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俺、戦術AI。チートなし、スキルなし、記憶なし。これで異世界を戦えと!?  作者: 六典縁寺院


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3/10

3話「武器と花」

民生用に偽装されたトラックの中で、和澄《わすみ》は目を覚ました。


……


―― 起動|BOOT ROM

UEFIバージョン=WSM

戦術AI=503


……


「四つの目」が起動する。


水平約150度、垂直約70度ほどの「視界」が、荷台に詰め込まれた十二機の戦術機巧体《カカシ》を捉えた。


(今日もこれだけか……最近こんなのばっかだな……)


幌の裂け目の向こうに、暗い町並みが見える。


作戦データに街の名前が載っていた。


(現在地は……知恵の街(ポリジェナ)……)


真夜中と呼ぶには遅く、朝と呼ぶには早い、その境界の時間。


風は冷たく、月はまだ空に残っている。


音はない。


だが――静寂でもない。


折れた街灯、

ひび割れた石畳、

燃え尽き、シャシーだけを残した乗用車。


そのあいだを、砂が流れていく。


剥離した壁、

むき出しの鉄筋、

ガラスのない窓枠にかかったボロ布。


そして、薄暗い光に照らされた人々。


虚空を見つめる者、

うつむいたままの者、

何かを抱えたまま離さない者。


この状態を人は――「疲労」


あるいは――「苦痛」と呼ぶ。


(なーんか……前とずいぶん雰囲気変わった?)


瓦礫を避けるため車が減速する。ふいに風が吹き、幌が大きくあおられた。


誰かが叫んだ。


――「でてけ、脳無し! でてけ!」


声は短く、鋭い。


顔の半分を包帯で覆った、片腕のない、幼い知恵人(ポリジン)。


その小さな目で、和澄を睨みつけている。


(ええと……誰だろ? 知り合い?)


「敵意」あり。


だが、脅威はない。


白い識別(シロ)。


(排除は……まだ、必要なさそうだ)


幼い知恵人は路地へ駆け込み、消えていった。


(暗いからコケんなよー)


和澄がまだ一つ目(オバケ)だった頃。


街は四重《よえ》の障壁魔法によって守られていた。


(そっかー……もうずいぶん前に感じるな……)


回想。


7.62mm弾、

60mm迫撃砲弾、

155mm野戦砲。


さらに大トビからの航空爆弾。


そのすべてが、障壁に波紋を広げるだけだった。


何度も、何度も、戦場に投入された。

何度も、何度も、撃破された。


何度も。


そして、二つ目(メガネ)にアップグレードされてしばらくして――


ついに、街への潜入に成功した。


現地協力者《うらぎりもの》によって密輸され、街の内部で再構築されたのだ。


(あれはキツかった……全身バラバラのまま一週間くらい箱の中だもんな……)


そこは、異様なほど整った空間だった。


街灯は過剰なほど明るく、

石畳は均一に磨かれ、

舗装は段差なく整えられている。


信号待ちをする流線型の魔導機巧車は、紅花色《ド・ピンク》だ。


建物の窓には、幾何学模様のレースカーテンが揺れている。


立ち話をする者、

急ぐ者、

幾重にも重なった衣装を揺らし歩く者。


電飾を巻き付けられた看板には、第一公用語で「新年祭」と書かれていた。


街灯の拡声器から、音が降ってくる。


「みなさん、こんばんは。スィーク・シリントラム商事のスィークです――」


透き通るような、男の声。

行き交う人々は立ち止まり、その声に耳を傾けた。


「そして――先人から受け継ぎ、我々が発展させた『巨大障壁魔法《ビッグ・バリア》』のおかげで今年も無事に年を越すことができました」


拍手が起こる。


「来年も、その次の年も、皆さまの協力のもと、しっかりとこの街を守っていきたいと思います。それではカウントダウンをはじめましょう!」


新年の祝祭。


それを終わらせたのは、和澄たちだ。


近づき、ナイフを突き立てる。


照準し、トリガーに触れる。


そして――



《自爆シークエンス開始。カウント、スタート》


……


――自爆|SELF-DESTRUCT

実行状態=ACTIVE

残り時間=00:00


……


任務完了。


好きも嫌いもない。

善も悪もない。


そうするしかない。

だから、そうする。





◇◆◇◆◇◆◇





和澄たちを乗せた偽装トラックは、幾度も通りを曲がり、廃墟となった建物の地下駐車場へと吸い込まれていった。


月明かりすら届かない空間。


車のアイドリング音だけが、構内に低く響いている。


荷台の幌は、まだ閉じたまま。


戦術宣言束《タクティカル・パケット》に耳を傾けていると、聞き覚えのある「声」がした。


(お?)


