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社畜転生〜転生したら第5王子だったので、ダラダラ過ごしたいと思います〜  作者: 桔梗


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7.快適な王宮生活にさようなら

同行する人員は、護衛騎士が数十名、侍従が二人、現地事情に詳しい文官が一人、そして侍女が一人。


一国の王子の移動にしては質素な顔ぶれだったが、俺としてはむしろ歓迎だった。

人数が多ければ多いほど、気を遣う相手も増える。快適な移動とは、つまり気疲れの少なさでもある。


兄たちは誰も来なかった。


第一王子は政務、第二王子は近衛の演習、第三王子は使節の応対(本当のところは、どこぞの令嬢とデートだろう)、第四王子は学院視察。


理由はそれぞれもっともらしかったが、要するに、第五王子の辺境赴任など、わざわざ城門まで見送りに来るほどの出来事ではないのだろう。


別に傷つきはしない。

ああ、そういうものか、と思った。


城門前には、オズワルドが一人で立っていた。


「師匠!」


「殿下の見送りに参りました」


老人は白髭を撫でながら、いつもと変わらない顔で言う。


「ついてきてくれる気になったりは?」


「なりませんな」


ーーあっさりだった。


「私は宮廷魔法師です。北の果てまで王子の子守りに行くわけにもまいりますまい」


「……師匠、今、子守りって言いましたよね?」


「気のせいです」


ーーいや、絶対に言った。


だが、それでもほんの少しだけ心が軽くなったのは認めざるを得なかった。

オズワルドは懐から小さな革袋を取り出して、俺に差し出した。


「簡易魔石です。大したものではありませんが、役立つことでしょう」


「……ありがとうございます」


「それから」


老人は少しだけ目を細めた。


「殿下。何事も、全てを殿下お一人で背負おうなどとは考えぬことです」


俺は一瞬、言葉を失った。


「……そんなふうに見えますか?僕、こんなにだらしないのに」


「確かに、殿下はだらしなくて怠惰なお方です。ですが、それは殿下にもお考えがあってのことでしょう。この老耄はそう確信しております」


「それは……褒めてますか……?」


「褒めていますとも。だからこそ、殿下は仲間を作るべきです。いろんな者たちと出会い、関わって、頼ったり頼られたりしてみなされ。これが師匠からの最後の教えです」


その言葉は妙に、胸の奥へ残った。

前世でも、誰かに頼れたことなどなかったからだ。


老人は笑って、俺を馬車へ送り出した。


***


扉を開けて中へ入ると、向かいの席に、すでに当然のような顔で一人の侍女が座っていた。


「……リリア?」


「おはようございます、アルト様」


声は落ち着いていて、表情は薄い。

昔から変わらない、淡々とした顔だった。


リリアは、俺がまだ幼かった頃からずっと側に仕えている侍女だ。

十八歳になったばかりで、美しい金髪を高く結い上げている。口数は少ないが、よく気が利く。


そして、オズワルドと同じく、俺の本当の力を知っている数少ない人間でもあった。


ーー最初に気づかれたのは、たしか七歳の頃だったはずだ。


俺が寝台の中で保温結界を張ったまま熟睡し、ついでに菓子の保存箱までこっそり維持していたのを、あっさり見抜かれた。

王宮で俺が“平凡な第五王子”を演じ切れていたのは、オズワルドの教育だけでなく、こいつの根回しがあってこそだ。


「お前も来るのか?」


「私は、アルト様の侍女ですので」


即答だった。


「お前は王宮に残ってもよかったのに……」


「私がいないとアルト様は怠惰な生活などできませんよ?」


「……それもそうか」


「ええ、そうです」


反論できないのが悔しい。


「防寒用の下着は重ねてあります。馬車の中には厚手の膝掛けを二枚、寝台用の敷布を一枚、保存箱は三つ積みました」


「保存箱?」


「焼き菓子用、茶葉用、緊急用です」


「緊急用って何」


「殿下の機嫌が著しく悪化した時のためのものです」


「……俺、そんな扱いなの?」


「自覚がおありでないのが驚きです」


「……」


俺はこうして、いつもリリアに言い負かされている。


本来の力を出せば、馬車など使わずとも飛行魔法で向かえる。

だが、さすがに高位魔法である飛行魔法を扱えることを知られるわけにはいかない。


ましてや、これだけの人数と荷をまとめて運ぶとなると、いくら魔力量が多いと言っても、まだ試したこともない。空の上で護衛騎士ごと放り出すような事故を起こしたら、洒落にならない。


王宮から離れ、十二年間過ごした場所が、みるみる小さくなっていく。


ーー憂鬱だ。


できることなら引き返して、俺専用快眠結界の中に戻りたい。

だが、馬車は無情にも北へ北へと進んでいった。


出発して二日目の朝、俺は寝台代わりの簡易寝具の硬さに目を覚ました。


「……帰りたい」


「アルト様、まだ王都を出てから、二日しか経っておりませんよ」


リリアが、淡々と告げ、ちょうどよい温度の茶を差し出してきた。

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