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社畜転生〜転生したら第5王子だったので、ダラダラ過ごしたいと思います〜  作者: 桔梗


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3.幸か不幸か

幸いというべきか、不幸というべきか。

俺にはどうやら、生まれつき魔法の才があったらしい。


それも、たぶん、かなりーー。


最初の異変は三歳の頃だ。


昼寝から目が覚めた時、窓が少し開いていて、冷たい風が寝台の中に入り込んできた。

侍女を呼ぶのも面倒だった俺は、半分寝ぼけたまま、心の中でこう思った。


(窓よ、閉まれ)


その瞬間、ひゅっ、と風が巻いた。

カーテンが揺れ、窓が音もなく閉まった。


「…………」


俺は毛布にくるまったまま、しばらく天井を見つめた。


(今の、俺か?)


いや、他に誰がいる。


試しに、寝台脇のテーブルに置かれた水杯へ手を伸ばしてみる。

届かない、届くわけがない。

だが、強く「こっちに来い」と念じた瞬間、カタ、と水杯が揺れた。


ーーもう一度。


今度は意識して、指先から何かを伸ばすように。

すると、水杯は机の上をするすると滑り、俺の手元までやってきた。


「……は?」


三歳児とは思えない低い声が漏れた。

心臓がどくどく鳴る。どうしようもない高揚感だった。


(できた!俺、魔法使えた!!)


その日のうちに、俺はさらにいくつかのことを試した。


毛布の中だけ空気を暖める。

テーブルの上の菓子を音もなく引き寄せる。

本のページを手を使わずにめくる。

昼寝の邪魔になる物音を遮断する。


どれも、信じられないくらい簡単にできた。


もちろん、最初から完璧ではなかった。

菓子を引き寄せるつもりが皿ごと落としたこともあるし、風を起こしすぎてカーテンを巻き上げ、危うく大騒ぎになりかけたこともある。


だが、感覚はすぐに掴めた。


この世界の魔法は、意志と魔力で現象を組み立てる力だ。

そして俺は、その“組み立て”が妙にうまかった。


火力で吹き飛ばすとか、雷でどうこうとか、そういう派手なことはまだできないが、だいたいの魔法の仕組みがわかる。

しかも、俺は複数を同時に維持できる。

つまり俺は、天才というやつだ。


……うん。悪くない。いや、かなりいい。


***


ただし、すぐに理解したことが一つある。

この才能、絶対にバレてはいけない。


理由は簡単だ。


天才だと知られたら、教育が増える。

教育が増えたら、期待が増える。

期待が増えたら、仕事が増える。


ーージ・エンドである。


俺は前世で、その地獄の連鎖を嫌というほど味わってきた。

ちょっと仕事ができるだけで「あいつに任せればいい」と言われ、気づけば責任だけが積み上がっていく。


冗談じゃない。

二度とごめんだ。


だから俺は、魔法の才能があることは隠すことにした。

なんでも人前では、ほどほどにーー。


やる気のないちょっとおバカな第五王子。

勉強も剣もそこそこ。

魔法も“中の下”くらいに見せておく。


だがその裏で、俺はひっそりと魔法を磨き始めた。


目的はただ一つ。

より快適に、より怠惰に、生きるため。

人が聞けば呆れるような使い道ばかりだったが、俺にとってはどれも重大な研究だった。


たとえば、布団の中を適温に保つには、熱の循環を均一にしなければならない。

暑すぎれば寝苦しいし、ぬるければ意味がない。


防音も同じだ。ただ音を遮ればいいわけじゃない。

完全に無音では逆に落ち着かないから、耳障りな高い音だけを遠ざける。


菓子の保管空間に至っては湿度管理まで必要だ。

でないと焼き菓子がしける。


――そう、これは研究である。

怠惰のための、高度な研究なのだ。


その結果、俺の魔法は年々、妙な方向へ洗練されていった。


人類の進歩とは、本来こう使われるべきなのではないかとすら思う。


***


ーーそんなある日。


いつものように俺が自室でだらだらと本を読んでいると、扉の外から侍女たちの声が聞こえてきた。


「本日から、アルト殿下にも正式に魔法の講師様がつかれるそうですよ」

「まあ。ようやくですのね」

「ええ。アルト殿下もついに六歳になられましたし」


俺は本をめくる手を止めた。


(……ついに来たか)


王族として避けて通れない、魔法教育。

いずれ始まるとわかってはいたが、いざその時が来ると、胸の奥がひやりとした。


まずい。非常にまずい。


下手をすれば、隠してきたものが一気に表に出る。

いや、落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。


要は“普通”よりも下に見せればいいのだ。

いつもの通りにやればいい。


そう自分に言い聞かせた、その翌日、俺は自分の考えの甘さを呪うことになる。


「では、アルト殿下。まずは基礎の確認から参りましょう」


そう言って、白髭の老教師が机の上に置いたのは、拳大の透明な水晶だった。


「こちらは魔力水晶。手を添えて、軽く魔力を流してください」


俺は一瞬だけ、嫌な予感を覚えた。


軽く、とは言うが。

俺にとっての“軽く”は、世間一般の軽くと同じなのか?


(……まあ、たぶん、大丈夫だろう)


そう思って軽く触れたのが、間違いだった。

水晶は一瞬、まばゆく輝いた。


ーー次の瞬間。

ぱきん、と、実に涼やかな音を立てて、水晶が真っ二つに割れた。


「…………」


「…………」


部屋が静まり返る。


俺は割れた水晶を見下ろし、教師は俺を見下ろしていた。

数秒の沈黙ののち、老教師は震える声で言った。


「アルト殿下」


「はい」


「……今、加減はなさいましたか」


「……」


ーーまずい。これは、かなりまずい。


俺の静かで快適で責任のない第二の人生に、早くも暗雲が立ちこめ始めていた。

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