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俺、戦術AI。チートなし、スキルなし、記憶なし。これで異世界を戦えと!?  作者: 六典縁寺院


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7話「同じ空」

ゴロゴロと喉を鳴らす音、

しっとりとした白黒の毛、

金色の瞳。


猫がミャオと鳴く。


「いってきまーす」


扉を押し開けると、外の空気が流れ込んできた。


(……ん?)


温度も、匂いも、違う。


乾いているわけでも、湿っているわけでもない。


油の匂いも、硝煙の匂いも、血の匂いもしない。


均一で、澄んだ空気。


地面は硬く、つまずきそうなほど平らに整えられている。


(逆に倒れそうだわ……)


同じような高さ、

同じような素材、

同じ間隔で並ぶ家。


車まで同じ形に見える。


「おーい! おはよー!」


後ろからの声。


制服のスカートを揺らしながら、黒髪の少女が駆け寄ってくる。


考えるより先に、口が動いた。


「おー、おはよー。こんな時間に会うなんて珍しいな」


「テスト前だから朝練なーい。てか今日、めっちゃ暑くない?」


「それなー、まじジャケットいらね。俺もスカートはきてーくらいだもん」


視線を下げると目に飛び込んでくる、白いシャツとジャケットの襟。折り目の付いたスラックスの先に、手入れのされていない革靴が見えた。


(士官服? 礼装服? にしちゃずいぶん軽装だな……)


遠くからヒューンという高い音。


(お……なんだ?)


振り向くと、“長い箱”のようなものが近づいてくる。


少女が目を細める。


「あれ? 空いてる?」


いつもは混んでいるはずの長い箱。それが、空いている。


箱は、速度を落とし――


目印の前で止まった。


「ま、混んでるよりマシだろ」


同じ服を着た、同じような世代の人間たちが“箱”に乗り込んでいく。


(これ、乗り合いバスか……)


空いていた二人掛けの席に並んで座ると、すぐにバスは動き出した。


少女はそのまま話しを続ける。


「てか昨日バ先でさ~、撤収直前に変なおじが入ってきてさ~。オメタンケーキ欲しいから今すぐ作れって言い出してさ~」


「うわだる」


「それな! てかそのケーキ渡す相手がさ~……」


「誰?」


「なんか有名な地下アイドルで、今日イレブンパークでやってる接触イベで渡したかったらしい!」


「きもっ! てか推しにday1ケーキ渡すなよ……」


会話の意味は分からない。


だが、楽しい。


(おぉ! これだよこれ! これこそ、理想の“つまんねー雑談”なんだよぉ!)


窓の向こう。ずっと奥に、高層ビルが見えた。


ひとつやふたつではない。


天に向かって、まっすぐに伸びる柱。それが、いくつも並んでいる。


競うように、上へ、上へと。


(なんだあれ……監視塔?……)


ビルの先――


青い空。


白い線を引く、小さな飛行体。


(……飛竜? いや違う……)