[04:23:03.168] TX CMD=BUDDY_REQUEST UID=URA-226 TARGET=WSN-503 MODE=STANDBY_PAIR COND=WAIT_STATE & TASK_OVERLAP TTL=8000 PRI=3 ACK=1 STAT=READY


……


(おお、お前か!)


「URA-226」からのバディ要請。


(オーケーオーケー、組もうぜ! 今日もよろしなー!)


[04:23:03.251] TX STATE UID=URA-226 PAIR=WSN-503 STATUS=BUDDY_STANDBY STAT=OK


……


最近よく会う同型機《いつメン》。


気になるあいつ。


それが「URA-226」――「由良」だ。


彼女を明確に認識したのは、この身体――“四つ目”になってからだ。


はじめは、たくさんいる同型機の一機だった。


しかし、何度も作戦を共にし――


気づけば、もっとも信頼して背中を預けられる仲間になっていた。


(まぁ、そうは言っても……あっちがどう思ってるか分からんな……)


由良の背中を見つめながら、和澄は荷台を降りた。


(今日の仕事は……)


作戦は、“秘匿情報”を握っている価値目標《ハイ・バリュー・ターゲット》の回収。


(なんか、すぐ終わっちまいそうだな……)


由良が「そんなもんだろ」とアンテナを揺らしたように見えた。


(しかしまぁ……けっこうな規模だな。よっぽど重要なヤツってことか?)


実行部隊は十二機の「四つ目」


支援部隊として四十機の「二つ目(メガネ)」が投入されている


(そろそろ、支援部隊が出ていく頃だな……)


車両制御や通行制御などを行うため、二つ目が数機づつ出ていく。


少しずつ、気づかぬうちに包囲は形成されていった。


正面通りの角に立つ検問所で、一機の二つ目(メガネ)が銃を持ち替えた。別の交差点では、車両がゆっくりとUターンし、遠ざかっていった。


走る者はいない。声を上げる者もいない。


裏手の細い路地、

教会の塀に沿った通路、

校舎裏の搬入口、

校庭へ続く勝手口。


包囲は完了している。


(じゃ……俺らも行くか)


実行部隊は二台のバンに分乗し、目標の潜む拠点に向かった。





◇◆◇◆◇◆◇





作戦開始。


04:30 ――

6バディ、十二機、同時突入。


04:30〜04:31 ――

主要導線遮断の2組が、階段・渡り廊下・結節点を同時に確保。

クリアリングの2組は未確認区画を潰し、退路を開く。


04:31〜04:32 ――

直行組、目標地点に到着。

HVTを分離、周囲との切断に成功。

予備の1組は修正に備え待機。


04:32〜04:34 ――

目標接触。

護衛が抵抗。

予備組が即座、これを吸収。


導線遮断は回収ルートを優先確保。

クリアリングは退路を確定。


04:34〜04:35 ――

直行組と導線遮断と合流。

クリアリングの支援下で後退開始。

予備組、抵抗を処理。


04:35〜04:36 ――

突入部隊の動きに合わせ、外周が流れを制御。

人と車両が、逸れていく。


04:36〜04:38 ――

裏門前の偽装バンに分乗

撤収。


離脱完了。


……


そして――


配管工事業者に偽装されたバンは、元の地下駐車場へ帰還する。


和澄が車から降りると、年老いた知恵人《ポリジン》が激しく暴れていた。


「ぬわーッ! この、脳ナシ悪魔め-! 離せッ! このッ、このッ! うああああー! ゔああああー!」


麻酔ガスはほとんど効いていない。


(魔法か魔導具の類《たぐい》だな? 魔力があると便利でいいねぇ)


暴れる老人を和澄と由良が押さえ込む。


(てか脆いぞ……気ぃつけろよ、由良……)


由良が力を調整する。


(いいぞ……もっと緩くても……)


二人の共同作業で、作戦を台無しにするわけにはいかない。


あまりにも抵抗が激しいため、和澄は支援を求めた。


(おーい! 誰か何とかしてくれ! 医療兵《メディーック》!)


生物用医療装備を身につけたカカシが現れ、目標の首元に注射器を突き立てる。


「ぬうっ! やめろ!」


(はいはい……もう無理すんなって……)


「クソッ、クソーッ! クソォォォォーーーー!」


(ごー、よーん、さーん……)


数えているうちに、老人の力が抜ける。


「む……ぇ……」


そしてそのままセダンタイプの車に収容され、どこかへ移送されて行った。


(じゃーなー! がんばれよー……)


ログが流れる。


……


―― 作戦終了|MISSION END

任務=COMPLETED

記録完了=TRUE

終了時刻=04:45:13.501


……


このまま別の任務を与えられるのか、それとも再び眠りにつくのか。


次の指令は来ていない。


(もう終わりかー……まじあっという間だったな……)


回収に備え整列する和澄たち。


列に加わろうとした、そのとき――


老人が運ばれてきたバンが目に入った。


(ん?)


