2.今世は勝ち組確定です
気がついたら、俺は泣いていた。
「おぎゃあああああああ!!」
自分でも引くほどの大声だった。
おぎゃあ?何だこれ。声が高い。体が小さい。手が丸い。うまく動かない。っていうか、視界がぼやけるし、首も据わってない。なんだこの状況。
「まあ、お元気ですこと!」
「殿下は今日もご壮健でいらっしゃいますね」
知らない女たちが、顔を寄せ合って微笑んでいた。
全員、やたらと綺麗な服を着ている。
天蓋つきのベッド。刺繍の入ったカーテン。柔らかな絨毯。磨き抜かれた調度品。
どう見ても、病院ではなかった。
そして俺は、泣きながら理解した。
あ、これーー転生だ。
しかも、かなり良いところに生まれている。
その後、赤ん坊なりに周囲の会話を聞き集め、言葉を覚え、這いずり回り、つかまり立ちをし、気づけば確信に変わった。
俺はどうやら、王族らしいーー。
国の名は、レイヴェルト王国。
父は国王、クロード・ヴァン・レイヴェルト。母は側妃のアルステラ・レイヴェルト。
そして俺の名前は、第五王子、アルト・レイヴェルト。
そう、第五だ。
第一じゃない。第二でもない。
最初にそれを知った時、俺は心の中で万歳三唱した。
(勝った……!)
王子といっても、第一王子なら大変だ。
幼い頃から帝王学だの政略だの、胃が痛くなる未来しか見えない。
第二も危うい。第三も怪しい。第四あたりでもまだ油断はならない。
だが、第五だ。
上に四人もいる。最高じゃないか。
よほど上の兄たちがまとめてやらかさない限り、王位なんて回ってこない。
下手に期待されず、かといって衣食住には困らない。
これ以上ない、完璧なポジションだった。
(今世、勝ち組確定だ!!!)
ーー俺は誓った。
この身分を最大限活用し、起きたい時に起き、食べたい時に食べ、眠くなったら昼寝をし、季節のいい午後には庭でぼんやり空を眺める。
絶対に働かない。
無駄に責任を負わない。
人の顔色を窺ったりしない。
それが俺の、第二の人生の目標で、それで十分だった。
少なくとも、その時の俺は本気でそう思っていた。
だが、この世界には一つだけ、俺の完璧な人生設計を根底から揺るがすものがあった。
――魔法である。
最初にそれを見たのは、一歳になったばかりの冬の朝だった。
まだ眠い目をこすりながら寝台の上で毛布にくるまっていた俺は、侍女が冷えた部屋の中で、暖炉の前に立つのをぼんやり見ていた。
彼女は薪に触れもせず、細い指をかざした。
「灯火」
次の瞬間、ぱちり、と乾いた音がして、暖炉に火が灯った。
「…………」
俺は固まった。
いや、三歳児の顔面なので、外から見れば「きょとん」としただけだっただろう。
(え、今の何。魔法?いや、魔法だろ。そういうやつだろ!?)
心の中で、盛大に叫んだ。
そうかーー王族に転生しただけではなく、ここはそういう世界なのか。
盛りすぎではないか、神様!?どういうサービス精神だ?
そして俺は、その瞬間に理解した。
この人生設計には、一つだけ修正が必要だと。
もちろん、目標は変わらないが、そこに新たな一文が加わった。
ーー魔法は別だ。
これは仕方がない。男という生き物は、何歳になっても、厨二病のようなものに抗えないのである。
それからの俺は、赤子なりに観察を始めた。
魔法で、より怠惰に生きるために。