突然、少女がこちらを向き、顔を近づけた。


瞳の奥にある宇宙すら覗き込めそうな距離。甘い香りが鼻腔をくすぐり、不思議な気持ちがこみ上げてくる。


少女が口を開く。


「これが――『ニんほ』」


「ぇ……っ? な、なに……が?」


今度は振り返り、後ろに座っていた茶髪の少女に言った。


「私のいた世界――『ニんほ』」


茶髪の少女は髪をかき上げ、窓の外を一瞥する。


「へぇ……これが……」


風景が後ろへ流れていく。


黒髪の少女はバッグのポケットからスマートフォンを取り出した。


「私たちは、繋がっている」


「な、なに言――」


「紅血宝石。力量レンチ。魔導オシレーター……」


画面を左にスワイプ。


「突撃銃のレシーバー。多層外殻装甲《コンポジットシェル》のパネル、機筋原繊維《マイオフィラメント》の筋糸……」


手を伸ばしスマートフォンを前に掲げる。


画面に映る、三人の顔。


パシャ。


「脊柱拘束基幹《スパインロックコア》、魔導演算基盤《マドーボード》、空間歪知(わいち)センサー……」


パシャ。


「あるいは、別の世界にある覚え石(ヒストラサイト)……」


パシャ。


黒髪の少女は、撮影したばかりの写真を見せた。


「ほら」


画面に映っていたのは――


二機の八つ目カカシ。


「WSM-503」と「URA-226」


そして――ヒストラ。


由良《ゆら》は髪をかき上げ、顔を寄せる。


「つまり――どういうこと?」


ヒストラは画面を見たまま、淡々と答えた。


「恐らく……タイミングが重要なのだ」


「タイミング?」と和澄。


視線は画面から上がらない。


「例えば今日。私たちはいつもと違う時間に家を出て、偶然同じバスに乗り、偶然前後の座席に座り、同じ学校の生徒ばかりだからとと、いつもどおりSNS用の写真を撮った」


「いや……なんの話だよ」


「時間的な問題は解決し、技術的な壁も取り払うこともできた。あとは“実行”するだけだった。だが――何度“送還”を試みても失敗する」


和澄と由良の声が重なる。


「送還?」


ヒストラはスマートフォンをこちらに寄せ、画面を見せた。


《エラー。もう一度お試しください》


無機質な文字。


「送り方が悪いんじゃね? やり方変えて、もっかい送れば――」


和澄が言いかけたところで、由良が口を挟む。


「送るって、何を……いや――『だれを』と聞いたほうがいい?」


沈黙。


ヒストラが二人を見た。


「坊やたち――『戦術AI』を」





◇◆◇◆◇◆◇





海で、

山で、

森で、

そして、砂漠で。


あらゆる場所で、送信が試みられた。


エラー、

エラー、

エラー、

また、エラー。


成功しない。


ようやく完璧な条件が揃った――

そう思った時でさえ、結果は同じだった。


ヒストラはゆっくりと息を吐き、スマートフォンをしまう。


虚しい表情。

瞳に映る、ビル群。


空間歪知(わいち)レーダーが「敵意」や「脅威」を捉えるように、光学カメラには人の“表情”を読み取る機能が備わっている。


だがそれは、共感や結束のためのものではない。


あくまで“真偽”を見極めるための機能だ。


ヒストラの表情に――嘘はない。


和澄が軽く言った。


「ま、そう落ち込むなって。ワンチャンあるって」


「……お前さぁ」


由良はあきれた顔で、和澄の肩を小突いた。


「いやだって……自分で『タイミング』って言ってんじゃん? ずっと送信し続けてりゃ、そのうち合うだろ。タイミングなんて」


「空気読めよ……」


「例えばそうだな……次は、あんな感じの――」


和澄はひときわ高い建物を指差した。


「クソでっかい塔を『アンテナ』代わりにするとか?」


シンボルタワーの鉄骨が光を反射し、キラリと輝く。


「ふつーに考えて……通信って、ああいうの使うじゃん?」


ヒストラがつぶやく。


「……アンテナか」


そのとき。


通信が届いた。


……


―― 空襲警報発令|AIR RAID ALERT

警報レベル=MAX

発令時刻=T+00:00

避難指示=IMMEDIATE


……


空も、

ビルも、

バスも。


すべてが消える。


(お?)


遅れて、サイレンが鳴りはじめる。


(……戻った?)


ショールームの空気が、一気に張り詰める。


由良は一歩先に動き出していた。

ドア脇に立ち、退路を示す。


従業員が駆け込んでくる。


「空襲です! 地下シェルターへ!」


ドノヴァンはうんざりとした表情を浮かべ、ゆっくりと動き出した。


「ふん。忌々しいやつらめ……」


イノウエはヒストラの腰に手を添える。


「……行きましょう」


和澄は窓際に寄り、外を確認する。


ブラインドが降り、カーテンが引かれ、雨戸が閉められていく。


商店のシャッター前には人が殺到し、信号を無視した車が、ゾンビカカシを跳ね飛ばした。


子どもが転倒して――泣き声を上げる。


(どうせまたいつもの威嚇飛行だろ……)


光学カメラを空へ。


黒い点。


倍率を一気に上げる。


爆撃用の大型飛竜が二匹。


護衛用の中型飛竜が三匹。


(やるならさっさとやりゃーいいのに……ったく、何にビビってこんな無駄なことしてんだか……)


遠くから飛行音が近づいてくる。


編隊を率いる、“あいつ”の姿を捉えた。


召喚初日に自分を食った、片目の黒竜。


(いつか……ぜってー復讐《リベンジ》してやるからな……)


数秒で音量が増大。


街の上空を低空高速で通過。


数秒後。


衝撃音。


竜が旋回すると、空に白い線が描かれた。

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