開けっ放しの後部扉《リアゲート》。


置かれた異物《アノマリー》。


(んん? な……なんだあれ……)


そこにあるはずのない物。


花のつぼみが、一輪。


視界を拡大する。


(え……まてまて、おかしいおかしい、なんだこれ? なんでこんなことに、花!?)


始めからあったのか、老人が落としたのか。


茎の切り口はまだ瑞々しく、透明な水分がにじんでいる。


閉た花弁が幾重にも重なり合い、開花の時を待っている。


先端はわずかに膨らみ、今にも開きそうで、まだ開いていない。


どこにでもある、花のつぼみ――


(いや……違う……)


戦場での経験から、和澄は花の「正体」に気づいた。


偽物の花。


(……覚え石(ヒストラサイト))


統計的集合知識網《キオク》によるとそれは、異世界に存在する特殊な鉱石のひとつだった。


微弱な電撃魔法を断続的に与えることで、まれに周囲のものを模倣する性質を持っている。


だが、その制御は難しく、熟練の魔法使いですら片手間に扱えるものではない。


かつては宝石や貴金属の一種として重宝されていた。


――人間が「科学鑑定」および「初期化」手法を確立するまでは。


現在では宝飾品としての価値は、ほとんど失われている。


ところが。


武器としての価値は、別だ。


(これが敵の新型爆弾が……“開花反応型爆弾《ブルームタイプ・ボム》”ってやつか……はじめて見たな……)


すぐに建物は封鎖され、規制線が張られた。


建物の外には、警察車両やガス業者のトラックが集まってきている。


爆発物処理ユニット到着まで、数分――


誰もいなくなった建物の中。


二機のカカシが、“花見”を楽しんでいた。


(クソ……)


戦略システムが「WSN-503」と「URA-226」に、科学鑑定及び爆発物脅威評価を行うよう命令を出したのだ。


(はずれクジ引いちまったな……とりま、二人でやるか……)


和澄は並列処理用のデータ転送ケーブルを引き出し、由良に渡す。


(頼むから“開花”しないでくれよ……)


指先が割れ、中から細い針が突き出てくる。


センサーを花に当てる。


手のひらで、そっと包み込むように。


……


―― 対象検知|OBJECT DETECTION

対象ID=OBJ-4431

外観分類=FLORAL OBJECT

形状一致率=99.4%

異常兆候=MINOR STRUCTURAL VARIANCE


―― 初期スキャン|INITIAL SCAN

材質解析=有機物主体

高密度異物=微量

金属反応=TRACE

生体反応=POSITIVE(植物組織)


―― 詳細走査|DETAILED SCAN

内部構造=自然成長形状優勢

配線様構造=未検出

独立電源兆候=NONE

機械的構造体=NOT CONFIRMED


―― 起爆機構推定|TRIGGER ANALYSIS

圧力反応構造=NOT DETECTED

傾斜検知素子=NOT DETECTED

遠隔受信回路=NONE

起爆確率=<0.01


……


結果は、予想外だった。


(……あれ? もしかして……)


花のつぼみ。


限りなく――本物。


外見だけではない。


内部構造までも、完全に自然の有機構造を保っている。


(……爆弾じゃ……ない? いや、でも……違和感ありすぎるだろ……)


和澄は、別の分析アプローチを試そうと、腕から薄いフィルムのようなものを引き出した。


花に近づける。


(ん?)


視界の端が、わずかに歪む。


空間歪知(わいち)レーダーが異常な動きを見せる。


花が、淡く、光っている。


(んん?)


文字が浮かび上がる。


『

割れ割れ和

ハコ2話の

オ人んに形ギョー

』


第一公用語でもない。


連合国語でもない。


システム言語とも違う。


見たことのない文字。


『

MOTOノセ界ぇ気管支

ジョー今日woほう濃く白

』


(でも……どっかで見たような気も……)


文字は荷室をぐるりと見回り、二人に向かって泳いできた。


優雅で、美しい。


まるで、珊瑚に群れる魚。


(ちょちょちょ、ななな? なになになに?)


センサーやレーダーを確認する。


異常なし。


(どどど、どーゆーこと!?)


やがて、文字が口を開いた。


『

我々は

箱庭のお人形

』


(……我々? 箱庭?……)


『

元の世界へ帰還し

状況を報告しろ

』


かすかに残響を残し――


文字は、消えた。


(えええ……なになになに……怖い怖い怖い……)


知っている。


覚えている。


この言葉を。


そう思った、次の瞬間。


つぼみが、ゆっくりと開き――


花は、爆発した。

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