ストーリーが始まるはずさ」

「そう。……ねえ、武沢。あたしたち、これからどうなるのかしら。未来は変わっちゃうのよね? あたしが知っている、あの三十年後の、あんたがゴミ溜めで死んじゃう世界は、もうどこにも無くなっちゃうのよね?」

「無くなるさ」

 僕は笑ってみせた。

「これからは、ダンボールハウスも、二十三年の実刑も、何もない。ただの退屈で、だけど当たり前の平成の終わりが、僕たちを待っているだけだ」

 ふと、駅の階段の方を見上げると、そこにはいつもの気だるげな表情に戻った松木奈々が立っていた。彼女は僕たちと視線が合うと、小さく、本当に小さく、一度だけ頷いて、そのまま人混みの中へと消えていった。

 彼女もまた、自分の犯した罪の重さを背負いながら、けれど今度は「誰の身代わりでもない自分の人生」を歩き始めるのだろう。

 チカ、チカ、とポケットの中で、僕のポケベルが静かに点滅した。

 液晶画面に浮かび上がっているのは、先ほど僕が公衆電話から送った、あの最後の数字の羅列。

 送信失敗の文字はない。

 今度は、ちゃんと届いていた。

「行こう、遠藤」

「ええ、行きましょう。武沢」

 僕は遠藤の手をとり、明るい光で満ちた駅の改札へと歩き出した。

 ポケットの中の電子の箱は、もう二度と鳴ることはない。

 僕たちは、不完全で、愛おしい、この新しい歴史の1ページ目を、今ここから踏み出していく――。



第一部、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

武沢、松木、遠藤――三人の物語は、一つの区切りを迎えました。

ですが、この作品はまだ終わりではありません。

書き進めるほどに、「この世界にはまだ語るべき真実がある」と感じ、予定を変更して第二部を描くことにしました。

第二部ではキャストを一新し、新たな登場人物たちが登場します。

一見すると第一部とは別の物語に見えるかもしれませんが、伏線は散りばめられおります。

読み進めるほどに点と点が線となり、やがて第一部で残された伏線や謎へと繋がっていきます。

「あの数字は何だったのか。」

「タイムリープの正体とは何なのか。」

「すべての始まりはどこだったのか。」

その答えを描くための第二部です。

ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。

それでは、第二部でまたお会いしましょう。

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